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第4話 神々の山嶺(いただき)マンモス

【結論】ジンマシンなんか出ませぇぇぇ~ん。

 なんも出ません。


 彼女はまったく平気なのである。

 そんなことはどうでもいいのである。

 おばさんが主な視聴者層なワイドショーの

 いやらしく黒光りした人気オジサン司会者のコロコロ変わる生え際の位置ぐらい、どうでもいいのである。


 重要なのはこの全能感!

 なんともいえない全能感!

(なろう小説特有の無責任な)神? に与えられたそれは、神の力がそうさせるのか

 もう最初から、操縦席についているだけでわかるのである。


「圧倒的だ」と。


「圧倒的力を手に入れたぞ!」と。


 あとはもうそれを、その圧倒的力を実際に行使することしか頭に浮かばない。


 雨合羽を着せられたこどもが雨の外に走り出さずには居られない!

 そういう心境なのだ。


 もうそれしか頭に浮かばない。


 操縦方法はなんとなくわかった

 あくまでなんとなくなのだが、未知の精密機器に対する躊躇とかそういった感覚はまったく湧いてこなかった。


 自信。


 湧き上がる自信がギャンダムの操縦桿をフェミ子に握らせる。


 なじむ!


 若干の弾力性のあるグリップが手のひらに馴染む!


 気持ち良い!


 ッカ~~~~!


 これでなにかぶん殴ってやりたい気持ち!


 そう、真新しい高級な金属バットを握ったような、そんな清々しくも奮い立つような気持ち!


 こんな気持ち、初めてSNSでオタク男どもを愚弄しまくって「いいね!」をたくさん貰ったあの日のようだ!


 あの興奮だ!


 なんて、なんて気持ちいいんだろう!


「ようし前進!」


 グッといい感じにフットペダルに力をかけると

 ギャンダムは軽快に歩き出した。

 住宅地の4メートル規格道路の両側のブロック塀を、発泡スチロールでも蹴散らすようにすいすいと歩きだしたのだ。


 なんだこの心地よい刺激は!


 踏みつけたクルマはなんの抵抗もなくアルミホイルっぽくペタンとぴっしゃげ

 左腕の大盾に触れた建売住宅は

 はじめから壊れるように作られた撮影セットを思わせる早さでパッと土煙をあげて簡単に崩れ落ちていく。


 脆すぎる!


 なんの抵抗も無い、何も私を止められない!


 心が躍る! 『踊る』ではなく『躍る』(微妙に字が違う)

 むかし国語の先生に聞いた蘊蓄を思い出す。

 止めどもなく心の底から湧き出す高揚感、溢れ出る、みなぎる気力。

 だんだんとフットペダルに力を込めていく。

 歩行モーションから疾走状態へ移行するギャンダム!


 走る! 走る! 蜘蛛の巣を引き払うように電線を千切りながら。

 横切るクルマを蹴り飛ばしながら。

 走る! 走る!

 ああああああああああああああああ、気持ちいい。

 行けぇぇぇぇぇ。

 行けぇぇぇぇぇ。

 宅配トラックどけぇぇぇぇ。


 サッカーボールのように宅配トラックを蹴り飛ばすと

 今度はもう一方のフットペダルを踏み込んだ。

 ただ踏み込んだのではない。

 やり方がわかる。

 なぜかわかった。

 適度なリズムでポンポーンと踏んだ、二回目をグイッと踏み込んだ。


 するとギャンダムは小気味よく淀みのない動作で一瞬体勢を沈み込ませたかと思うと

 スキージャンプの踏切台の要領で飛び上がった、そして伸び上がる。


 ゴオオオオオオオオと雑音の混じらないフラットな噴射音が

 ギャンダムの背中に装備されているバーニアの力強い作動を実感させた。


 みるみる足元の町並みから距離が開いていく、空中だ!


 モニター画面には縦のゲージが表示され、少しずつ減っていく様子が

 この上昇が一時的なブースト効果で空中をいつまでも持続飛行できるのではないなと簡単に理解できた。


 そして一切姿勢を乱すこと無く

 目標とした小山の上を目指してスムーズに着地体勢へと移行する。


 バキバキバキバキっと止めどなく割り箸をへし折るほど簡単に木々を踏み倒しながら

 山の尾根へと着地するギャンダム。

 ギャアギャアと驚いた野鳥が無数に飛び立ちあたりを騒然とさせたが

 やがてその鳴き声も山の谷間へ木霊しながら小さく小さく遠ざかっていく。


 オリンピック競技ならここで審査員の点数が出そうな見事な着地をこなす巨大ロボット。

 その足はあの空中での加速をバーニアの逆噴射とともに力強く相殺しきって

 硬い枝を方々に伸ばしたこの鬱蒼とした頑丈な木々を踏み倒し

 パイロットになんら不安も衝撃も与えること無く山の斜面に着地したのだ。


 屈伸状態からその超合金の足を伸ばして、心地よいアクチュエーターの動作音を立てながら

 巨大ロボットは不安定な足場もものともせずすっくりと立ち上がる。

 二本のアンテナが兜の飾りのように鋭く突き出た頭部を持ち上げて

 長く長く伸びた朝の陽射しの光線にギャンダムの顔が晴れ晴れしく照らされる。

 ロボットに表情はないがまさしくそんな光景だった。


 これはもう映画のワンシーンである。

 ドラマチックな新しい門出が今、たった今、この神々のいただきで始まったのだ。




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