「これで20体――」
再び壁に寄りかかって休憩を取る。
だけどさっきと違うのは、かかった時間。
10体倒すのに2時間かかっていたのに、今回は1時間で討伐することができた。
戦闘慣れしてきたということでもあるし、スキルの再使用までの時間をある程度把握してきたからというのもある。
バンドで時間を計測してみたけど、1分から5分とバラバラだった。
でも一番大きいのは、モンスターに対する恐怖心が薄まったこと。
「これなら、いけそうだな」
どうせ、ただの一般人の配信なんて人が来るわけがないし、目立ったことができるわけでもない。
もしかしたらがあるかもしれない、なんて期待だけ膨らんでいたら緊張して動きが鈍くなってしまうかもしれないからな。
……いや、でも――ちょっと、ほんのちょっとぐらいは期待しちゃってもいいよな……?
ひょんなことからなにかが起きて、もしかしたら、もしかしたら……。
「やってみるか」
バンドを触って配信アプリを選択。
事前の設定で配信するサイトを登録してあるため、配信開始をすればそのサイトで生配信が始まる。
配信をするにあたって、自分の目元から配信する一人称と、背後や頭上から配信する三人称で視点を選択できるんだが、三人称を選択しておいた。
できることなら顔が配信に映ってしまうのは避けたいが、このスキルを披露するにはどうしても若干でも離れたところから映らないとあまり意味がない。
容姿に自信があるわけではないから、そこがちょっと引っ掛かるだけ。
「――」
項目から【配信開始】のボタンを押す。
「あーあー」
便利なことに、ボリューム調節機能がある。
配信上に入っている自分の声がどれぐらい大きいか、という確認ができる他に、そこから自分で調節可能。
空中にあるボリューム調節のバーを触るだけで調節できるようだ。
画質などは自動で調節できるのか。
ほほお……配信する時にタイトルを決められるのか。
今回はご親切に【初配信】というタイトルが自動で決められている。
次からはタイトル名も考えないとだな。
「初めまして。ほぼ初心探索者ですが、これからよろしくお願いします」
なんて、当たり障りもない自己紹介を宙に向かって零す。
……なるほど、普段は視界の中に表示されないが、右端や左端の方へ視線を向けるとコメント欄が表示されるのか。
[――――]
コメントなし。
まあ、そうだよな。
真っ白なコメント欄の下にある数字。
上半身と顔だけのシルエットがあって、その隣にある0の数字は……たぶん視聴者数か。
配信開始すぐに視聴者を確認したって意味ないのにな。
少ししたら誰かが観に来てくれるかもしれないから、このまま戦ってみよう。
10分が経過。
視線を右横へ移して、コメントと視聴者数を確認。
しかし、悲しいことにどちらも0だった。
ため息を吐きたいところだが、もしもそんな姿を偶然にも観に来てくれた人の目に触れたらよくないから、グッと堪える。
深呼吸、深呼吸。
もっと楽観的に考えよう。
今回は初回配信だし、確認したタイミングで誰も視聴していなかったというだけで観てくれていたかもしれない。
視聴者がコメントをしてくれそうな配信内容ではないのだから、コメントが来ていなくなって別に深く考える必要はないんだ。
よし、このまま30分ぐらいまでやろう……と、思ってはいてもさすがに休憩をしないと続けられない。
どうせ視聴者数が0なら、ちょっとぐらい休憩しても問題ないよな。
「ふぅ……」
もはや定位置となっている壁際まで移動して、腰を下ろす。
休憩している間も気を抜けない。
モンスターを警戒してではなく、配信の方。
だって、もしかしたらこうして休憩している間に誰かが観に来るかもしれないから。
しかし、だからといって疲れている体に鞭を打って無理やり戦闘しても、見苦しいものを映してしまうため気を付けるのはコメント欄。
誰かがコメントをしてくれた時のために備えなければ。
「……」
でもぶっちゃけた話、どうやって返せばいいんだろうか。
話が上手いわけではないから……とか考えていると、そこまで気にしなくていいとはわかっていながらも、チラッチラッとコメント欄に目線が移動してしまう。
逆に考えたら、誰も居ないこの時こそ1人喋りの練習をした方がいいのではないか?
小休憩も挟んだことだし、やってみよう――。
――予定通り、30分間が経過。
戦闘に慣れてきたことから、戦い続けることができたわけだが……終始、視聴者数ならびにコメントは0だった。
だからこそ、慣れない喋りを練習できた――と、悲しくもポジティブに捉えよう。
まだまだこれからなんだ。
淡い期待を胸に秘めていたのは事実だったが、これが現実ということだよな。
「それでは、本日の配信を終わりにしようと思います。もしよろしければ、次回の配信もお付き合いいただけますと幸いです。ご視聴いただきありがとうございました」
と、【配信終了】の項目に触れようとした時だった。
「きゃああああああああああああああああああああ」
「っ!?」
疑いようのない、嬉々とする声ではない危機を知らせる悲鳴が耳を叩く。
「っ、ビックリしたぁ」
あまりにも唐突だったことから、体がビクンッと跳ね上がってしまった。
とか呑気な感想を述べているけど、一体全体どういう状況なんだ。
どう考えてもヤバそうな気配しかしないが……このまま知らない振りをして帰った後、不幸なニュースを見てしまったら目覚めが悪い。
それに自意識過剰かもしれないが、俺の
「――たぶん、なんとかなるだろっ」
もしかしたら明日のニュースに自分の名前も並ぶかもしれない、という最悪が脳裏に過りつつも、悲鳴が聞こえた方向へと駆け出した。