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第9話 女子ウケするもの

「あ、そうだ。これツブイートしておこう」


 フェミ子はスマホを取り出しさっそくこの風変わりな出来事をお気に入りのSNS「ツブイッター」に投稿することにした。


 普段フェミ子の書き込みは、ネットで見かけた事柄に噛みつくばかりで、あまり自分のことをツブやくことはない。


 いやツブやいてはいる、一応は、形だけは。

 でもあんまり楽しくないのだ。

 みんなそうしているから形だけ似たようなことをなぞっておくだけだ。


 本命はやっぱりオタクを罵る書き込みだ。

 あれは気持ちがいい!

 あああ大変気持ちがいい!

 生きてる感じがする。


 なんていうか、女性らしい華やかなカッコイイ事を発信したいという欲望は人一倍あるのだが、現実はままならない。


 フェミ子にはそんな華々しい出来事は起こらない。

 いや、仮に直ぐ側でそういうことが起こっていても、それを他者が心地よくなるようなツブイートに変換する能力がない。


 あるのはネット界隈で「お気持ち表明」と評される、オタクニュースに様々なこれでもかという不平不満不快感を並べ訴える口撃力だけだ。


 元からそうなのではない、元々のフェミ子は派手な見た目そのままの、表現力の固まりみたいな人間だった。はずなのだが、気がつくと何もかもに不平しか言えないイップス,(心理的な要因によって様々な障害が生じる現象)を抱え込んでしまっていた。


 しかし今回は違う。


 起こったのだ。

 誰も体験したことのないすごいことが。

 そうだ!

 すごいのだ!

 何がすごいかは画像を見ればわかるはず。



「すごいロボットを手に入れました」

 という語彙力ゼロのタイトルで、コクピット内の様子やモニターから見える景色の画像を撮影し、4枚ほど投稿した。


 ……が、しかし。

 いまいちパッとしない気分。

 なんとなく、らしくないというか。

 やってしまった感がある。


「う~~~~~ん……   なんか……」


 思ったほど映えない。


 別に高級車みたいにかっこよくもないし、可愛くも綺麗でもない。


 しかもフェミ子は文才など、まるで無い。心がイップスなのに文才だけ無事なんてことはない。

 近頃ではもう、言い返してこない相手に難癖つけるとか、そういうことでしか評価されたことがない。


 あとはもう、だれが撮っても美味しそうに見えるメニュー写真通りのスイーツの写真や、どう転んでもきれいに写るイルミネーションの写真ぐらいしか「いいね」をもらったことがないし、そういうもんだと思っている。


 要するに、気の利いたコメントを添えるとか、同じ被写体でも面白い瞬間を捉えるとか、そういうことがまるで出来ないし、諦めきっているのだ。


 それは自分のせいではない、つまらなく写るものが悪いのだと考えてなんとか凌いできていた。


 それがどうだ、なんだこの操縦レバーやモニターの羅列は。

 エンブレムが無い、ブランド名が無い、メーカーが分からない。


 ダメだ。

 これじゃどのくらいの価値か誰にも分からない。

 まったくダメだこりゃ。



「なにこれ……。」


 思わず言葉に出た。

 いままでこんなさえない物を連続で撮影して投稿したことなんてなかったのに、なんでこんなことしたんだろ。


 妙な自己嫌悪。


 ダサい。


 ダサい。


 魔法が解けたような感じすらする。




 そう、フェミ子の価値観ではこうなのである。

 ひとりで野外に放り出されて寒風に吹き晒されされるような経験から、すっかり凍りついた価値観だ。


 さっきまであんなに高揚した気分だったのに、なんか現実に戻された気分。

 弾切れもショックだったが、こんなゴチャゴチャした操縦席内の様子を写した画像など、なにもフェミ子の琴線に触れない。


「ダメだこりゃ」

 もう一度口に出して言っていた。


〈フェミ子、なにか問題がありますか? 〉

 ギャンダムの支援コンピュータが心配げに訪ねたが、フェミ子は応えない。


 ────結局、削除しようかとも思ったが、なんとなくそのままにした。

 今日は気分が乗らないわ、きっと面白くない書き込みしちゃったのは、気分が乗らないからだ。


 そう思ってスマホを閉じて、すぐさまギャンダムの試運転に興じることにした。

 今は上手く行かないSNSなんかより、この確実に力を発揮できるであろうロボの能力を知っておきたい。


 これから仕返しを思いっきりぶちかます予定なのに、大事な場面でまたさっきの弾切れみたいなことになったらなんて嘲られるかわかったもんじゃない。


 もう二度とオタクどもに「ざまあw」なんて言わせない!

 目にもの見せてくれる。


 再び熱いものが、決意が、フェミ子の中から湧き上がった。


 そしてその『仕返し』の相手として彼女の脳裏に浮かぶターゲットはもう、オタクなどという些細なものではなかった。





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