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第15話:主人公って大抵間が悪いよね:this spring

「起きてください。起きてください」


 体を揺すられる。そこに心地よさはなく、居心地の悪さを感じる。


 ンー。


 だれだヨもう。


「起きてください。セオドラー様!」


 バサッ。


 ああ、さむい。俺のこいびとが。恋人フトンが!


「どこ、何処」


 藻掻くように手を伸ばすが何も掴めない。


「もう何寝ぼけてるんですか。もう朝ですよ、朝。すでに、ロイス様たちは食卓に集まってますよ。起きてください!」


 ペチンペチン。


 呆れた声と共に頬を軽く叩かれた。痛い。


「ん、誰。俺まだねむ……」

「あー、もう!」


 ドサリ!


「痛いっ。もう何するの!」


 ドン。


「ツッー」


 重力によって床に叩きつけられた体は、バウンドしてガラクタ入れに当たる。


「ほら、早く着替えてください!」


 パサリと布が頭の近くに置かれる。


 ……。寝入るのは無理そうかな。


「ハーイ。わかったよ、ユナ」

「では、早く降りてきてくださいよ」


 そう言ってユナは屈んで小さな扉から部屋を出て行った。


 ……、扉を大きくしようかな。古めかしい小さな扉を見て申し訳なさが少し沸き上がる。


「はぁー。着替えよ」


 扉を大きくしようか考えてたが、天井窓から零れる朝日を見る限り、今はそれどころではないので考えるのは後にする。


 後でアランに相談しとくか。


 俺は肌寒い朝にシンプルな服を着ながらそう思った。


 Φ


 階段を降りるとドタバタと忙しそうな雰囲気が伝わってくる。


 それと同時に温かくおいしそうな匂いが鼻をくすぐり、お腹がグー、と音を鳴らす。


「んー。羊のスープとパンかな」


 漂ってくる匂いからそう判断し、ウキウキと心を躍らせながら、食卓へ向かう。


 アランが作る羊肉のスープは美味いからな。しかも、味付けが良いからか、朝に食べても胃がもたれない。最高なんだよな。


 俺は花に誘われる蝶の如くゆらりゆらりと廊下を歩く。


「あっ、セオ様。やっと起きたんですね」


 と、水差しとコップを木製のワゴン運んでいたユナと出会った。


 何となく並んで食卓へ向かう。


「もう、みんな席についてる?」

「いえ、ラインヴァント様とユリシア様はまだ。今、稽古着から普段着に着替えてるところです」


 なんだ。なら、もう少し寝れたじゃん。


「それは無理だと思いますよ。ロイス様からのお達しで、今日からセオドラー様を早く起こすように言われているんです。何でも、早起きを慣らすためだとか。だから、実力行使も許可されているんです」


 赤茶色の髪を揺らしながらユナは淡々と話す。


「だから、さっきのは悪くないと?」

「え、ええ。そうですよ。これは命令なのです。所詮、一介のメイドには雇い主には逆らえないんです」


 しどろもどろに言い繕うユナ。


 ……、ま、いっか。


 あー。でも、もう少しで俺も朝稽古が始まるのか。


 普通に面倒くさい。結局、先週の魔法稽古の時はエドガー兄さんとユリシア姉さんので、朝稽古の不参加の話はうやむやになったからな。


 俺も上級魔術を使ったことをやり過ぎだと怒られたからな。確かに、やり過ぎた感はあるし。アテナ母さんとロイス父さんには上級どころか王級まで使って、〝痛界〟を突破させたし。


 怒られてもしょうがないんだよな。たぶん。


 はぁ。


 まぁ、アランとレモンに叩きのめされて泣きじゃくった二人を見れたから良かったけど。ホント、特にレモンに負けた時の二人の顔と言ったら。


「ぷぷっ」

「? 急に笑ってどうしたんですか。……。はっ。もしかして、さっき頭を打ったせいでおかしくなったとか――」

「いや、思い出し笑いだから。おかしくなったわけではないよ」

「思い出し笑いですか?」


 ユナはキョトンと首をかしげる。


「そうだよ。先週のユリシア姉さんとエドガー兄さんのね」

「先週……。もしかして、セオドラー様が珍しく早起きした日の事ですか。確かに、その日のお二方の様子は珍しかったですが」


 ユナは少し遠くを見ながら、片手を頬に当てて困惑する。


「ああ、ユナはグズってる二人しか見てないもんね」

「え、ええ。お二方とも珍しく目を腫らしていたので良く印象に残っています。そ、それに、セオドラー様と同じく朝に弱いレモンが私より早く起きてたので」


 ? 少し変な様子だ。


 ははーん。ユナはレモンがメイドの仕事は護衛とかのカモフラージュって知らないから、今でも動揺してるんだろう。


 あえて、伝えてないわけではない筈なんだよな。ロイス父さんの話だと雇用時にある程度の事情は伝えてるらしいし。


 ……。たぶんレモンの普段の様子が駄目過ぎるから冗談だと思われているんだろう。


「そうそう。それでその日の朝稽古で二人が大泣きしてね。その時の顔といったら!」

「顔といったらどうなのかしら?」

「それはそれは面白くて、間抜けで、阿呆面って感じで。特にユリシア姉さんなんて、駄々に駄々をこねまくって。プッ、プハハハ!」

「そう、それは良かったわね」

「……え?」


 パシンッ!


「グハァッ。痛っ! 痛い!」


 突然頭を叩かれて、押し倒された。


「ユリシア姉さ、やめ!」

「そう、嬉しそうね! ならもっと叩かないといけないかしら!」


 バシン。バシン。バシン。


「痛い、痛い! 謝るから、謝るから、やめ、ブベェ。や、やめて!」


 廊下に俺の絶叫が響き渡る。


「やめ、死ぬ。苦しくて死ぬー!」


 ユリシア姉さんが背中に圧し乗っているせいで苦しい。めっちゃ苦しい。


「うるさいよ。どうしたの!」

「あ、ロイス父さん! 助けてぇ」


 騒がしさに飛び出してきたロイス父さんに助けを求める。


 が。


「カフッ」


 気絶してしまった。


 悪口には気を付けよう。そう思った今世であった。

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