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第18話:アントとゲオルク:this spring

 例の地下扉から灌木かんぼくによって作られた道を歩いていると、目の前に清らかに流れる水の音と共に分かれ道と橋が見えてきた。


「お疲れさま、アント、ゲオルク」


 ロイス父さんは、フォート橋の両サイドにいた鈍く光る軽鎧を纏う男二人に軽く手を上げて労った。


「はっ、どうもです」


 アントと呼ばれた中年の男が変な敬語を使いながらロイス父さんに敬礼する。アントより少し見た目が若いゲオルクもそれに続いて敬礼する。


「ところで、今日は何の御用で町に――……、ああ、今日はセオ坊ちゃんの慣習が終わる日ですかい」


 敬礼と解いたアントは俺の方を見て、納得顔で頷く。


「そうなんだよね。まぁ、セオはすっかり忘れていたみたいでね」

「あはは。セオ坊ちゃんは抜けてますからね」

「ホント。ここら辺はアテナ似なんだよね。……それとアント。今度からセオもここを通ると思うから」

「わかりやした。それにしても大丈夫ですかい?」

「……、まぁ気を付けるようには言うけどね……」

「まぁ、セオ坊ちゃんですからね……」


 そう言って俺を見る二人の目は、もの凄い失礼な目をしていた。なんか、凄く馬鹿にした目である。


「何かな?」

「いや、なんでも」

「なんでもないですせい」


 俺がジト目で見返し問うと、二人はプイッとそっぽを向いた。ゲオルクは苦笑いでこっちを見ていた。


「それで、今日の様子はどうだい?」


 ロイス父さんは話題転換を図った。


「問題ございませんね。フォート川やバーバル川、ラハム川全てで異常は見つかっておりません。ただ、やはり数は増えていますよ」

「うん。それは自由ギルドからの書類で確認しているよ。それで従魔の方には負担はかかってないかい?」


 二人の話が長くなりそうなので俺はフォート橋の欄干に腰を下ろして、大河といって差し支えない大きな川を眺め始めた。ゲオルクも俺の隣に並んだ。


 そんな俺たちをほっといて、二人の会話は弾んでいく。


「私のトトマトもゲオルクのルルトトも問題ないすよ。むしろ、エサがあり過ぎるせいでいつもより元気すぎます。そのせいで暴れ足りないのか、寝かしつけるのが大変ですよ」

「あはは。確かにそうだね。……、あ、そうだ。だったら今度、家の子たちと模擬戦をしないかい?」

「模擬戦ですかい?」


 キョトンと首をかしげるアントだが、おっさんがそれをやってもムカつくだけである。


「うん。そろそろエドガーとユリシアに魔物の対戦経験が必要かと思ってね」

「確かに、それだったらトトマト達もストレスが発散できますよ。いや、それにしても模擬戦ですかい。面白い事になりそうですね」

「そうだね。まだ、二人とも魔物と直接戦闘した事ないから、楽しみだね。しかもその初戦が彼らだったらなおのこと」

「ですね」


 妖しく笑い合う二人に、いやな予感しかなかった。


「じゃあ、決まりだね。詳細は帰ってくるときに伝えるよ」

「了解しやした。では、後ほど」


 そう言ってアントは、歩き出すロイス父さんに敬礼をした。


「ほら、セオ。行くよ」

「あ、待って。……、またね、ゲオルク」


 慌ててロイス父さんの後を追いかける。そして、後ろを振り返ってゲオルクに手を振った。ゲオルクは無言で手を振り返した。相変わらず、無口で心地のよい男である。


「で、その模擬戦はいつやる予定なの?」


 ジト目でロイス父さんを見つめる。その日は超警戒しなければならないからな。


「そんな目で見ないでよ、セオ。今回はラインやセオには何もしないから」

「どうだか。ロイス父さんのこういう思い付きは、いつも大事になるじゃん」


 普段真面目な分こういう時は面倒くさいのだ。というか、常に真面目でカッコイイ、ロイス父さんでいてほしい。


「信用がないな。まぁ、大丈夫だって」

「はぁ」


 そう言ってにこやかに笑うロイス父さんに俺は溜息を吐く。用心深いロイス父さんが適当なのがさらに不安だ。何で、常に用心深くいないのが不思議でならない。


 まぁ、いいや。それより。


「ねぇ、ロイス父さん。今まで気にしてなかったんだけど、アントたちは何の仕事をしてるの?」

「あれ、ゲオルク達から聞いてなかったの? 二人はね、この町にある川の管理をしているんだよ」

「町って屋敷や研究農業地帯、トリートエウとか含んでの?」

「うん。そうだね」


 ふーん。面倒くさい。そもそも、ラート町の構造がおかしいんだよな。


 まぁ、いいや。


「管理って具体的になにしているの?」

「魚の量や水質を調整したり、あとは魔物の討伐だね。ほら、ラハム川はまだしもバーバル川はアダト森林とバラサリア山脈を源流に持つから、たまに水生や両生系の魔物が流れてくるんだよね。それに凶悪な魚も。それを討伐しているんだよ」

「討伐って、従魔で?」

「そうだよ。あの二人は従水魔師に天職を持っててね。水生や両生系の魔物を従えるのに圧倒的な適性を持っているんだよ」

「へぇー。初めて知った。……、ってか町の中に魔物がいるって大丈夫なの?」

「ほら、バーバル川とラハム川は町に入るときに城壁を通るでしょ」

「うん」

「そこで大型の魔物や強い魔物は結界や鉄格子ではじかれるから町の中に入ってくるのは弱い小型だけなんだよ。だから問題ないよ。それにフォート川に関しても、あれはそもそもバーバル川とラハム川をつなぐための川だしね」

「へぇー」


 ん?


「ねぇ、なんでフォート川があるの? 今の言い方だとさ、フォート川って人工でしょ?」

「ああ、それは幾つかあってね――っと、それは後。城壁の前に着いたよ」


 そう言ってロイス父さんが顔を上げた先には、橋の終わりと高さ七メートルくらいのつなぎ目のない茶色の城壁があった。

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