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第33話『こんなに気分が高揚したのは初めてだ』

「――一旦、休憩にしよう」


[いい感じ!]

[戦闘慣れしてきたね~]


 目標であるモンスター討伐数の半分、15体を討伐したところで壁際に体を寄せる。


「やっぱりさ、安心感が違うよね」

「わかる。しかも判断しやすいし」

「だよねだよね」


 ほぼ初心者同士が組んでいる割に、連携力が高まっていい感じに戦えるようになっていると思う。


 俺も俺で、最初こそ結界を恐る恐る展開していたけど、今では積極的に使用している。

 結界だけではなく、武器も。

 今のところは、全員が所有している剣と同じぐらいの光剣しか出せないけど。

 それでも威力はそこそこあって、たった一撃の出番だけど、ここら辺のモンスターなら1撃で討伐できた。


[スキル強すぎないか]

[二刀流はかっこよすぎ]

[持続時間とかはどれぐらいなんだろう?]


 視聴者も退屈せず、配信を楽しんでくれているようだ。

 現在の視聴者数は30人。

 ハルナとマキのおかげではあるけど、こんなに多くの人が俺の配信を観てくれている、と思うと少しだけ緊張してしまう。


「コメントであったんだけど、確かに持続時間は気になるところ」

「あー、言われてみればそうだよね」

「気にはなるけど、今は試さない方がいいと思う」

「なんでなんで?」

「だって、どんな反動的なものがあるかわからないじゃない。例えば、長時間武器を展開できていたとして、それが解除になったら再使用できるまで同じぐらいの時間が掛かったらマズいんじゃない?」

「なるほど!」


 俺が会話に参加していないのに話が進んでいく。


「ハルナとマキは凄いよな」


 と、つい心の声が漏れ出てしまう。


 当然、そんなことを唐突に言われたものだから2人は『どういうこと?』と顔に文字が浮かんでいる。


「だってさ、スキルのことについて俺より詳しい……っていうか、真剣に考えてくれて。それだけじゃなくて、いろんな意見を出してくれる。当然、俺は全然そんな考えが思い浮かんでない」

「仲間のことを真剣に考えるのなんて普通でしょ」

「そうだよそうだよ。逆に訊くけど、これがもしも逆の立場というか、私達もスキルを手に入れたらシンくんだって真剣に考えてくれるでしょ?」

「そ、それはそうだけど」


[わかるわかる。一方的な親切って、時に辛くもなるよな]

[なんかシンさんの気持ちがわかるかも]

[みんなほぼ初心者なんだし、仲間なんだからお互い様やなー]


 俺は、この――心が温かくなる感覚をどうしたらいいのかわからない。

 以前のパーティでは味わったことのない温かさ。

 ハルナとマキだけじゃない、視聴者まで優しい言葉を掛けてくれる。


「――ああ。お互い様なのかも、な」

「うんうん。私達だって、シンくんのスキルにめちゃめちゃ助けてもらってるんだしね」

「本当にその通り。しかも、パーティリーダーにして唯一のスキル持ちなんだから、みんなで考えるのは当然」

「もーっと強くなっちゃったら、最強探索者パーティに近づいちゃうもんねっ」

「なんだよそれ。俺達の目標はいつから最強探索者になったんだ」

「えー? せっかくなら、なりたくない?」

「まあ、それもありかもな」

「その目標が達成する日はいつのことやら。まず、私達がスキルを入手していない時点で超遠いよ」

「俺みたいに焦ってない限りは、まだまだスキルをとるべきではないな」


 と、完全に自虐ネタをぶち込んでしまう。


「じゃあ、そろそろ例のをやってみようと思う」

「おー、きたきた」

「楽しみ」


 今のパーティメンバーになって、初めての金槌を腰のポーチから取り出す。


「ほうほう、それが金槌ってやつなんだ」

「人生で初めて見た」

「そんな大それたものじゃないから、期待を寄せるものでもないよ」


 師匠が俺の発言を聞いたら、確実に「鍛冶師が何を言っているんだ!」と怒鳴られるだろう。

 だけど実際、鍛冶師じゃない人が観たら【片手サイズの小さいハンマー】ぐらいにしか認識しない。

 それを自信満々に出す方が恥ずかしいって話。


「そして――聖域ワークショップ展開!」


 そろそろ見慣れてきた薄く白光した結界が辺りを覆う。


 次に大体か他の高さぐらいの場所へ左手を伸ばす。

 こちらは今でも理解し難いが、武器庫から武器を取り出していると考えれば、ある程度は納得できる。

 ハルナの案だが、ちょっと意識が変わるだけで違和感が払拭された。


「なんだか不思議な感覚だ。基本的には炉や金床がないと鍛錬はできない。それを、武器を持って宙に浮かせたまま鍛えるってんだから」

「だよね。私もどこかで観た程度しかない知識だけど、同じ認識だよ」

「私も全くの同意見」

「どうすればいいかわからないけど、とりあえず――」


 金槌で、光剣を叩いてみる、と。


「――壊れないんだな」


 てっきり、何かと一撃で壊れるものしか出せなかったから、その通りに乞われると思っていた。

 前回、自分の武器で結界を攻撃してみた時を参考に。


「だけど、これといって変わった様子もなし」

「予想が外れちゃったのかなー」

「まあでも、一撃で壊れていないってことは、何かしらが変わっているか、そうじゃなくても壊れないということが知れてよかったんじゃない?」

「むむむ~」


 ハルナはマキの解説に納得していない様子。


「攻撃力が上がった、ぐらいだったら見た目の変化はそこまでないのかもな」

「それもそっか~。私的には、こう、剣が大きくなったり色が変わったりするのかなって予想してたんだ」


 なるほど、そういうことか。


「物は試しに、壁にでも――」


 モンスターは至近距離に居ないし、マキの懸念を汲んで結界の方も出さない。

 としたら、これぐらいしか選択肢がないからな。


「――ですよね」


 パリンッという音と共に剣は光の破片に砕け散った。


「ん」

「マキ、どうかした?」

「これといって大きな発見ではないんだけど、今までのモンスターは一撃で討伐できていたのに、壁を傷つけることはできないんだなって」

「本当だ」

「ほえ~!」


 マキからされて指摘を確認をするべく斬りつけた箇所へ視界を移す。

 すると、本当に傷の1つもない。


 実際のところはわからないが、スキルで出した武器でダンジョンを破壊できてしまうと不都合が生じるんだろう。

 なんの根拠もないけど、なにかしらの制約的な何かがあるのかもしれない。


[ほえ~、他のスキルだったら傷つけられたりするんかな?]

[逆に考えたら壁に向かって攻撃しても練習できるってことじゃん!]


 様々なコメントが流れてくる中、その2つが目に留まる。


 現状では確認する手段はないけど、他のスキルだったらどうなるんだろうか。

 そして、壁でスキル練習が可能っていうのはかなり有益な情報だ。


「じゃあそろそろ戦闘で活かしてみよっか」


 俺達は再び戦場へ戻る。


 一度は通過したものの、その時はモンスターが討伐された後だった。

 だからクエストを受注する時、他ではされている指定がなかったことに違和感があったんだけど……。

 その答えは、どうやら特定のモンスターだけを討伐するというのは難しいらしい。

 なんせ、より取り見取りのモンスターが出現するからだ。


 まず戦闘するのは、黄色いスライム。

 形状だけで言えば最弱と名高い、薄緑色をした普通のスライムと全く同じなんだけど、その色が違う。

 と言っても、そこまで変化があるわけではなく、体当たりを皮膚に受けると数分間の間隔麻痺になったりならなかったりする程度。

 悲しいことに、攻撃箇所が服だった場合……その効果は0になるという、少し悲しいモンスターでもある。


「よし――」


 そこまで動きが遅くない相手だからこそ、慣れない手つきで光剣を金槌で叩く。

 カンッ、という短く軽い音が鳴る。


「試し斬りみたいでちょっとだけ気が引けるけど」


[行け行け―]

[うおおおおおおおおおお]


 俺以上盛り上がっているコメント欄をチラッと覗き見、同じく心が躍ってしまう。


「はああっ」


 斬る、というよりは叩きつけるように光剣をスライムへぶつけ――スライムはそのまま消滅し、光剣もパリンッと音を立てて砕け散った。


「おぉ……」

「どう? なにか変わったことがあったりした?」

「ど、どうなんだろう。正直な話、いまいちわからない」


 なんとも言えない、というのは本当の話。

 ここまで戦闘に光剣を使った場合、例外なく1撃で討伐してきた。

 今回の戦闘したモンスターは、1階層とかのモンスターよりは強いのは確かなんだろうけど……本当になんとも言えない。


「まあでも今回が1回目なんだし。まだまだ試そうよ」

「それもそうだな」


 マキの言う通りだ。

 たったの1回で判断できるはずがない。


 でも、どうしてだろうか。

 戦闘中に考えることじゃないんだろうけど、初めて心が躍っているというか、気持ちが高揚しているような感じがする。

 なんでだろう。

 初めて自分を表に出せたような、今更ながらに自分の力で戦っているような感じがしているからかもしれない。


 鍛冶師としての自分、探索者としての自分、パーティメンバーとしての自分。

 今更ながらにそんなことを思うのは、本当におかしいよな。


 だけど、本当にこんな気持ちになっているのは初めてなんだ。

 これが本当に自分なんだって――そう思えるのは。

 初めて自分に自信を持てている、そんな感じ。


「よし、次に行こう」

「レッツラゴーっ」

「うん、行こう」

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