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第51話:地下室創造開始:this summer

「さぁ、始めるわよ!」


 早朝、アテナ母さんが俺たちみんなの前で宣言する。早起きは嫌いだが、今日は仕方がないので文句をあまり垂れず、起きた。


 アテナ母さんの宣言に、屋敷の庭で整列しているロイス父さんや、俺たち兄弟、使用人たちが一斉にうなずく。アテナ母さんは一段高いところで浮いている。無駄に高等技術である。


「ロイスたちは地下空間を作るからその手伝いを。それ以外はその後の準備をお願いね」

「はい」


 そして俺やロイス父さん、レモンやアランはアテナ母さんについて行き、それ以外のエドガー兄さんたちはマリーさんの後について行った。



 φ



「さて、まずだけど階層結界などを張っている空間にいきましょうか」


 そう言ってアテナ母さんは俺たちに手を差し出す。ロイス父さんやレモンが躊躇なく自分の手を重ねたので、俺はアランに抱えられながら、俺も自分の手を重ねる。


「では、行くわよ」


 そして、結界アーティファクトがある地下空間に転移した。


「へー」


 そこは、どでかい金属の塊がただただ存在している空間だった。しかし、そこには魔境にも劣らないほどの魔力が満ちていた。


 解析してみると幾つかの特性などが付与されており、また、その中にある金属の塊は高位の魔金属で構成されていた。


 今まで屋敷の下にこんな魔力が満ちている空間があるとは気が付かなかった。巧妙に隠蔽されていたんだろう。


「これってアテナ母さんの魔力?」

「ええ、そうよ」

「ふぅん」


 ん? でも、これだけの魔力を常にここに満たしているのか? 今、目の前にある巨大なアーテファクトはあり得ないほどの魔力を消費しているぞ。それを常に満タンで補充。ありえない。


「セオ、今はそれに答える時間がないからまた今度ね」


 しかし、目の前にいたロイス父さんがその疑念を遮る。確かにそうだな。


「うん。分かった」


 ロイス父さんは少し申し訳なさそうに頷いた。


 そんなやりとりをしていたら、転移してからずっと目を瞑っていたアテナ母さんが声を上げる。


「セオ。ラインの研究室などを追加した設計図を見せてもらえるかしら」

「ちょっと待って。……はい」


 "宝物袋"から設計図が書かれた二枚の紙を取り出す。俺が描いた部分とアテナ母さんが描いた部分が合わさった設計図である。昨夜、完成させたのだ。


「ありがとう。……なるほどね。レモン」

「はい」


 アテナ母さんはその紙を見て納得したように頷き、それをレモンに渡す。


「確認しました」

「なら、大丈夫ね」


 レモンは渡された設計図に目を通し、アテナ母さんに設計図を返す。そして、アテナ母さんはそれを受け取り、レモンの手を取った。


「じゃあ、いくわよ」


 そうして、二人は目を閉じて。


 瞬間。


 突如、上部で膨大な魔力が発生した。アテナ母さんとレモンの魔力である。


 その魔力は蠢き蠢き形を作っている。それに伴って地鳴りがする。多分、土魔法か何かで地下室の空間を作っているのだろう。


 それから少し。地鳴りが収まり、アテナ母さんたちが「ふぅ」と一息ついた。


「上手くいったかい」

「ええ、必要な空間は作れたわ」


 上部にある魔力の残滓に集中する。


 なるほど。先に、必要な範囲の空間を作ったのか。つまり、今上部は、豆腐型の空き空間が一つあるだけなのか。


「さ、屋敷が傾いても困るから、早速取り掛かりましょうか」


 そう言ってアテナ母さんは再び手を差し出し、俺たちはそれを握る。そして、転移した。


 ところで、庭の方で土魔法を使えばよかったんじゃないのかな?


 まぁ、いいや。


 そんな疑問は一瞬にして置き去りに、転移した空間の広さに驚く。ざっと見た感じ、屋敷と同等の範囲だろうか。


「ねぇ、アテナ母さん。感じた範囲より広いんだけど」


 感知した魔力の残滓で感じた空間の広さより、より広い。ああ、だけど、設計図ではこのくらいの広さだっけ?


「あら、セオはまだ魔力の感知が苦手なのね」


 へ? 確かに得意ではないが、苦手でもないはずだ。少なくともあれだけの膨大な魔力が動けば見逃すことはない。


「まぁ、それも後にしましょう。最初に基本的な区分けをするわ」

「はぁい」


 そう言ってアテナ母さんは手に持った設計図を地面に広げる。


「アランとレモンはここを」


 アテナ母さんは設計図の一枚を開き、その一部を指す。


「わかった」

「了解しました」


 アランとレモンはそれを少し見続けた後、動き出した。把握したんだろう。


「ロイスとセオはここね」


 そう言ってアテナ母さんは開いていた設計図の一部を指す。そこは、俺専用の工房空間だった。自分で描いたので事細かに把握している部分だ。


「うん、わかった」

「了解、アテナ」


 そこに対して文句もなく、しかしやるべきことがあまりわからない。っていうか、みんな言葉を交わさなすぎである。


「けど、アテナ母さん。具体的に何するの?」

「えっと、それはロイスに聞いて」

「ん? わかった」


 アテナ母さんは何故か焦っている感じだった。設計図と睨めっこして少し唸っていた。その設計図は昨日、アテナ母さんがしっかりと確認していたはずである。不備はないと思うんだが。


 まぁ、ただ、ロイス父さんが何も言わず指定された区画に移動したので、俺も疑問を一旦打ち消し、ロイス父さんについていく。っていうか、疑問が保留されまくっている。


「意外に魔力消費量が大きくて焦っているんだよ。アテナは。多分、昨日の疲れが残っているんだろうね」


 と、指定された区画に着いたらロイス父さんがそう言った。相変わらず、聞いてもいない疑問に答えてくれる。まぁ、嬉しんだが。


 しかし。


 へぇー。あの魔力量が世界一イィ!のアテナ母さんでもそんなことがあるんだ。と思わず、意想外なアテナ母さんの心情に驚いてしまう。


「まぁ、そこまで気にしなくても大丈夫だよ。多分、いつもの悪い癖が出ているだけだから」

「?」


 悪い癖は分からないが、まぁ、ロイス父さんが言うのだから大丈夫なのだろう。


「それで、セオ。まずは柱を作るよ」

「わかった」


 それから俺とロイス父さんは先ず、支柱となる柱を土魔法で作り上げていく。ロイス父さんは土魔法の適性があまりないが演算能力と魔力のごり押しで土魔法を行使し、俺も魔法適性が無いので土魔術を使う。


 というか、魔力操作は得意な筈だから、ロイス父さんも魔術でやればいいのに。


 まぁ、意図してやっているんだろう。


 なので、その疑問は胸に仕舞い、違う疑問をぶつける。


「けど、ロイス父さん。土魔法で支柱を作って、耐久性とか大丈夫なの?」


 土魔法はあくまで土を生成したり、操作したりする魔法である。圧縮などもできるが、石材や金属、木材の様に高い耐久性を得られるわけではない。


 それに、一応工房である。爆発とか色々とあるから耐久性が高い方が格段に良い筈なのだ。


「ああ、それは大丈夫だよ。今作っているのは、謂わば型なんだ」

「型?」


 ロイス父さんは少し大仰に頷く。何か機嫌がいいらしい。


「ああ、錬生魔法のための型なんだよ」

「……それってアテナ母さんが使うの?」


 錬生魔法。確か、幻想魔法の一種で金属や石材などの物質の変換や変質ができる魔法である。それは世界で一番硬い神鉄まで作れるという魔法である。


 確かにそれを使えば土を金属類に変質させることができる。金属を操作するのは意外と大変だしな。


 しかし、それ故に魔力消費量が高い。アテナ母さんの魔力量が足りるかどうか。


「いや。アテナも確かに使えるけど、錬生魔法に関しては僕の方が使えるんだよ」


 あまりに衝撃的な言葉に行使していた土魔術をやめてしまった。


「へ?」


 いやいや。ロイス父さんは一般的な魔法使いに比べあらゆる魔法で適性がない筈である。


 まぁ、ロイス父さんは既に人間を半分やめている身なのでその分の魔法適性はあるが、しかしそれでも、卓越した魔力操作技術と魔力量でごり押しして使っているに過ぎない。


「確かにセオが考えている通り、僕はそこまで魔法の適性はないよ。けど、二つだけアテナ以上の魔法適性があるんだ。一つは錬生魔法。もう一つは無魔法だね」


 無魔法は分かる。それだけの魔力操作技術があるのだから。といっても無魔法は誰にでも適性があるんだが。まぁ、ロイス父さんはその適性がより強いのだろう。


 だが何故、幻想魔法である錬生魔法だけ高い適性があるんだ? 錬生魔法に適性があるのならば、それを源流としている一般魔法の適性も高い筈だ。土魔法とか。


「……それは秘密かな。僕の力の根幹に関わるから、簡単には話せないよ。それにそういうのはセオ自身が自分で見つけて欲しいしね」


 力の根幹? 特異能力ユニークスキルとかそんな感じか?


 まぁ、いいや。後でロイス父さんが錬生魔法を行使するから、その時に“解析者”を全力で解析しよう。


「わかったよ」


 なので、俺は深くそこには触れず、中断していた土魔術を行使して、最後の支柱を生成した。

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