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第38話:多人恐怖症ではありません:this summer

「なるほど、わかった。あたいは三日後までにそれらをケーレス爺さんの所に届ければいいんだね」


 設計図と必要な材料を取りまとめた用紙を見せながら、俺はアカサに説明した。アカサはそれを聞きながら、何やらメモをとり、そして聞き終ったらそう言った。


「うん。できそう? あと、お金の方はいつもの所から出して欲しいんだけど」

「問題ないな。料金のセオ様の売り上げから差し引いとくよ」


 そう言いながら、アカサはさっき整頓した書類の中から一束の書類を取り出す。


「今月分のセオ様の取り分だね。先月創った〝扇風魔道具〟が好調だね」


 俺はそれを受け取り、詳細を見る。書類には俺が今まで考案、設計した魔道具とそれらの売れ行きが記されている。


「あと、セオ様に教えて貰った計算方法が使い勝手がいいって、サリアスが言ってたよ。……まぁ、今月の分でセオ様もちょっとした小金持ちさ。やるね」


 初めて町に出たのが三か月前。それから俺は直ぐに、アカサと色々話し合った。その内容は大幅に割愛するが、その中で魔道具の話が出てきた。


 当時、俺はまだ、加工に関する技能アーツをほとんど持っていなかった。なので、魔術や普通に道具を使っていたのだが、如何せん、魔道具を作るための精度が保てなかった。


 ただ、そのままでは悔しいので、思いついた限りの魔道具の設計図はいっぱい書いてあったのだ。


 それをアカサに見せたところ、設計図を買い取らせてくれと言われたのだ。ついでに、商業鍛冶ギルド協定特別技術使用料、これは商業ギルドと鍛冶ギルドの間で決まっている取り組み、いわゆる特許料みたいなものだが、それを支払うといったのだ。


 およそ半分。


 それを聞いた瞬間、思考が停止した。一時間くらい。


 だってあり得ないだもん! 普通、特許料は三パーセントから五パーセント。一割もあったら暴利と言われるくらいだ。


 それが五割。半分。


 キチガイ。狂気。赤字まっしぐら。


 と、思ったのだが。


 そのあと、幾つかの条件が付けられた。まず、アカサ・サリアス商会と専属契約を結ぶこと。また、最初に買い取る商品・技術以外の使用料は五パーセント。それでもいい方だ。


 それにプラスして、俺の前世の知識や技術を一ヶ月に一回、一定料で買い取ること。その一定料は一回で小さな家が建つくらいだ。


 それが良いのか悪いのかは分からない。その一つの知識だけで財産を築くこともできるが、使い道が無ければゴミである。


 もちろん、吟味はする。アカサ達にも利益がありそうな知識を売る事とその知識が大きく悪い方に影響しないか。それを加味して、吟味する。


 特に後者の方は注意が必要だ。そもそも知識に善も悪もない。その知識を使う人間に善悪がある。いや、まぁ、善悪なんていう簡単に二択で分けられるものではないのは百も承知だが、こちとら小心者なので、その知識が元で世界が戦争の渦になりました、とかだったら気分が悪い。


 それに俺が見つけたわけでもないし、考え出したわけでもない知識を喧伝する事に気が引けるのもある。


 また、それにプラスして、魔術の時点でやらかしてしまってるので、少し臆病になってたりはする。だが、前世では考えられないほど、アイデアなどが浮かんでくるため、それは誰にも見せない用の本にまとめたりしている。


 まぁ、それは置いといて、アカサはそれらを条件として提示したのだ。


 俺はまぁ、良い提案かなと素人ながらに思ったので、俺の情報が広まらない事と,

もしなんかあったら後ろ盾になる事などを盛り込んで、俺はその条件を呑んだ。


 金に目が眩んでしまった部分もあるが、ロイス父さんとアテナ母さんに話は通したのでたぶん大丈夫だろう。ここら辺の他力本願さが日本人の悪い癖だと思わなくもないが、それも呑み込んでおく。


「で、これも買取で良いんだね?」


 俺がそんなことを考えていたら、アカサが設計図を持ちながらそう言った。


「いや、まだ、それはロイス父さんに話は通してないし、それに試作段階なんだ。その魔道具に使われている技術の一部はまだ、未完成というか、キチンと使えるかどうか分かってないからね。そこはアテナ母さんとも話し合いたいからさ。買取は見送りたい」

「ああ、わかったよ。じゃあ、あたいは材料の発注をしてくるよ。セオ様はどうする? ケーレス爺さんの所に行くのかい?」

「いや、ケーレス爺さんの所には今、行っているから下で魔道具でも見ていくよ」


 俺がそう言ったら、アカサは少し考えこんで。


「ああ、“分身”かい。でも、ケーレス爺さんは怒んないのかい?」

「それが、“分身”を見たいとか何とかで、用があるときは分身体をよこせって言われてて……」

「相変わらず訳が分からない爺さんだね。まぁいいや。それじゃあ、あたいと一緒に下に降りるか」

「うん」


 アカサはゆらゆらと尻尾を揺らしながら、怠そうに立ち上がり、歩き出す。決して、面倒とか思っているわけだはなく、デフォルトで怠そうに見えるのだ。


 俺はそんなアカサの後ろをついて行きながら部屋を出る。


 それから、俺が上って来た階段を下りていく。その階段は薄暗く、窓がないが、落ち着く場所である。たまに、昼寝をしにここに来ることもあるくらいである。俺にとってとても相性がいい場所なのだ。


 なので、安心した心持ちでアカサの尻尾の揺れを楽しみながら、数分かけて一階まで降りた。アカサの部屋は最上階でとても高いのである。


「じゃあ、セオ様、あたいはこっちだから」

「うん、わかった。また、後でね」


 そして、一階の店の裏側の廊下を少し行った先で、俺とアカサは別れた。アカサは職員専用の場所に行ったのだ。俺はアカサ商会の店側に続く廊下を進む。


 時々、従業員とすれ違い、会釈をする。従業員の人たちは俺がそこにいることに対して何の不思議も抱かない。ここ数ヶ月、しょっちゅう俺がここを通ってお店に入っているので、慣れてしまったのだ。


 表から入ると、なんか注目されて少し居心地が悪いのだ。ライン兄さんやエドガー兄さんとかなら、たぶん気にしないんだろうが、俺は少し気になってしまう。大勢の人にいっぺんに、注目されるのが苦手なのである。


 それから、少し廊下を歩くと小さな片扉が見えてきた。俺がその前に立ち、静かにその扉を開ける。


 そこにはこれぞ冒険者って感じの格好をした人たちが静かに仲間と話し合っていた。それが数組。


 彼らの目の前には武器の形をした魔道具があり、たぶん相談だろう。


 また、彼らはそれらに夢中で俺に気が付かない。ここは魔道武器専用の区画なので、冒険者以外の人たちはここにはあんまり出入りしない。


 なので、少し気配を消せば問題なく、注目されることなく店内を歩き回れる。いや、これくらいの人数なら問題ないのだが、気分である。


 さて、と。ユリシア姉さんに頼まれたものでも探しますかね。いつも通り、剣系の魔道具と軽鎧の魔道具だろう。


 俺は店内を回りながら、面白そうな魔道具を頭の中でリストアップしていく。ついでに、詳しい構造などを“解析”などを使って。丸裸にしていく。


 今後の魔道具作りに生かせそうなところを頭の中にメモしていく。それは比喩ではなく、“解析者”が内包する能力スキルにそういうのがあるのだ。特異能力ユニークスキルは幾つかの能力スキルを内包する特別な能力スキルのことを指す。


 週に三回くらい俺はここに来て、勉強をしているのだ。ついでに、ここは実用的なもの以外にも娯楽や何に使うか分からない魔道具やアーティファクトを買ったりしている。


「お、これはユリシア姉さんに丁度良さそうかな」


 俺は呪い系の魔道武器が置いてある場所である剣を手に取った。


 その瞬間。


「う、重い。つか、怠い」


 体中の魔力が強制的に掻き乱され、体に力が入んない。ついでに、魔力を吸収されてしまう。


 俺は慌てて体内の魔力を活性化させ、呪いに対応する。


「ふぅ。不用意に触るものではない。……でも、これは訓練用の剣として使えるんじゃないかな。魔力攪乱による身体能力の低下とかがあるし、魔力操作の訓練になる。よし、これを買うか」


 俺は近くにいた店員さんの所に行った。

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