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最終話 転生者はレベル鑑定球を割るたびに弁償代15000円を支払うべきだと思う

「私もスキル「奪取」を習得するから」


 奪取されたのなら奪取し返せばいい。

 トワさんが見つけた答えだった。


「そ、そう。頑張ってね」


 そそくさとこの場から逃げようとする僕だったが、ニコニコ笑顔のトワさんに腕を捕まれ逃走に失敗してしまった。


「なんで去ろうとするのかな?」


「え、えと……」


「私からスキルを奪っておいて逃げていいとか思ってないでしょうね?」


「申し訳ございません」


 どうやらトワさんがスキル『奪取』を習得するまで逃がしてくれないらしい。


「さっき貴方のレベル見させてもらったけど、キミ相当無茶なトレーニングしてきたみたいね。正直引いたわ」


「いやいや、めっちゃ楽しんでやってたよ。成長が定量化されるとそれだけでやる気が溢れてくるよね」


「わかるわかる!! 数値が「1」上がるだけで超嬉しくなるよね!」


 嬉しそうに飛び跳ねながら共感してくれるトワさん。

 その屈折の無い笑顔にドキっとしてしまう。


「とりあえずキミと同じトレーニングをさせてもらうわ。それがスキル『奪取』を会得する唯一の道しるべだと思うから」


「つまり僕と同じ方法で同じレベルに達しようとするってこと?」


「そうだよ」


「……果てしない道になりそうだねぇ」


「言わないでよ。キミとのレベル差にちょっと挫けそうなんだから。とにかく付き合ってもらうから。ジンくんは今日から私のトレーナーね」


「うん」


「ちなみに私がスキルを習得するまでジンくんは自分のトレーニング禁止だから」


「なんで!?」


「これ以上引き離されてたまるか」


 どうやらライバル視されてしまったらしい。

 自分が追いつくまでレベル上げるなってことか。


「それだけはご勘弁をぉぉ! 僕にはレベルを上げなきゃいけない理由があるんです!」


「こらっ。腰に纏わりつくな! ……もぅ! 何よレベル上げが必要な理由って」


「うん。僕にはさ、どうしてもやってみたい人生の目標があるんだ」


「へぇ。意外ね。夢を持っている人って好きよ。どんな目標か聞かせてもらっていい?」


 目標。

 いや野望というべきか。

 僕はレベル鑑定球を手にした瞬間からどうしてもやってみたいことがあった。


「トワさんはさ。異世界転生モノの小説とか読んだりする?」


「ええ。大好物よ」


「んじゃ、話が通じやすいな。物語の中のレベル鑑定球ってさ、主人公のチート能力を図るために使われがちじゃない?」


「そうね。主人公のレベル数値だけ人害レベルに高くて驚かれたり、あまりにも主人公の力が強大過ぎて水晶が割れちゃったりするのが定番よね」


「――それをやりたいんだ」


「……はい?」


 何言ってんだこいつ、と言いたげにトワさんは怪訝そうに首を傾げている。


「僕はね。レベルをマックス以上にまで上げて『球パリ―ン!』をやりたいんだ!」


「やってどうする!?」


「球を割った後、僕はつぶやくんだ『僕何かやっちまいました?』ってね!」


「もう一度聞くわ! やってどうする!?」


「いや、どうもしないけど。それで終わり」


「意味不明なことに人生の目標を定めるなぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 トワさんの全力の雄叫びが木霊した。

 んー、女の子にはわからないかな。このロマンが!


「てなわけで僕は『球パリ―ン』野望を叶える為に自分のレベル上げをしたいの……だ……け……ど…………あっ、何でもないです」


 言葉の途中でトワさんのガチギレ顔を目撃してしまい、僕は押し黙るしかなかった。


「んじゃ、早速『私の』にトレーニングに出かけましょ! ジンくん!」


「了解だよ、トワさん」


 どうやら僕の野望を叶えるよりも先に、やらなければいけないことができたようだ。

 自分のレベル上げじゃなくてパーティメンバーのレベル上げか。

 これはこれでとても楽しくなりそうな予感がした。


「球パリ―ンの野望を僕が叶える時さ、トワさんに『この球に手を添えるのじゃ』って言いながら意味深に球を取り出す役をお願いしてもいい?」


「その役必要!?」


「絶対必要」


「意味わからなすぎる役だけど……ふむふむ、キミの野望を叶えるまでトワちゃんに傍にいてほしい的な?」


「他に相談できる人いないし」


「色気のない回答だなぁ。まっ、考えておいてあげるよ」


 くだらない会話を交わしながら僕らは二人笑いあう。

 僕とトワさんの二人きりのレベル上げがこの瞬間からスタートした。

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