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第19話:みんな悪気はないんです:this spring

 丁度、フォート橋は城壁に繋がっていて、三メートル程度の大きな両開きの鉄扉がある埋門うずみもんみたいな門が、橋の行く手を塞いでいる。


 ロイス父さんはその鉄扉の前まで行って、鉄扉をコンコンと二回叩いた。


「はい、なんでしょうか」


 すると鉄門の一部が小窓の様に開き、おっさんが顔を出した。


「やぁ、ピョートル。小扉を開けてくれないかい?」

「……、ああロイスさまでしたか。了解しました。少しお待ちください」


 そう言って、小窓が閉じ、カチャカチャと音が鳴った後、ギギギッと、金属が擦れる音と共に鉄門の端のの小さな片開きの扉が開いた。流石に門を全て開けたりはしないか。ただ、常時、門を開放していないのが不思議だ。


「どうぞ、お通り下さい」

「ありがとう」

「ありがとうございます」


 ロイス父さんと俺は丁寧に誘導してくれるピョートルに礼を言って、小扉をくぐった。


 そして俺の眼前にはこれこそ異世界?って感じの石畳の街道と住宅街が現れた。淡いシンプルな色合いの住宅がずらりと並んでいて、雰囲気がある。屋根の色は紅葉色である。今のところ。


「わぁー!」


 そして俺は、思わず感嘆が漏れてしまうほど感動している。


 だって、海外旅行なんてしたことないし。こんなヨーロッパみたいな街並みを直で見たのは、初めてなんだ。というか、国内の旅行も全然していない。


 そりゃ感動するさ。


「セオ。探索する時間は後でいっぱいあるから、先に用事を済ませちゃうよ」


 ロイス父さんは感動で棒立ちをしている俺の背を優しく押しながら歩き出した。


「もうちょっと感動に浸らせてよ」


 俺は少し文句を言いながらも、ロイス父さんの隣に並んで歩く。


 そうして俺たちは街道を歩く。歩いていく。


 それから数分。


 それから少し歩いて分かったのだが、露店が幾つか並び見た感じ栄えてるような気がする。だが、売買は物々交換が基本らしい。硬貨を使っている人もいたが、それは武器などを帯刀した人々や上等な服を着ている人々であった。あと、通行人の大半が彼らで占められている。


 たぶん、冒険者や商人とだと思う。また、彼らは人種が多種多様で獣人や鬼人、なかにはエルフなどもいて、とてもファンタージでワクワクする。


 また、それでも普通の服と少し特徴的な髪飾りを身に着けている人たち、たぶん町人だと思う人たちもいて、歩いているロイス父さんに気が付くと一礼して挨拶してくる。見ている感じ、ロイス父さんと町人の距離は近いらしい。


 そして俺の方を見て首をかしげロイス父さんに問うのだ。「誰の子ですか」と。どうやら、顔面偏差値が違い過ぎてロイス父さんの子には見えないらしい。


 はぁ、別段俺の見た目がわるいわけではない。俺はごく普通の方である。ロイス父さん達が美形すぎるのだ。まるでギャルゲー乙女ゲーの主要人物みたいなのだ。そして俺はモブ。だから、見た目はわるくない。


 ……、見た目は割り切ってはいても、なんとなく気になるものである。まぁ、なんとなくではあるが。


 それから、ロイス父さんは苦笑いで自分の子供だと説明する。俺はそれに続いてキチンと名乗り上げる。そうすれば、町人たちは驚いたように目を丸くして、しかし直ぐに、にこやかな顔になって、よろしくねと、言う。またごめんなさいねと、目で俺に伝えてくる。


 まぁ、感じから気の良い人たちであることは容易に察することができた。風土的な気質なのかもしれない。


 中にはずけずけと口に出して驚く人もいたが、ただデリカシーがない人で、わるい人ではなさそうである。隣にいた奥さんに引っ叩かれてたので、すっきりしたのもある。


 そうやって真っすぐ街道に沿って歩いていると、中央に小さな噴水がある円形の広場にでた。広場からは、俺たちがいるのも含めて十字の様に大きな街道が伸びていて、それらの街道によって区分された四つに一個づつ大きな施設が入っていた。


 また、多くの人が行き交っていてここが町の中心ぽかった。こういう広場って、憧れるよな。前世じゃ仕事で全てを埋め尽くされていたしな。


「セオ。ここはラート町の中央広場、重要な施設が集まっている場所だよ。因みにあの噴水はアテナの自作なんだよね」


 ロイス父さんがさりげなく説明してくれる。ガイドの人みたいである。


「へぇー、そうなんだ。じゃあ、今日はその施設の人たちと会うの?」


 アテナ母さんに関してはスルーである。家に帰ったら色々と聞く。


「まぁ、そうだね。と言っても、全ての施設を回るわけではないよ。今日はもともと、町の会議も兼ねていてね。ちょうど、あの施設で会議するんだけど……」


 そう言ってロイス父さんは、俺たちがいるところから奥左手を指した。金属製の武器や装備、それとコスプレっぽい服装の人たちが多く出入りする少し砦の様な四階建ての建物だった。


「冒険者ギルド?」

「いや、あれは自由ギルドだよ」


 ああ、そう言えば自由ギルドは冒険者ギルドとかをまとめているギルドだっけ?


「そういえば、セオには自由ギルドについてキチンと説明してなかったね。……、まぁ、今は時間がないから屋敷に帰ったら説明するね」


 疑問が顔に出ていたのだろうロイス父さんは俺を見て、微笑してそう言った。


 それから俺の背中をそっと押した。


「じゃあ、行くよ」


 そうして歩き出したロイス父さんに、俺は周りに気を取られながらも、ぼんやりとついていった。

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