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第54話:地下室創造:this summer

 結局の所、地下室への出入り口は空間魔法の転移を組み込んだアーティファクトを俺たちの屋根裏部屋に設置することにしていたそうだ。


 もともと、地下室を作る理由として外部との接触を無くすためだと。俺とライン兄さん、特に俺が出す魔道具などが色々と世界の技術レベルなどと釣り合わなさすぎるからだ。それが、万が一外に漏れると面倒だということである。


 もちろん、ロイス父さんやアテナ母さんたちがいるマキーナルト家でその万が一が起こるとは考えられないが、念のためだそうだ。


 また、俺たちが自由に研究などを行うための施設を作ってあげたいという考えがあるらしい。


 俺とライン兄さんに甘すぎない?と若干思ったりするが、エドガー兄さんたちにそこら辺を確認すると、エドガー兄さんたちは武具魔道具やアーティファクト、そして高明な武人や騎士たちと合わせてもらったり、指導をさせてもらったりと色々してもらっているから問題ないらしい。


 本人たちがそれで納得しているならいい。ただ、ロイス父さんたちは甘いというか、何というか俺たちに色々なものをくれる。それが少し心を曇らせ、けれどとても嬉しくて、それを当たり前だとは思わないようにしなければならない。


 言葉に表すのがとても難しい。たぶん、親心というか何というかそこら辺の何かが関わっている気が何となくする。が、しかしまだ、分からない。


 もにゃっとするこの気持ち。難しい。


 アランたちが作ったとても美味しい昼食を食べながら、ロイス父さんたちとそんなやりとりをしながら、そんな心を想い、どちらにしろそれに甘えてはならないと心を引き締める。


 それから午後の作業が始まった。



 Φ



「――"宝物袋"」


 能力スキルを声に出して発動させる。今回は大重量で一気に大容量を放出するため、声に出した方が魔力効率や想像構成率が上がるのだ。


 そうすれば、現時点で地下室におくべき調度品や研究道具が綺麗に整頓されて出てくる。作業手順に沿って運びやすいように、運ぶ準備順に上から並べている。


「ありがとう、セオ。あとは休んでいいわよ」

「うん」


 いくら回復させたとは言え、それでも万全ではなかった魔力。現在俺が行使可能な限界ギリギリかそれ以上の容量を"宝物袋"から取り出したので、やはり魔力消費が激しく、怠くなる。ただ、午前中よりはましではある。


 本当は、数回に分けて調度品などを出せばよかったのだろうが、それだと運びやすいように整頓して出す事が難しい。


 平らで動かない床の上ならばおけるのだが、不安定な物の上だと上手く置けないのだ。また、細かな配置の指定がまだできないため、いっぺんに出した方が結果的に効率が良いのが現状である。


 また、あることが理由でそれら調度品をそれぞれの部屋に置く事ができなかったのだが、それはおいておく。


 そんなこんなで、俺は怠い体を休ませるために中央にある大きな円卓の近くにある椅子へと歩く。


 ここは地下室の中央部分になる。俺とライン兄さんの研究室は俺達の屋根裏部屋と同じく、一番端にある。


 俺は魔道具の研究室と工房室、それと宝物庫と個人書庫。ライン兄さんは植物に関する研究資料室や動植物、昆虫の標本部屋、その他諸々を扱う部屋に個人書庫。


 そしてそれら全てに繋がる中央にある部屋がこの円卓部屋。


 それが一応地下室の構成である。他にも幾つかの小部屋があるのだが、それは置いておく。


 円卓部屋はその名の通り円卓がある部屋である。広く丸い部屋で扉がいくつかあり、中央には黒錬石で作られた黒く光る円卓と椅子がある。また、扉が配置していない弧の壁はすべて棚になっており、本や魔石などといった共同用のものが置かれるところである。


 と、その円卓の椅子に座り疲れた体を休ませながらそんなことを考えていたら、みんなが調度品を運び出した。


 ロイス父さんやアテナ母さん、アランやレモン、そしてエドガー兄さんとユリシア姉さんは重く大きいものを、それ以外のライン兄さんやユナ達は小さく軽いものを運び出した。


 前者は身体強化がある程度どころかかなり使え、後者はそこまで使えないという組み分けである。


 それから各々が扉を開け、調度品等を運び出した。


 俺の方はロイス父さんが筆頭に、ライン兄さんの方はアテナ母さんを筆頭にグループを決めて運んでいる。


 と、俺だけ休んでいるのも嫌である。気まずいのでそこまで疲れていない身体に鞭を打つ。最近は魔力回復速度が上がってきているので、さっき消費した魔力は今少し休んだ間にある程度回復したのだ。


 なので、俺は〝念動〟と〝浮遊〟を合わせて大きく重たいものを浮かせて運ぶ。


 うん。歩いているだけなのでとても楽である。


 と、それを見ていたレモンやロイス父さんが自分で運んでいたものを俺と同じように浮かせて運んでいく。


 魔法がまだうまく使えないエドガー兄さんは必死こいて運んでいる。


「大丈夫?」

「……問題ねぇよ」


 俺が隣を歩いてエドガー兄さんに訊ねると、エドガー兄さんは少し黙り込んだ後、不貞腐れたように呟いた。


「だと思ったので。はい、これ」


 もちろん、問題はないわけではないと思うので、ポケットから指揮棒の様な銀色の棒を渡す。


「なんだこれ?」

「“浮動の奏者”っていうアーティファクト。つい先週、アカサの所に行ったらあったから買ってきた。これを使えば、俺やロイス父さんたちがやっているようなことができるよ」

「……ん」


 “浮動の奏者”は自分の半径二メートル以内で知覚できる範囲内の中にある物体を浮かして動かすことができるアーティファクトである。ただ、浮かせられる物体に幾つかの制限があり、またそれを使用する状況にもある程度制限がある面倒くさいものである。


 そしてさらに。


「うッ。おい、セオ! これはなんだ!」


 使用者の視覚を半分減らす、つまり、片目が“浮動の奏者”を使っている間見えなくなるという呪いがあるアーティファクトである。


「エドガー兄さん。それはそういうアーティファクトなんだよ。物を浮かせて運ぶって魔法とかでやると結構大変なんだけど、それを使うと本当に少ない魔力消費で誰でも浮かすことができるんだよ」


 それを使えば、浮かせる量や重さに関係なく一定の魔力消費で物体を運ぶことができる優れものなのだ。生物だっていけてしまう。


「だから、それくらいの制限がないと色々と釣り合わないんだよ」


 アーティファクトには破格の性能を持つ代わりに呪いが付与されている場合が多い。理由はたぶん、その破格の性能を引き出すためにマイナスを追加しているのだろう。


 それを分かって出した。悪戯である。そういうのが何となくしたくなったのだ。悪い人間ではと、何となく思う。


「……チッ。まぁ、いい。良い訓練になりそうだし」


 エドガー兄さんは舌打ちした後、直ぐにニヤリと笑いそう言い返した。


 俺がエドガー兄さんの反応を楽しんでそれを渡したと分かっているだろうが、エドガー兄さんは問題なく頷いた。


 まぁ、嫌なら嫌で、魔力消費は上がるが代償なしに使える魔道具があったのでそっちを渡そうと思ったのだが、本人が納得しているならいい。


 まぁ、そんなやりとりがありながらも、どうにか現時点で必要なものを配置することができた。


 そして作業を終えたみんなが円卓部屋に集まり、アテナ母さんは言う。


「さて、最後の作業ね」


 そう、まだ最後の作業が一つ残っているのだ。


 それは。


「じゃあ、始めるわよ」


 そう言ったアテナ母さんの周りに新緑の光が舞い上がる。それからそれに合わせるようにロイス父さんやレモン、アランが魔力を混ぜていく。


 それは円卓部屋すべてに広がり、遂には魔法言語とも違う奇妙な模様が部屋全体を覆いだした。それは段々と輝きを増していく。


 そしてアテナ母さんの言霊が響く。


「――〝異天創造〟」


 その瞬間、地下室全体を膨大な魔力が駆け巡る。そして円卓付近に先ほどの奇妙な模様が浮き上がり、円陣が現れた。


「ふぅ。これで完成ね」


 アテナ母さんやロイス父さんたちが一息ついた。


 アテナ母さんたちがやったこと。それはこの地下室を空間的に断絶、つまり異界にして外部と切り離したのだ。そして円卓部屋に現れた模様は唯一、外部とこの地下室を繋ぐ空間的な通路の扉なのである。


 また、その扉と対になる扉は俺とライン兄さん、そしてロイス父さんとアテナ母さんが一緒に寝ている寝室だけにある。


 何故、執務室や個人用の部屋にせずに寝室にしたかは疑問が残るが置いておく。


 また、そもそもこの地下室はある一室を除いて空間魔法関連が使えないように、そもそも設計されており、直接転移することができなくなっている。そのため、空間魔法に連続する“宝物袋”は円卓部屋とある一室を除いて使えなくなっているのである。


 防犯のためである。多少なりとも不便があるが仕方がない。


 まぁ、そんなこんなで夏の時期における夜の帳が完全に下りたころ、地下室が完成したのである。


 腹が減った。

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