「ひ、ひゃーーー!?」
「わぁーーーー!?」
エイダンとカーターの悲鳴が響く。その悲鳴が段々と高くなるにつれて、俺の手を強く握ってくる。
痛い。ホント、痛い。
「二人とも、そんなに強く握らないで! 俺にさえ触れていれば、落ちることはないから!」
ラハム山の頂上付近に移動した当たりで、俺は余りの痛さに俺は悲鳴を上げてしまう。二人とも、一番高い木に捕まろうと必死に片腕を伸ばしている。
ただ、そんな悲鳴も、空を飛んで重力を感じて必死に藻掻く幼子二人には意味もなく。
「何言ってんだ、セオ! そんな怖い事できるわけねぇえだろ! 死ねっていうのか!」
「そうだよ! こ、こんな場所まで連れてきて、僕を殺すつもりか!」
怒声が響く。子供特有の甲高い声で子犬に咆えられたみたいに耳がキーンってする。それと更に強く握られる。とても痛い。
はぁ、しょうがない。
「ばっ、お前!」
「何してんだ!」
俺は手を無理やり離す。
エイダンたちは驚いて、俺を憎く睨み付けるが、直ぐに、落ちないように必死になって手足をバタバタさせる。
そして数秒後。
「あ、あれ!?」
「お、落ちないぞ!?」
二人とも素っ頓狂な声を上げて驚愕する。
「ど、どういうことだ、セオ!」
エイダンが俺と同様間抜けな表情で訊ねてくる。
「浮遊魔法をエイダンたちにもかけたんだよ。本当は俺が触れてや魔法をかけた方が魔力消費が少ないんだけど、あまりにも手を強く握られてね」
もちろん、魔法ではなく魔術であるが、そもそもエイダンたちにそれが分かるほどの実力があるわけではないし、また、冒険者たちにもバレないように巧妙な偽装を施してあるので、問題ない。
そもそも、魔法陣さえ見せなければ、魔法と変わらないのだ。
とは言ったものの、そもそもエイダンたちにこれが理解できるとは思っていない。いや、普通に考えて、子供なのだ。
なので、エイダンはほへ?と間抜けな声を漏らした。
だが、カーターは違った。
必死に目を彷徨わせ、深い皺を
そして。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ」
唸り声を上げたかと思うと、身体から水が溢れてそれがカーターの身体を覆った。首より上は出ている。
「こんな感じのが掛かってんだよな」
「あーー、うん、まぁ、確かに属性は違うけど魔力の流れとかはそんな感じだね。にしても、よくわかったね」
驚いた。属性が無と重力にではなく、水単体で行われていたが、しかし、定着に放出や固定、操作に展開などは浮遊魔法と殆ど同じ構成である。
やばい、普通に侮ってた。
「ふん、俺にかかればこんなもんすぐにわかるさ」
カーターは少し照れながらそう言った。
「いや、こんなもんって言ってるけど、浮遊魔法の構成要素を見抜いて、パラメータ通りにやるって凄いことだよ! それって独学!?」
だが、照れるなんてもったいない。誇ってもいい。
俺は興奮した声でカーターにそういう。
「い、いや。広場でいつも暇にしているガビドっていう爺に習ったんだ」
「ああ、カーターはガビドさんの弟子なのか」
なるほど。確かに、ガビドさんの教えを受けていればできるかもしれない。いや、それでも普通にそこまでできることが凄いんだが。
「けど、それでも凄いよ。感覚? それとも解析?」
「ええっと、感覚? けど、そもそも魔法って感覚だろ。ってか、それよりもセオって爺と知り合いだったのか!」
感覚なのか。感覚派の人間って何やらかすか分からないほど凄いんだよな。理論派だと結局、理論の領域をでることはないし。
まぁ、理論を持った感覚が一番凄いのだが。
「まぁね」
「ああ、それくらいの魔法を使うんだから爺と知り合いでもおかしくないか」
俺とカーターは少しだけ分かりあったように笑いあう。
「なぁなぁ、お前たち、俺にも分かるように言ってくれよ。てか、セオ、本当にこれって落ちないんだろうな!?」
けど、放っておかれたエイダンは混乱した様子で声を荒らげる。
「うん、大丈夫だよ。あ、そうだ。エイダン、動きたいって念じてみて」
「んぁ? あ、ああ」
諭すように優しくいった俺の言葉にエイダンは不審がりながらも、素直に頷く。
そしてむむむ、と唸る。
「お、おお! すごいな、これ。思い通りに動くぞ!」
そしたら、エイダンは空中を自由に飛び回っていた。
さっき怖がっていたとは思えないほどはしゃいでいる。現金なものであるが、子供とはそういうものだ。忘れっぽくって楽しいことに敏感で。
まぁ、何故こんなことができるかと言えば、カーターが水を生成したときにエイダンとカーターの魔力量やらの解析が終わり、それで分かったのだが、二人とも異常に魔力量が多かったのだ。
いや、ライン兄さんに比べたらまだまだ少ないが、この年でこれだけの魔力量をもっているとはなかなかである。
なので、先程まで展開していた浮遊魔術の術式を変更して、浮遊魔術の発動と維持に必用な魔力は二人に依存する様にして、本人たちが魔法を行使するような形式にしたのだ。
とは言っても、魔力の属性変換や定着に固定、その他諸々はまだまだなので、そこだけを魔法陣で補う形にしたのだ。
魔道具を他人に貸し与える感じだ。術式の決定権は俺が持っているが、その決定権内なら相手も自由に魔術が使えるってかんじである。
魔術の研究は進んでいて、そこまでできるようになった。
「カーターもその水魔法は消して大丈夫だよ」
飛び回っているエイダンをカーターが少しだけうらやましそうに見ていたのでそういうと、カーターは少しだけビビりながらも、水魔法を解除する。
「あ、ああ」
そしてカーターの身体を覆っていた水魔法が消えて、エイダンと同じように自由に飛び回った。
楽しそうにキャッキャと叫んでいる。うん、いい眺めだ。
そうして、しばらく二人とも空の自由飛行を楽しんだ後。
「なぁ、それでどうすんだ?」
「確かに、魔黒狩りの途中だった」
そう、今は魔黒狩りの途中である。俺たちは逃げ惑う子供たちである。
「どうしようか。あの冒険者たちがどこまでの実力があるか分からないけど、流石に空中で自由に動ける俺たちを捕まえられるとは考えにくいし」
まぁ、もしかしたらできるかもしれないが、魔法や
「けど、面白くねぇぞ」
「ああ、確かに」
だが、俺の答えにエイダンが不満そうに言い、カーターも賛同する。
「まぁ、それはそうだよね」
うん、知ってた。これは遊びなのだ。全力でヒリヒリと楽しみたいのだ。空中に逃げて、最後まで余裕で逃げましたじゃ、楽しくない。
それにただ勝つだけっていうのも面白くない。
「だからさ――」
二人の耳元でこそこそ内緒話をする。空にいるので聞かれる訳ではないが、しかし、そっちの方が雰囲気がでる。
「――って感じなんだけど」
そして、その内緒話が終わってエイダンたちから離れると、二人はとてもわくわくした表情を浮かべていた。
「ああ、いいな、それ」
「ホント、楽しそうだ。それにあの鬼の驚く顔が見れるかもしれねぇな」
「確かに、面白そうだ」
カーターとエイダンがニヤニヤと笑い、わくわくと藍色の瞳と赤錆色の瞳を輝かせた。
エイダン。鬼って言ったこと、既にソフィアに伝わってると思うよ。それとカーター、エイダンの言葉に賛同した事でソフィアに怒られる未来しか見えない。
まぁ、ちょっと怒られるくらいだと思うけど。ソフィアはそういう事を言われても、マジで怒ったりはしないからさ。
でも、わくわくしている二人に水を差すような真似はしたくないので、黙っておこう。それに、ソフィアが子供たちを怒る姿も見てみたいし。
そして、俺たちは行動を開始した。