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第42話:嫌って愛す?:this summer

「お礼?」


 謝罪は何となくわかる。エウはとても嫌そうな顔をしているが、それでも何が謝罪なのかは分かる。それを謝罪と言っていいか分からないが。


 しかし、お礼とはなんだろう?


「……」


 それをエウは言葉ではなく、行動で示した。


 華麗にフィンガースナップ。すると、俺のポシェットが光り、そこから金緑の光に包まれた小袋が浮き出てきた。


「……この子たちを見つけてくれたお礼」


 そして、小袋から金緑の渦に巻き上げられた種が出てきたのだ。それがエウの掌に軽やかに着陸する。


「……この子たちは自然には亡くなってしまった存在」


 エウは優し気に愛し気に種を撫でる。そこには子供を愛する母がいた。


 でも……自然には? あれか、種の保存的な感じで幾つかは保管してあるとか?


「でも、エウなら見つけられたでしょ?」


 そもそも、エウの力を持ってすればそれくらいは見つけられたはず。


 俺の問いにエウは当たり前だと、その神性を宿した無表情で頷く。


「……そう。けれど、この子たちは人間に発見されるべき。私では意味がない」


 どういう意味だろう。俺は視線で問いかける。


「……アナタが見つけたことは癪だけど。ラインちゃんが良かった」


 が、エウは拗ねた表情で溜息を吐き、答える気はなさそうである。っていうか、そんなに俺が嫌いですかね。


「……魔力を込めた。トリートエウと同じ育て方をすればいい」


 それから、もう十分だと言わんばかりに頷いたエウは、種を小袋に入れ、俺に返した。そして金緑の葉の渦で自身を包み、宙に溶けるようにいなくなった。


 自然過ぎる。突然すぎる。


「……ぇえ」


 俺はエウが消えた空中を見ながら、呆然と立っていた。ロン爺はそれを見ながら座った。


 それを見て自分を取り戻し、俺も座った。


 はぁ、流石は神と名がつく存在である。こちらの都合などお構いなしだ。


 でも、種については分かったな。枝については話しすらできなかったが。


 と、思った瞬間。


 ドサッ。


 樹の机の上に俺の腕の太さほどある丸太が数本置かれていた。


「……どういう事?」


 あまりの出来事にわけが分からない。


「セオ坊の事を嫌ってないってことだろな」


 エウが出したのは分かる。そもそも、ロン爺が言った通りトリートエウの枝を自由に扱えるのはエウだけなのだ。


「はぁ?」


 が、それ以外は全く分からない。エウの目尻や眉、それらを含めた表情の動きからでは嫌悪感しか感じないんだが。


「〝神樹の祝福〟もあげたんだ。セオ坊自身のことは嫌いではないんだ。セオ坊の魔力が嫌いなんだ」

「どういうこと?」


 昼過ぎにも聞いたことだが、やはり気になってしまう。


「昼にも言ったが、それは私の口からは言えん。いずれエウから聞け」

「はぁ……」


 本当にわけが分からない。魔力に好き嫌いがあるのか? いや、魔力にとても敏感になると好き嫌いもでるのか。アテナ母さんとかに聞いてみるか?


「っていうか、祝福って何?」


 エウのペースに乗せられ忘れていたが、お礼として何か貰ったんだよな。


「〝神樹の祝福〟だ。神樹だけが授ける事が出来る称号だな。エドガー坊やユリシア嬢、お前さんの両親も授かっている」


 あれか、守り神の力を譲り受ける一族みたいなものか? 巫一族的な? そんな設定的な感じか? あ、でもライン兄さんがいない。


「ライン兄さんは?」

「ライン坊はそれより上位の〝神樹の加護〟を授かっている」


 それを聞いて納得がいく。あの植物オタクというか何というか、あれだけ植物を愛しているしな。


 ん? でも、〝神樹の祝福〟って称号なんだよな。天のアナウンスが聞こえなかったんだが。聞き逃したのかな。


 まぁ、いいや。


「それがあると何なの?」

「祝福は、神樹が見守ってくれるのと、植物との親和性が高くなり、それに準じた能力スキルを獲得しやすくなる。加護はそれにプラスして植物に愛される」


 めっちゃ破格なんだが。植物との親和性が高いってとても有用な能力じゃん。前世でも植物が世界を握っていると言っても過言ではなかったし。


 でも、最後がわけが分からない。


「愛される?」

「まぁ、植物に助けられる?」


 ロン爺は困り果てた顔をしながら答えた。厳格な顔がここまで歪むのは珍しい。


「何で疑問形?」

「言葉にするのがとても難しいんだ」

「そう」


 確かにそういうのはあるよな。この世界に来てから特にそんなのが増えた。能力スキルとかホント感覚だしな。理論もあるが、それでも感覚的な演算に頼ってしまう。


「まぁ、〝神樹の祝福〟を授けられたならそれは神樹に愛されている証拠だ」

「は、はぁ」


 そういう事らしい。ロン爺が言うなら確かなのだろう。まったくもって実感はないがそういう事らしい。


「枝まで分けて貰ったんだ。今度会ったらお礼を言っときな」

「うん。もちろんだよ」


 ホント。枝の事なんて一言も言ってないのに分けて貰ったんだ。神樹の枝なんて価値が付かないほどに貴重なのだが、それを気前よく分けて貰った。


 感謝して当然である。


 でも、どうやって知ったんだろう?


「エウはどこにいようとも、この神樹で起こったことを把握している。大方、盗み聞いていたんだろう」


 思考を読まれたがもう慣れた。いつもの事である。


「そうなんだ」


 プライバシーが完全にゼロである。まぁ、神と名がつく存在だ。そう言うのは気にしない方が良いだろう。


 にしても……


「すごいな」


 流石、神樹の枝である。


 目の前にある枝は濃密で神聖な魔力を多分に含まれている。それだけあれば一財産が築けるぐらいである。それが数本。


 これがあれば、魔道具作りがとても捗る。捗るどころでない。二段階以上の次元を超えられる。今まで詰まってたところも乗り越えられる。めっちゃ感謝である。


「ところで、セオ坊。枝は何に使うんだ?」


 腕を組みながら、ロン爺が訊ねてくる。


「あれ、言ってなかったっけ。えっと、書類整理を補助する魔道具の部品に使う。あと、あれだ。……いや、ごめん。言えない」


 列車については発想自体に色々と問題がありそうだからな。富やら何やらと色々と絡んでくるし。魔術の件で俺は学んだのだ。たぶん。


「言えない?」


 ロン爺は俺の答えに怪訝そうな表情を浮かべる。厳つい顔がさらに鋭くなり、とても怖い。


「色々と面倒になりそうだから、今は言えない」

「そうか」


 ただ、ふわっとした答えでロン爺は納得がいったらしく、そこで話を切った。


「あ、そう言えば、トリートエウの育て方ってどうすればいいの?」


 トリートエウってそもそもの現存している本数が少ない。、それに現在、発見されているトリートエウは最低でも千年前から存在しているので、育て方の文献とかが無いのだ。種も作らないし。


「ああ、そう言えば文献は残っていなかったな。じゃあ、今から言うからメモの準備を……ああ、セオ坊は能力スキルで記録できるのか」


 そういって勝手に納得いったロン爺は、それからトリートエウの育て方について懇切丁寧に教えてくれた。


 そのなかで知らなかったことが多く知れてよい経験になった。


 そうこうしていたら、夜の帳が完全に降りて、トリートエウの天空庭園は暗闇に包まれた。


「もう、帰る時間だな。セオ坊、もう用はないか?」

「……うん。今のところないよ。また、何かあったら来るよ。まぁ、浮遊魔術とか使えるようになってからだと思うけど。来るのが大変なんだよね」

「それなら問題ないぞ。〝神樹の祝福〟の効果で神樹の枝葉が届くところなら自由に転移ができる」

「え、マジ? ……もしかして魔力も消費しない感じ?」

「ああ」


 マジか……破格ってレベルじゃないぞ。やばい。お伽噺に出てくるレベルだ。


「ん? じゃあ、簡単にここにこれるじゃん」


 うん。ロン爺と話せる時間が増えた。めっちゃ嬉しい。


「そうだな。……それで、セオ坊。家まで送るから手に掴まってくれ」

「うん? ……わかった」


 普通に〝神樹の祝福〟で帰ればいいと思うんだが。だけど、そう言うには理由があるんだろう。


 なので、皺が深く刻まれたロン爺の手を掴む。


「行くぞ」


 ロン爺はそれを確認して、スッと目を閉じた。


 刹那。


「ぇえ……」


 今日何回目の驚愕か。俺の目の前に広がっていたのは屋敷の玄関であった。


「では、また」


 余りの出来事に呆然としていた俺を気にすることなく、ロン爺は手を振る。帰るらしい。


 なので、長年にわたって築かれた癖で無意識に俺も手を振り返す。


 それを見て頷いたロン爺は、そして次の瞬間、消えた。


 転移したらしい。

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