ほほお、想像とはだいぶ違うな。
入店後すぐ、少し進んだところで足を止めて店内を見渡す。
想像上ではカメラのような機材やそれと同じく関連している物が、ズラーッと並んでいるんだろうなぁと思っていた。
だがしかし実際に視界へ飛び込んできたのは、計6台の机が並んでいてその上に丸みのある長方形の何かが並んでいる。
とりあえず見て回るか。
「ほほお……」
アクリルかガラスかはわからないが、要するにここら辺はただのケースでバンドにかざすとインストールされるらしい。
店内で作業を済ませ、記念で持ち帰る用だったり保証証明になったりするんだろう。
それにしてもいろんな種類があるんだな。
バンド単体で配信やコメントを観られるやつから、他の携帯用端末でいろいろと操作をして配信はバンドで……とかか。
他と兼用するタイプに関しては2000円とお手軽だが、全て操作できるタイプは10000円かぁ……さすがに今の俺には手を伸ばせない値段だ。
「でもこれで配信ができるってんだから、凄いよな」
思わずそんなことを呟く。
次に視線を上げて店員さんを探してみると、あろうことか客が数人に対して1人しか居ない。
しかしカウンターを見てみると――なるほど、ここも自動化ってわけか。
まあとりあえず購入手続きを済ませよう。
俺は購入を終えて、店よりさらに進んだ先にある広場の一角にあるベンチへ腰を下ろす。
店内で配信ソフトの導入を済ませ、ケースはポケットに入れてある。
いろいろと確認をしよう。
基本的に俺は動画や配信を観ない。
バンドを入手したら、今までは月額の携帯用端末でしか閲覧できなかったという縛りから解放される……んだが、俺には仲間の武器を研いだりするという役割があったから、そう言うのを観ていられる時間がなかった。
「なんだかもう懐かしく感じるな」
感傷に浸っている時間はない。
軽くでも取扱説明書に目を通しておこう。
左腕に装着しているバンドをトントンと優しく叩いて、視線を空中に向ける。
いろいろある項目から、『インストールされているソフト』をタップして配信ソフトを展開。
目線を向けている空中に出てきた複数の項目の内、取扱説明書の欄をタップ。
「どれどれ……」
『まず初めにカメラ視点を選択してください』。
『視点の中には、一人称視点と三人称視点の二種類があり、外部デバイスを用いることでまた違った場所で固定することができます』。
詳しい技術とかは記されてないし、そもそも文面として残されたとしても俺には理解できないからいいか。
『このソフトでは、配信のレイアウトを操作したりコメントを確認することはできません』。
『配信のレイアウトやコメントを確認する場合、別売りの機材を購入するか携帯用端末にて配信サイトでご確認またはご変更ください』。
まあ、そりゃあそうだよな。
別の機材か端末を新しく用意するなら、安くても2万円ぐらいだろう。
だったら最初から一番値段が高いものを選択したいところだが……それができれば苦労はしない。
少なくともこれからはかなり苦しい生活を強いられるだろうし、今数千円の出費はあまりにも大きすぎる。
「しっかし、
本当に賭けではあるが、スキルガチャで手に入れた希少性のあるスキルを有効活用して一儲けってか。
だが、他の人も同じ考えに行き着いているはず。
ということはスキルだけで人気になる……バズるのは厳しいかもしれない。
「美少女を助けられたらバズりそうだなぁ」
俺と同じくベンチに腰を下ろし、弁当やドリンクを片手に同僚であろう人と談笑している年上の女性方を眺めながら、そんなことを呟いてしまう。
もしもそんなことになれば、英雄じゃないか。
「ふふっ」
それが1人じゃなかったら、モテモテハーレムってか? そんでもってお金まで稼げてしまうとかなっちゃうのか?
自分でも気持ち悪い笑みを浮かべたな、と思いながら、ただ妄想だけが捗ってしまう。
「まあ、世の中そんなに甘くはねえからな。せめて妄想することぐらいは許してほしい」
俺はいったい誰に対して言い訳をしているんだ。
わかっているさ。
もしも希少性のあるスキルを手に入れたとして、俺の戦闘力は探索者じゃない人に負ける自信があるほど底辺だ。
配信で一躍時の人になれたとしても、すぐに飽きられることぐらいわかっている。
そんな俺がダンジョンで女の子と助けるって?
本当に妄想の中でしかできないことを実行できるとは、本当に思ってはいない。
「この世界にもゲームや物語みたいにステータスがあって、レベルに意味があったらよかったのに」
なんて、この世界のレベルがただのお飾りでしかないことに不満を漏らす。
だってレベルってのはただの指標で、ダンジョンを何階層まで進んでいいという意味しかほとんどないんだから。
レベルアップしていけば待遇がよくなったり、給料が出るようになったりするらしいが……今の俺には関係ない話だ。
そんでもって、低レベルの内は様々な情報を聴くことすらできない。
「項垂れていても仕方ないし、今日は帰るか」
まだ夕方にもなっていない昼時に、空腹感を抱きながら広場を後にした。