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第12話 アクアライン 封鎖できません!

 報道のヘリが状況の変化を叫ぶ。


「ロボットが!ロボットが山を降りました!」

「あああ、自動車道へ入ります!」


「東関東自動車道 館山線です! 東関東自動車道です! 東京湾アクアラインへ続く道です」


「アクアライン方面へ向けて移動をはじめました! 東京です、ロボットは東京方面へ向かってます」



 それまでギャンダムは上空をヘリが飛ぶのも気にする様子もなく。

 山を飛び超えたり、山稜に建てられている通信アンテナやそれら施設の類を、光りを放つビーム剣状の近接武器を取り出し、いろんなポーズを取りながら、まるで剣術道場の巻き藁でも切る要領でズバンズバンと切り倒したり。

 今度は殴ったり蹴り倒してみたりといった破壊行動を繰り返していた。


 それが突然山を降りて自動車道を疾走しはじめたのだ。

 上空から見れば北西方向へ向かっての移動、東京湾の向こう側は『東京都心』だ。


「この先には『東京湾アクアライン』の『アクアブリッジ』がありますが」


「アクアブリッジは、確か戦車の重量では通行できないと聞いたことがあるような気がします。いやわかりません。何トンまで耐えられるのか確認できてません! 巨大ロボットの重量に耐えられるのでしょうか? それとも橋を破壊するつもりでしょうか?」


「みなさん、付近のみなさんは直ちに退避して下さい」




 東京湾アクアラインとは────。


 1997年

 東京湾の中央部を横切るために長大な橋とトンネルで作られた、驚くべき総延長、15.1キロメートルの自動車専用道路である。


 地震が頻発するうえに海底部の軟弱過ぎる地盤は『マヨネーズ層』と呼ばれるほどの柔らかさ! 巨大構造物を作るなんて何かの悪い冗談だろう? という悪条件の難所。そこへ作ったのだ。

 そのあまりの厳しさと困難さから、技術者たちからは人類初の月面有人宇宙飛行になぞらえ『土木のアポロ計画』と呼ばれた。


 構想から30年以上の時を経て、総工費は約1兆4,000億円を費やし、ようやく実現に漕ぎ着けた、超超巨大都市大規模高速道路事業である。


 約5キロメートルが海上橋、約10キロメートルが海底トンネルとなっている。




 上空には各社報道機関のヘリだけでなく『UH-60J』といった自衛隊のヘリコプターも駆けつけていたが、偵察なのか何なのか特に何をすることもなく、ただ上空からロボットのようすを見守るだけで、マスコミのヘリの方がよっぽど接近して撮影しているほどだった。


「あああ今、たった今ロボットがアクアブリッジを渡り始めました。」

「大変です! 海ほたるパーキングエリアに居る方は直ちに川崎側に退避して下さい」


「驚くべき早さです! 時速100キロは出ているでしょうか!? 巨大ロボットが海ほたるへ向かって疾走しています、付近に居る方は直ちに川崎方面へ退避して下さい!」


「ロボットは東京湾に浮かぶアクアラインの中継地点、海ほたるパーキングエリアを目指しています、すぐに退避して下さい」


「ええ、アクアブリッジは今のところロボットの重量には耐えているようですが、崩壊の危険も考えられます」


「危険です、大変危険です、橋が落ちる可能性があります」


「ロボットは変わらず海ほたるへ向かってます、もうその先は海です、パーキングエリアよりさきは海底トンネルしかありません」


「どうか、どうかみなさん、逃げて下さい、命を守る行動をして下さい、我々にはロボットを止められません、逃げて下さい!」




 ギャンダムは海底トンネルへと続く直線の道路を進むのをやめ、ループ橋がロボットの侵入を防ぐように眼の前に覆いかぶさっているのをかわして左側の車線へと入っていった。


 もうそこは周囲ぐるりと360度を海に囲まれた全長650メートルの島、木更津人工島。世界でも珍しい海上に作られた、海ほたるパーキングエリアの敷地内である。


『海ほたる』

 上空から見るとちょうどジッパーの先っちょみたいなカタチをしている。

『YKK』って書いてそうな感じ。

 手前で2つの車線が枝分かれ、4つの車線の束に増えて、その行き止まりにある長方形の島。ギャンダムは今、その一番左側の車線から島に上陸した。


「ああああああ、ロボットが、ロボットが、ロボットがとうとう上陸しました、海ほたるに居るみなさん急いで逃げて下さい」


「ロボットが侵入しました、ロボットが海ほたるへ侵入しました、危険です、みなさん逃げて下さい!」


 ギャンダムは行く手に立ちはだかる高さ2.5メートルと書かれた車両制限の、黄色と黒の縞模様に塗られた頑丈無骨な鉄骨むき出しのゲートを、立ち止まることもなく少し減速しただけで難なく跨いだ。


 それがここでの唯一の障壁であったが、ギャンダムに意味はなかった。

 人工島中央部にあるレストランや店舗設備で賑わう客船にも似た外観の建物へとズンズン接近していく。


「ああああああああ────ッ!」

 リポーターが叫ぶ。あたりに緊張が走る。


 頑丈な巨大ロボットに対してその構造物はあまりにも脆弱で少し触れたれただけでも崩壊してしまうだろう。


 しかしギャンダムはその脇を通り過ぎた。

 そしてそのまま人工島の奥、展望を兼ねた公園へと進んでいく。

 そこには海底トンネル掘削時に実際に使用されたというシールドマシンが設置され、その直径の巨大さを見せつけているが、ギャンダムはそれよりさらに大きい。


 公園に入り速度を上げるとギャンダムは、躊躇なく人工島の端の部分にある、海中へと沈み込んでいく最後のコンクリートスロープを、波打ち際へと駆け下りて行った、次の瞬間。



 報道のリポーターはヘリから身を乗り出して見ていたが、完全にギャンダムを見失った。

 ギャンダムがリポーターの予想とは違う、遥かに速い速度でジャンプし、そのまま上空へと加速したのだ。



「あっ!!!!!!!」と言ったまま、実況の言葉が途切れる。


 必死で空間を走査するリポーターの目。

 肝心なところを見逃したというパニックでますます視界が狭くなる。

 居ない! どこにも居ないぞ!!

 クソッ、どこだ! どこだ! どこなんだ!


 見つからない! 見つからない!


 10秒……30秒……50秒……、報道ヘリの爆音が東京湾の海面を叩きつけて響きわたるのに、空白の時間だけが過ぎていく。


 リポーターのこめかみに玉のような汗が無数ににじみ出てくる。


 空を、海を、真下を、背後を、探しても探しても見つからない。


 どこだ!? おかしい! なぜだ!? なぜ見つからない! どこだ!!!


 見えるものも見えないほどあちこち高速で視線をかき混ぜ、目が乾くほどギャンダムを探すリポーターの、その飛び出しきった眼球が、やっと、なんとか、視界の端で異変を捉えたのは、はるか先。


「あそこだ!」

「カメラ!あっちだ、あっち!」

「あれだ!!」


 それは海ほたるより4.4キロメートル先の海上。

 川崎市浮島の沖合に作られた直径約200メートル。

 海底トンネル換気用の人工島『風の塔』を支える円筒形の台座の盤面上だった。


 高さ90メートルと75メートル、門松の竹を思わせる段違いの二本の塔、その塔の間を全高20.8メートルの不穏な人影が駆け抜ける。


「ああッッ!!!!」


 だが次の瞬間には、再びギャンダムは空中へと飛び上がっていた。


「あああああああ~~~~~~」


 と、リポーターがなさけない声を漏らしてる間に、ギャンダムはさらに4.4キロメートル先の向こう岸、神奈川県川崎側にあるピラミッド状の建物、浮島換気所の手前へと着地し、走り去ってしまっていた。

 いや分からない、そうなのか? よく見えない、おそらくそうなんだろう。


 何もかもが予想外過ぎてリポートを忘れてしまっている。


「ろ……ロボットは…」


「……ロボットは……海を渡りました…………渡った模様です…………」






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