死の跳躍事件から2年が経ち、僕は高校生になっていた。
あの日、僕は全治1か月以上の大けがを負った。
家族には誤って橋から落ちた、と言い訳をしてごまかした。
この事件が完全にトラウマとなり、僕はスキルに関しては一切使おうとはしなかった。
でもトレーニングは続けている。
レベル上げに生きがいを見出してしまい、退院してからもトレーニングは毎日欠かさずにと行っていた。
「(嗚呼。早く帰って身体鍛えたい。いや、今日は知力の方を上げようかな。自分の身体能力が可視化されるってマジ楽しいぃぃ!)」
『観える』ってマジで大事。
勉強や筋トレというのは成果が見えにくいのが難点を言われているが、僕に限ってはそうじゃない。
15,000円の水晶様が僕のトレーニング結果を逐一見せてくれるのだ。
くくくっ、羨ましかろう。
世界中で僕だけが許されたレベル鑑定。ああ、優・越・感!
ドンッ!
「(ビクゥ!?)」
僕が密かに優越感に浸っていると、不意に教卓の方から大音が鳴った。
音のした方に視線を移す。
教卓には一人の女子生徒が立っていた。
アレはクラス委員長の女の子。
名前は確か……紺野トワさん。
「……えっ!?」
紺野さんが教卓においた球体を見て思わず声が出てしまった
「(どうして……レベル鑑定球があそこにあるんだ?)」
勿論僕の物じゃない。自分の鑑定球は万が一に無くさないように枕元に丁重に飾ってあるはずだ。
てことは、今教卓に置かれているものは……紺野さんの私物!?
えっ、うそ、僕以外にもアレ持っている人他にも居たの? レベル可視化は僕だけの特権じゃなかったの? さっきまでの優越感返して。
「皆さん! これはレベル鑑定球です」
うぉぉぉい!? レベル鑑定球のこと皆に話しちゃうの!?
「これに手をかざすだけで皆さんのレベルや体力などが鑑定できるの!」
紺野さんが水晶に手を添える。
彼女のステータスが可視化される。
【紺野トワ】
レベル:16 体力:17 走力:21 知力:1 精神力:15
スキル:神速 怪力 回復
「こんな風にね!」
レベル高いな。
紺野さん、相当努力したんだろうな。数値で見て取れる。
特に走力すげーな。
スキルも見たことないものばかりだ。
なんで僕のスキルと違うんだ? 上げるステータスによって得られるスキルも違うのかな?
「さぁ! 今ならレベル鑑定がたったの5000円よ! 興味がある人は私に声を掛けて!」
この子、商売してやがる!
その発想はマジでなかった。
確かにやりようによっては巨万の冨を得られるアイテムだけどさぁ……
「「「………………」」」
ほら! クラスメイト全員が『なんだアイツ』的な冷たい視線で紺野さんを見ているよ。
静かに彼女から視線を外す。
そして各々が何事もなかったかのように雑談を再開した。
口を半開きにしたまま硬直する紺野さん。
「な、なんでぇ~!」
今にも泣きそうな表情をしていた。
い、居たたまれない。
共感性羞恥というやつだろうか。
僕も同じアイテムを持っているせいか、彼女の痛みが直で突き刺さってきた。
「みんな自分のステータスに興味ないの!? ……わかった! わかりました! クラスメイト価格で割引します! 3000円! 3000円でいいよ!」
やめてー!
紺野さんこれ以上自分のカーストを下げにいくのやめてー!
「(あー、もう手遅れっぽい)」
レベル鑑定球は確かにすごい。
でもやり方を間違えまくると……こうなる。
鑑定球で商売するにしても、まず数値の信頼性を皆に示さなければいけなかった。
たぶんクラスの皆は『適当な数値が浮かび上がる変な球で金をとろうとするやべー奴』という認識を紺野さんに抱いたに違いない。
うん。これは間違いなく知力1だわ。
「ほ、本物なのに。この鑑定球は本物なのに……ぐすん……」
その日から紺野トワはクラス内で孤立することになる。
居たたまれなさ過ぎるので、僕だけはこっそり彼女の味方になってあげようと思っていた。
後で優しく声を掛けてあげようと決めていたのだけど……
事態は思っていたよりも斜め上の展開を迎えることになる。