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第32話『どうすればスキルを有効活用できるか』

 想像するに容易かったが、建物の中まで大体が一緒だとはな。


「では、クエスト一覧を整理するよ」


 第5階層のモンスターを30体討伐。

 第7階層の特定モンスターを10体討伐。

 第7階層の特定資源の調達。


 計3つのクエストを受けた。


「察するに、第5階層でのクエストをクリアした後、街で休憩してから第7階層に進むってことで合ってる?」

「正解っ」

「受付嬢と話をしている時、横で話を聴いていてビックリしたよ」

「一気にクエストを進めようと思ったら、かなりのハードスケージュルだもんね」

「まっさかー。さすがに考えてるよ~」

「どうだか。私は忘れてないけどね」

「もうマキってば。あの時はごめんってば」


 真紀まきはヤレヤレと肩を落しているあたり、察するものがある。


 しかし、春菜はるなは机の上に並べられているスイーツ群――パフェを頬張って幸せそうにモグモグしていた。


「ということは、初見のモンスターと戦うことになると思うんだけど……大丈夫かな」

「そこなんだよね、問題は」

「俺達はただ駆け抜けただけだし。なんなら、何回か通過したであろう春菜と真紀も知識があまりないときた」

「苦戦を強いられるのは間違いないわね」


 受付嬢も、まさか街に到達できるような探索者がそんな人達だとは思ってもみないだろう。

 だったら俺達から申告すればいいだろう、と言われたらそれまでだけど……一番簡単だったなものがこれだったのだから仕方がない。

 というか、これしか前階層のクエストがなかったというのもある。


 そんな状況で30体か……。


「大変だっていうのはわかるけど、連携力を上げるいい機会かなぁって」

「それは良い案」

「それに、一心くんのスキル練習になると思って」

「なるほど。そう考えると無難な討伐数ではある」


 春菜と真紀のやり取りを、モナカアイスを頬張りながら納得した。


 数だけ見て、戦闘している最中や終わった後の疲労感だけを想像するなら大変だ。

 でもそれ自体がプラスであることに間違じゃない。


「それでなんだけど、ちょっとだけ考えてみたんだ」


 と、唐突に真剣な表情を切り替えて、話題を切り出す春菜。


「ここに来るまで、一心くんのスキルを練習するって話をしたじゃない? それでちょっと勝手に考察してみたの」

「それには気になる」

「えっとね。本当にただの考察なんだけど、聖域ワークショップっていうのは見た目そのままの結界。これは、攻撃を防いでくれる役割から考えて鍛冶師の作業場って意味だと思うの」

「たしかに、その通りだと思う」

「そして、ここ数日で使用できるようになった光の武器。これは武器庫なんじゃないかなって」

「ほほぉ」


 言われてみれば、鍛冶師が武器を整備するのは極普通のことであり、当然のことながら武器や防具といった物がないことには何も始まらない。


「そして、自分の武器庫から取り出したんだから使用者である一心くんが使えるのは当たり前。だから、能力? みたいなのも一緒だよね」

「威力は測れないけど、一撃で粉砕してしまう、とか特徴が似ているね」


 真紀の言う通り。


 なんと言うか、自分では『もっと強くならないといけない』『もっとスキルのことについて理解しないとダメだ』、なんて意気込んでいたのに……たった数回のやり取りだけした春菜がここまで考察できて、使用者である俺は全然気がつけていなかった。

 必死になり過ぎて、視野が狭くなっていたんだろうな。


 こんな体たらく具合に、心の中で自分を嘲うことしかできない。


「そ・こ・で。私は結構な無理があるとはわかっているけど考えてみました。あの光の武器って鍛えることができないのかなって」

「確かに無理がある話ね」

「……なるほど」


 スキルについて詳しくは知らない。

 まだまだ未知数なところが多いスキルは、『スキルガチャ』と名称で呼ばれるほどランダムで手に入れるものだと思われている。

 現に、俺が手に入れたスキルもそうだと思っていた。


 しかし、春菜が言っている通りだとすれば個人に寄せているとも捉えられる。


 鍛冶師が武器を鍛えるために、作業場である聖域を展開。

 限定的ではあるものの、現場で自身の役割を果たすためには道具が足りな過ぎることからそこまで役に立てない。

 聖域ワークショップはその全てを補ってくれている、というわけだ。


「その仮説、いや、それが全てなのかもしれない」

「え、本当に?」


 驚いたように目を丸く見開いている春菜。

 その様子から察するに、外れている前提の話だったんだろう。


「スキルというものが、個人に合わせたものになっている可能性が高いかもしれない。だから、俺の鍛冶師を活かすための『作業をするための場所である聖域』と『鍛える武器を出現させるための倉庫である空間』なのかも」

「本当にその通りだね」

「春菜、恐ろしい子」


 春菜は自分の頭を撫でながら「そ、それほどでも」と嬉しそうな表情を浮かべている。


「武器を鍛えられるっていうのは試してみたいとわからないけど、未熟さゆえに聖域も武器も一撃で壊れるんじゃないかな」

「もしかしたらそうかもね。スキルは使用者の熟練度によって強力になるっていうのは共通認識だし」

「でもでも、共通認識って話ならもう1つあるよね」

「スキルの効果は1つってやつ?」

「うんうん」

「確かに」

「言われてみれば、俺のスキルってどういう扱いになってるんだろう」


 全てが繋がっているとすれば1つだろうし、全てが分かれているのであれば2つ……それとも3つ……?


「そう考えると、一心いっしんって強すぎじゃない?」

「あれだよね、ゲームとかでいうところのチートってやつ」

「いやいや、そこまでじゃないでしょ。チートって言うのは、ほとんど負け知らずみたいな、強敵を一撃で粉砕するとかって感じのやつだよ」


 ……たったの一撃で壊れてしまうなんて、俺の弱さをも一緒に体現しているようなスキルでもあるってことだよ、な。


「この後が楽しみだねっ」

「なんでもそうだけど、物が使いようって話だから。一心のスキルもそうだけど、私達がスキルを手に入れた時が楽しみでもあり怖くもある」

「言われてみれば確かに。モデル……モデル……何も想像できない」

「私も同じく。まあ、その人を体現したようなスキルだとしたら、職業とかは別に関係ないんじゃない?」

「とっっってもそうであってほしい」


 話がちょうどいいところで終わり、テーブルの上にあった食べ物もなくなった。


「それじゃあ、行っきましょーっ!」

「時間はあるんだから、ほどほどに、よ」

「無茶せず、だね」


 俺達は会計を済ませ、第5階層へ続く階段の方向へ歩き始めた。

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