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第14話:魔法稽古後編:this spring

「ちょっ、セオ! 流石にやり過ぎだよ!」


 煌めく星々彩弾が埋め尽くす天を仰いだロイス父さんが制止の言葉をかけるが、今更やめるつもりはない。


「大丈夫。ユリシア姉さん以外にはてるつもり無いから」


 まぁ、ユリシア姉さんにも中てるつもりはない。流石に星と謳う魔法をを中てるのは可哀想である。


 ……。


 いや、訂正。ロイス父さんとアテナ母さんには一発くらい中てる。


 なので。


「――〝流星雨〟」


 自分の手を指揮者の如く振り下ろす。そして指揮者の命に従って流星が降る注ぐのである。


 流星雨は風切る音を数々と奏でる。オーケストラとしても恥ずかしくないほどのオーケストラ力で会場を震撼させる。まぁ、全て風魔術で鳴らしているんだが。


 ドゴーン。


 一つの星が地面へ着弾する。


 それがフィナーレの始まりである。


 爆音と爆炎が舞い狂い、躍り出す星々は酔いつぶれて土へと消えていく。


「きゃあ!」

「痛い!」


 何か悲鳴が聞こえるが無視である。物凄い殺気が俺に向かって放たれているが無視である。


 あとが怖いが無視である。


 なので、ユリシア姉さんの方へ意識を戻す。


「まぁ、流石にユリシア姉さんも……、えっ!」


 驚きべく光景が目の前にあった。


「シャラァー!!」


 〝流星雨〟を漆黒の片手剣でぶった切っているユリシア姉さんがいた。


 鬼気とした表情で死に物狂いに片手剣を星に滑らせ、星と踊っていた。天焦がす蒼天の光を身に纏い、夜の星々と決して出会う事のない空を瞳に宿し戦っていた。


 あれ。一応、ユリシア姉さんに中てないように術式を組んでおいた筈なんだが。各魔力反応によって自動で彩弾が誘導され中らないようにしているのだ。もちろんアテナ母さんたちには中てるように誘導している。


 ……、っていうか何かエドガー兄さんもユリシア姉さんと同じ事やってないか。金色の光を身に纏い、深海を覗く瞳が静かに星を射抜き、自身と同等以上の大きさの漆黒の斧を振り回している。


 ライン兄さんは……、うん。大丈夫だな。ちゃんと避難している。感心顔で夜空を見上げている。


 でも……、あれ? これじゃあエドガー兄さんとユリシア姉さんをコテンパにする事はできてないのでは? 一応、エドガー兄さんはライン兄さんに負けたはずだけど、何かパワーアップしてるし。


 っというか、ユリシア姉さんも同様で魔力の質や能力スキルの格が一段と違うような感じなんだよな。


 “研究室ラボ君”に解析をお願いするか。


 ――了解しました――


 矛盾するが無機質で優しい声音が頭の中に響く。


 でも、了解してくれたらしい。


 最近は魔術の研究で忙しかったから、返事されるのが久しぶりで嬉しい。


 ああ、でも最近か。会話というか応答ができるようになったのは。“解析者”が俺と、俺と融合する予定だった魂と連結してしまったおかげで、面倒な仕組みになってしまったんだよな。


 元はなかった“研究室ラボ君”がいつの間にか“解析者”に存在してたし……。


 まぁ、いいか。


「それにしても……」


 俺は縦横無尽に動き舞う二人を見て、溜息を漏らす。


「やっぱり意味がなかったな。ていうか、二人の生存本能みたいなものを刺激してしまった感じだよな」


 二人の鼻っ柱を折り、魔法や武術に対して改めの意識を持って欲しかったんだが、それどころか、二人の心を、姿勢を強気にしてしまった感じがする。


 天を嗤い、星を睨む二人を見ているとそう思ってしまう。


「はぁ。……ねぇ、アテナ母さん、ロイス父さん。聞こえてるんでしょ」


 相変わらず轟音が満たす場で、しかしアテナ母さんやロイス父さん並みの人間が俺の小さな呟きを聞き逃すわけがない。


「何かしら、セオ」

「何だい、セオ」


 物理的に無視した声が耳の近くから聞こえてくる。本人たちは少し離れた所にいるはずなのに。風魔法かな。


「ねぇ、あれってさ、余計増長しちゃうんじゃないの。ほら、実質負けてないとも言い張れるしさ。魔術だって『卑怯だ』とでも言えば、虚勢は張れるじゃん。二人とも負けず嫌いだからさ。ホント、誰の血筋なんだか」

「それはアテナだよ(ロイスよ)」


 夫婦が互いを指す。一瞬にして睨み合う。遠目からでもはっきり見れる。


「二人とも、喧嘩するなら後にして。っていうか、ホントどうするの? 早いうちに対処しないと、パワーアップしちゃったから大人でも勝てる人少ないんでしょ」


 また、喧嘩になりそうだったので話を逸らす。


「いや、まぁ、エドガー達に勝つだけなら守護兵団の人たちでも問題ないんだけどさ、その後、上手く指導するっていうとなかなか難しくてね。僕の場合は二人の中では勝てない存在になってるからね。それもどうにかしなければならないんだけどさ」

「なるほど」


 俺は〝流星雨〟を操作しながら、アテナ母さんたちの方へ歩く。いつまでも、幽霊に囁かれる会話はごめんだからな。精神的に疲れる。


 でも、エドガー兄さんたちの成長のための指導か。二人を上手に考えさせ、成長させるっていうのは確かに難しいな。特に技術に関しては、なまじ二人の素養が高すぎるから難しい。


「……、ねぇ、レモンとアランに頼むのはどうかしら?」


 アテナ母さんが妙案を出した。


 ああ。確かに。


 二人ともとても強いしな。実際に戦闘しているところを見たことはないが、魔力の質とかでもそのレベルの高さが窺える。それにエドガー兄さんたちはまだ、魔力の質とかハッキリ判るわけではないからな。二人の感覚からしたら、気のいい料理人のおっちゃんとさぼり癖があるメイドっていう感覚だろうし。


 というかホント、アランは良いとして、何でレモンがあんなにヤバそうなんだろう。一回だけ見た戦闘装備は全て秘宝級だったし、それを身に着けられるだけで、レベルの高さが窺えるんだが、ホント謎。


「んーー、でもなーー」


 けれどロイス父さんは渋っていた。アラン達なら適任の筈なんだが。


「二人じゃ、駄目なのかしら」

「いや、駄目ではないんだけどさ。実力的に十分だし、二人とももいいからさ」

「じゃあ、何故渋っているの?」


 アテナ母さんの素朴な質問に、ロイス父さんは眉を思いっ切る歪ませた。


「二人にあれ以上の仕事を頼むはどうなんだろうな、と思って」


 丁度、二人の前に立った俺の頭に?が浮かぶ。


「ほら、アランに料理人と庭師の仕事、それにアダド森林の調査とマキーナルト領の作物の管理もやって貰ってるでしょ。レモンには領地に入ってくる不審者や諜報員とかの監視やアダト森林とバラサリア山脈の魔物の間引きもやって貰ってるし。特に、レモンはラインとセオの護衛も頼んでるしね」


 え! そんなに仕事をしてたの!?


「確かにそうね。アランは料理人と庭師に関しては趣味みたいなものだけれども、レモンの方は完全に仕事。最近までは夜の護衛もお願いしてたし……」


 頬に手を当てて、困った表情をするアテナ母さん。様になっている。


 ってそうじゃない。


「レモンって不眠不休だったの! っていうか護衛って何!」

「あら、気づいてなかったの? ほら私達って、まぁ強いでしょ。それでね、色々厄介な人たちがくるのよ。まぁ、痛い目を見せたから、エレガント王国の貴族たちにはそんな人いないのだけれどね。それにさっきも言ったけど私達って強いから、その子供であるアナタたちは高い素養を持っているのよ。それで、子供の時に力が暴走したら、命の危険もあるから護衛を頼んでたのよ」


 なるほど。前者に関してはあんまりピンとこないが、後者はわかる。


 そうか、レモンはそんな辛い仕事をしてたのか。これからはとても優しくしよ。


 感謝しまくろう。


「だとすると、これ以上は過労になっちゃうよね。というか、もう十分過労だし。ねぇロイス父さん。アラン達のアフターケアとかしっかりしてるの? 二人とも丈夫だと思って、そういうところ疎かにしたら、あとで痛いしっぺ返しが待ってるんだよ。休暇は? 給料は? 大丈夫?」


 前世では過労に過労を重ねたからな。とても辛いのだ。


「……。確かに、二人に甘えすぎてたかもしれないな」


 ロイス父さんも神妙に頷いている。隣でアテナ母さんが天を仰いでる。


「給料はもう少し増やした方が良いわよね」

「確かに給料は倍にしようか……、でもな……」


 二人とも直ぐに検討に入っている。


 そういえば、アラン達ってどれくらい給与を貰ってるん――


「いや、いらないぞ」

「はい、いりません」


 ――急に声が聞こえた。


「きゃ!」

「え!」

「おわ!」


 アテナ母さんとロイス父さんと俺は驚愕の声を上げ、腰を少し抜かした。


「何でいるの!?」


 ロイス父さんが動揺を直ぐに立て直し、アランに訊ねる。


「いや、それより早くあれをどうにかしないといけないんじゃないか?」

「あっ、確かに」


 アランが指さした先には、いつの間にか止んでいた〝流星雨〟によって、闘争本能がむき出しになっているエドガー兄さんとユリシア姉さんがいた。


 二人とも少し正気を失っていた。そういう目だった。

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