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第64話:普段はあと、六人います:this fall

 コツンコツンと足音を響かせながら、俺とルールさんは螺旋状の地下階段を下っていく。手は繋いでいない。


 丸い両方の壁には等間隔に火が灯った蝋燭が設置されていて、暗くはないが明るくもないなんとも微妙な空間だった。全体が石材でできているためか、ひんやりとした空気が漂い、少し肌寒い。


「のう、これはお主の両親が許可しているのかの?」

「うん、してるよ。一応、言っとくけど怪しい組織の溜まり場とかじゃないからね。ただ、これから行く場所に集まる魔法使いたちの趣味が行き過ぎただけで」

「……なるほどの。この町の魔法使いのレベルならば、変人は多いかもしれんの」


 その通りである。アテナ母さんも含めて、魔法を極めたり、極めようとする人たちは大抵、どこかぶっ飛んでいる。ぶっ飛んでいなくても趣味が強い。


 まぁ、オタクもそんな感じだし、そこまでおかしな事ではないんだが。


「しかし、どこまで降るのだ」

「あと数分くらいだよ」


 結構降りたが、それでも目的の場所はまだである。地下深くの方がカッコいいとか何とかで、面倒になった。いつか、昇降機を付けてやる。


「それは面倒だの。よし、ちょいと掴まれ」

「え、何?」


 けど、その数分が我慢ならなかったらしい。ルールさんは俺を抱きかかえると、身体に魔力を纏い始めた。


「〝浮遊〟」


 そして身体を浮かせて、滑るように降りていったのだった。


 へぇー。浮遊魔法を使えるくらいには魔法が得意なんだ。だとしたら、魔力の隠蔽も若干見直さないとな。揺らぎの方も気になってくる。


 どうしよっかな。


「お主、着いたぞ」


 と、そんなことを考えているうちに目的の場所にたどり着いた。目の前には木製の低い扉がある。


 まぁ、いっか。面倒だし。


「じゃあ、降ろして」

「ぬ、分かった」


 扉を開けるには手順を踏まなくてはならない。なので、抱きかかえられていると身動きがとれないので降ろしてもらった。


 にしても、エルフってスレンダーではないんだな。ただただ、そういった感想が頭を過るが、それは悟られないように心にしまう。


 俺は近くにあった木の箱を足台にして、扉についている黒いシンプルな丸いドアノッカーを掴み、それをくるくると右回転させながら、魔力を注いでいく。


「ルールさん。今から言う順番に色の違う敷石を踏んでいって」

「ぬ、分かった」


 そうしてルールさんは俺の指示通りに色の違う敷石を踏んでいった。


 すると、目の前の木製の扉の色が変化していく。そしてついには色だけでなく素材も変化し、鉄の引き戸が現れた。


 幻惑魔法で偽装していたのである。そして扉を押したり引いたりすると迎撃システムが作動する仕組みとなっている。


 なので、俺はもちろん鉄扉を横に引いた。


 そうして開かれた扉の向こうにあった光景は一人の神父とフードを被った人影が三人、奇怪な笑い声をあげて円陣を組んで座っていた。円陣の中央には木製の円卓があり、部屋は幾つか浮いている光の球によって照らされている。


 そして、座っている一人がこちらに気が付き、歩いてきた。


「これはセオ様。数日ぶりですね。それにしても、こんな時間に珍しい」


 と、俺の方を見て頭を下げたのはガビドである。


「と、そちらの人は誰ですか、セオ様?」


 それからガビドは隣にいたルールさんに今、気が付いたかのように振る舞い、俺に訊ねた。様式美とかなんとかを愛する老人である。


「ルールさんだよ。この町が初めてらしくて案内してるんだ。ルールさん。この人はガビドっていう魔法使いだよ」

「ふむ、そうなのか。ガビド殿、儂は紹介に預かったルールだ。それと錬金術師でな。この町の魔法使いはレベルが高いと聞いておったから、一度会って見たかったのだ」


 ルールさんはそう言って左手を差し出した。


 へぇー、錬金術師だったのか。だから、鉱石を持ち歩いたり、手癖とかが分かっていたのか。


「なるほど。そうでしたか」


 ガビドはそう頷いて、差し出された手を左手で握り返して握手した。


 そしてそのやり取りを聞いていた残りの三人が席を立ち、こちらにやって来た。


「魔法振興の会へようこそ、ルール殿。儂はこの七星教会の神父をしておるフェーデと申します。また、ここの会長をやっております」


 大層な名前をしているが、ただ魔法が好きな人たちが好き勝手に研究する会である。何故か、そこの会長をフェーデ爺さんが就役している。


 まぁ、フェーデ爺さんも魔法好きであることには変わりはないので、何故かではないのだが。


「おお、神父が会長とはの。して、よいのか。教会にこのような場所を作っても」

「ええ、教義で禁止されているわけではございませんから。むしろ、文化を振興させることを推奨されております」

「いや、それは知っておるのだが……」


 いくら、推奨されていたとしても神の家にそのようなものを作るのはいいのだろうかという、続きが簡単に読み取れるのだが、七星教会は結構自由だからな。いいのだろう。たぶん。


 そんなルールさんの戸惑いはさておいて、青年と美魔女がフードを脱いで一礼した。


「初めまして、僕はダダンガです」

「私はリストアよ。よろしくね、ルールさん」


 そんな彼たちはガビドと同じく、俺のメイドゴーレムプロジェクトの協力者である。


「うむ、よろしくの。ところで、フェーデ殿以外についているその義肢はお主たちが作ったのかの?」


 つまり、皆、身体の一部を欠損して冒険者としての活動が続けれらなくなった者たちだ。


 と、言っても彼らのランクに見合った仕事ができなくなっただけで、彼らが持つ魔法の技術さえあれば低ランクの仕事はこなせている。


「ええ、そうです。僕は義足、ガビドさんとリストアさんは義手です。これらはアテナ様とフェーデ様が共同して研究しているものです。僕たちはその研究のサポート役として手伝っています」


 そういう設定になっている。事情を知らない人たち相手にはアテナ母さんとフェーデ爺さんが共同して作ったことにしている。


 アテナ母さんは言わずもがなで、フェーデ爺さんは七星教会の神父である。七星教会は、そういった欠損などによって生活が不自由になった人たちを支援する取り組みを教会全体として行っているので、神父が研究に参加してもおかしくない。


「ふむ、そうなのか。それは凄いの」


 だから、ルールさんは普通に納得した。ルールさんもアテナ母さんの名前は知っているだろうし、七星教会についてもある程度は知っているのだろ。


「しかし、その研究について儂が知ってもよいのかの。自慢ではないが、儂は錬金術師としての腕前は高い方だと自負しておる。今もその義肢の解析をしておるぞ」


 うん、知ってた。明らかに解析を使っている痕跡がルールさんにあるし。だけど、一応、それも考慮してここに連れてきた。


「ええ、それは問題ありません。儂らも研究には行き詰っておりまして、丁度外部の人を入れようかと考えておったのです。ですから問題ありません。むしろ、同族・・で若い錬金術師は発想が豊かですので、大歓迎です」


 フェーデ爺さんは人族である。今、フェーデ爺さん達にはルールさんが人族に見えている。魔道具かアーティファクトかは分からない。


「そうよ、だから話し合いましょ!」


 実のところ、フェーデ爺さんがルールさんについて知っているかどうかを知りたくてここに連れてきた。結果、ルールさんが偽装をしたことから、かなりの有名人である可能性が出てきた。


 だけど、それ以上にそんな有名人の錬金術師が参加した議論が聞けるのは嬉しい副産物である。


「ぬ、そうなのか。だが、そのアテナ殿にはお伺いを立てなくてもよいのか」

「ええ、そこらへんは儂に一任されていますから」

「そうか。なら、少ない時間だが楽しませてもらおう」


 ということで、みんなは円卓に集まってあれやこれやと意見を交換していった。


 俺も細工師としてルールさんに話を振られたりしたので答えたりもしたが、基本的には聴衆に徹していた。


 そうして、数時間後。昼になったので、俺たちは外へと出た。ソフィアとの約束があるし、昼飯も食べたいからな。


 また、ルールさんは短い時間ながら義肢に関しての議論が楽しかったらしく、収穫祭が終わった後もここに残ることにしたらしい。


 なので、姿形をフェーデ爺さんたちに偽装し続けるのも面倒だろうと思ったので、外に出た俺はルールさんの手を掴む。


「ねえ、ルールさん。やっぱり、昼食前に用事を済ませていい?」

「ぬ、構わないの」


 ということで、行先は告げぬまま“選定の導盤”を使って、ソフィアの執務室に転移した。


 余計なお節介であるが、まぁ、いいだろう。途中からルールさんも自分が人族の姿形に偽装していることを忘れていたし。


 それに俺もきちんと話してみたいし。隠し事はあってもいいが、気を使うことは少ない方がいいだろう。

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