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第63話:魔法使いの集会へ行こう:this fall

「のぉ、お主。どうして、人を避けるように移動するのかの?」


 魔法使いが集まり場所へと向かっている途中、ルールさんは訪ねてきた。


「いや、こっちの道の方が良いかなって。ルールさんはラート町を見たんでしょ。だったら、表の道より裏の道を見た方が分かりやすいかなって。ルールさんは見る目はあるらしいし」

「確かにそうだがの。まぁ、よいか」


 実際の場合は俺が人に会うのが面倒くさいだけなのだが。こないだの騒動もあったから、今、表通りに行くとあっちこっちと連れまわされそうだからな。


 いや、そっちのほうがルールさんを案内するには都合がいいと思うのだが、ルールさんの素性がハッキリとしないうちはやめておいた方がいいだろう。彼女は特に自由ギルドに行きたくないらしいしな。


 まぁ、最終的には連れて行くんだが。


「あ、そうだ、ルールさん。昼食を食べ終わった後、用事があって、寄りたい場所があるから、少し時間を貰ってもいいかな」

「うむ、問題ないぞ。むしろ、儂も連れて行ってほしいの」


 あら、あんまり警戒していなさそう。言質はとった。


「うん、分かったよ」


 なので、頷いておく。もちろん、寄りたい場所というのは自由ギルドである。ただし、最上階のソフィアの執務室だけど。


 転移で一飛びすれば、抵抗の暇もないだろ。最上階は機密エリアだが、ソフィアのところだけである。万が一があってもソフィアが対処している筈だし、何となくの勘だけど面倒事にもならないはずだ。


 ルールさんはたぶん、有名人かなんかでお忍びできているのだろうと俺は考えている。なら、事情を知り、それでいてある程度の融通がきいて、協力してくれそうな人を仲間に引き入れるのも悪くない気がする。


 まぁ、その考えは心の中で仕舞っておく。ついでに“研究室ラボ君”を使って念のために心の方にもプロテクトを掛けておく。ルールさんが精神干渉系の力を持っている可能性も無きにしもあらずだからな。


「それはよかった。ところで、進んでいる方向は住宅街の奥の気がするのだが、ほんとうに魔法使いが多く集まる場所があるのかの?」

「うん、あるよ。俺も最初は戸惑ったんだけどね」


 今向かっているのは生活に密着した場所である。俺も数か月前にここに行った時は、なんでここで魔法使いたちが集会をしているのか気になったのだが、いつの間にかそうなっていたらしい。


「あ、見えてきたよ」

「ふむ、あれがの」


 そうして俺たちは少し開けた場所にやって来た。そこは住宅街の中心よりやや壁寄りで、小さな広場である。一本の木を中心に作られたその広場には町の子供たちやおばさまたちがちらほらと見える。


 収穫祭と言ってもまだ、二日目の朝よりである。住宅街の方は普段とあまり変わりはなさそうだ。違うところといえば、おばさまたちが持っているバケットにはぶどうジュースや他の柑橘ジュースが入った瓶とパルシェットという特別な行事のみ食べるパンが入っていること。


 また、特に子供たちがそうだが、いつも身に着けているマキーナルト領の伝統的な耳飾りがすこし華やかだ。髪色と同じ色の小さな光り輝く羽が追加されていた。


「そういえば、気になっておったのだが、この町の皆は耳飾りを着ける風習があるのかの?」

「うん、そうだね。なんでも、魔除けと自分の居場所を知らせるまじないがあるとかないとか」


 むかし、このマキーナルト領が今よりも安全でなかったときに、魔物に襲われないように、そして攫われたり迷ったりしたときに見つけられるようにお守りみたいなものとして着ける文化ができたそうらしい。


「ふむ。しかし、お主は着けておらんようだが」


 ただ、外部から来た人たち、冒険者や商人は身に着けていない。強要するものでもないので、着けていないのは当たり前といえば当たり前である。


 しかし、うちはマキーナルト領の上に立つ者としてもそこら辺は文化を尊重しますという体裁のためにも着けるべきではと思ったこともあるのだが。


「なんか、そうなんだよね。なんでも、家の立場が厄介らしくてね。王国貴族だから、この町の文化を下手に取り入れると併合したと外聞的に考えれるしと色々とあるらしんだよね」


 ルールさんにこれを話しても問題なさそうなので、雑談程度に話す。口が堅そうだし、そもそも面倒事も嫌いそうである。敢えて自分から突っ込むようなことはしないだろう。


 あと、この町の出身でも公的機関、例えば自由ギルドとかに務めている時間帯はその耳飾りを外すようにしているらしい。


「だけど、そうするとこの町の文化を否定することと捉えられる場合もあって。そうするとエレガント王国がこの町に対して制定している自治区という名目と折り合いがつかなくなるから、特別な日だけ、例えば収穫祭の開会式とか閉会式とかには身に着けるようにするんだよね」


 ただ、そもそも町人にとってはそういうのはどうでもいいらしい。なので、家がそういう行動をとっているのは、王国側との折り合いが主なのである。


 因みに、俺が三歳まで屋敷の敷地内から出れなかった風習とエレガント王国貴族の風習が似通っていたので、行っているらしい。そこら辺はあまり感覚的には掴みづらいところである。


「ふむ、色々と頑張っているの。お主の両親も」


 ルールさんはそれを聞いて何故か感慨深そうに頷いていた。今の話だと面倒だなという事は分かるが、感慨深そうにする要素はあったのだろうか。


 まぁ、感じ方と考え方はそれぞれだし、俺の価値観で図るのもあれなのだが。


「うん、凄いんだよ。ロイス父さんたちは」


 なので、ロイス父さんたちが褒められて嬉しいのは変わりはないので、そこには同調しておく。というか、にこやかに笑ってもっとすごいと思ってもらう。自慢の両親なのだ。


 ルールさんはそれに対して形容しがたい温かな眼差しと表情を俺に向ける。


「うむ、そうだの。……ところで、魔法使いが集まる場所というのはほんとうに七星教会でよいのか」

「うん、そうなんだよね」


 けど、直ぐにそれは引っ込み、ルールさんは顔を上げて少し訝し気に目の前の建物を見た。


 それは七星教会という主神七柱を主として宗教の小さな教会である。外見は日本人が一般的に想像する教会に近いだろ。


 清潔な純白の壁に、紺色の屋根。天辺には小さな鐘がある尖塔。周りには低い木々が丁寧に植えられていて、神聖さが溢れる場所であった。


「まぁ、入ってみれば分かるから」


 なお、未だに訝し気に教会を見ているルールさんの手を引く。と言っても身長差があり過ぎるので、指先に触れられるかどうかなんだが。


「ぬ、すまぬの」


 と、ルールさんは直ぐに止まっていた足を動かす。ついでにとばかりに少し腕を伸ばして俺の手を掴んだ。


 あれ、なんか恥ずかしいぞ。なんで、俺ってば手を引こうと思ったんだろ。


 けれど、途中でそれをやめるわけにはいかないので俺はルールさんの手を引いて教会の中へ入った。


 そこには誰もいなかった。内部は人十字のような感じで奥には神父が立つ壇がある内陣が、また、そこに行くまでの道のり、身廊と中央交差部は木製の横長い椅子が整頓されて並べられている。


 あれだな。某ダークでソウルするゲームの教会と同じような構造だな。うん、よく見た。聖女とかがあったし、よく死んだし。


 昼にはまだ遠い日差しが教会のいたるところにあるステンドグラスから入り込み、それが身廊を美しく照らして調和する。


 また、内陣には特別一筋の光が降り立っていて、神聖さを存分に味わう。ああ、ホント、何度この光景を見ても飽きないな。


「それで、魔法使いたちはどこかの?」


 ただ、ルールさんにとっては見慣れていた光景らしい。キョロキョロと誰もいない教会を見渡している。


「ええっと、こっち」


 俺はルールさんの手を引っ張りながら中央交差部の方へと歩き出す。そしてそこを右に曲がろうとして。


「ぬ、すまぬ。ちょっと待っておくれ」

「良いけど」


 と、ルールさんが止まった。そして彼女は、内陣の後ろに並ぶ七つの像に礼をする。その像は主神七柱、つまりクロノス爺たちの像である。


 俺もルールさんにならって礼をしておく。いつも家にある小さな礼拝のところでやってるからこういう場所でやろうとは思わないんだよな。


「すまぬの」

「うん、大丈夫だよ。それでこっちだね」


 再び、ルールさんの手を引いて、俺は右へ曲がり、奥にある小さな机の前に立った。


 そして、その机の上に置いてあった燭台を傾け、魔力を注ぐ。


 すると、ゴゴゴゴと音が鳴って、その机が沈み、目の前の壁が動いて、小さな地下階段の入り口が現れた。


「この先に魔法使いたちがあつまる集会があるよ」

「なんと、これは。よいのか、教会に」


 ルールさんはその光景を見て驚いていた。うん、このからくりもそうだけど、やっぱ神聖な教会にこれは俺もどうかと思う。


「うん、まぁそうなんだけど。じゃぁ、行こうか」

「う、うむ」


 そうして俺たちは地下階段へと入っていった。そして、地下階段の入り口は再び重音を響かせて閉じた。

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