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10日目

――10日目

 ついにその日がきた。

 俺は緊張しながら、美玖と登校する。

 勿論、フル装備だ。

 念のため、ICレコーダーも常備しおいた。

 学校内は普段通りだったが、逆に普通すぎて緊張してくる。

 そういや、学校で俺は襲われるんだよな?

 夕方、屋上で……。

 だとしたら、犯人は学校関係者ってことなのか?

 っと、考えていた矢先。

「――なぁ、遊佐」

 昼休み、あの井上 健太が俺に声を掛けてきた。

 最近、すっかり大人しいと思ったのに、今更なんだと思った。

 けど時折、俺を睨んでいる視線は感じていたんだ。

「な、何……?」

「大事な話があるんだ、放課後空いているか?」

「え?」

「いや、話だけだから……俺だけだから……もう」

 井上だけだって?

 放課後の二人っきりで屋上って……。

 ――まさか、こいつか?

 俺を殺そうとしてする犯人は!?

 確かに、井上は卑怯な奴だしやり兼ねない……。

 俺もフル装備しているとはいえ、井上の身体能力の高さは評価している。

 とくに刃物をもった奴にタイマンで勝てるかどうか……。

 美玖は遠くで生徒達に囲まれながら、俺を見守って頷いてくれている。

 彼女も、井上が犯人だと思っているようだ。

 よし。

 ここは、いっちょ勝負に出てみるか。

「――わかったよ。放課後だな」

 俺が言うと、井上 健太は「頼むわ」と一言告げ自分の席へと戻って行った。

 放課後。

 俺は井上と二人で屋上へと来た。

 実は既に、美玖も影に隠れて待機してくれている。

 俺が奴に襲われそうになったら、駆けつけて撃退する算段だ。

 体は刺されてもいいようにフル装備しているから、そう簡単には殺られることはない。

 左手には防刃手袋も着用済みだからな。胸にはICレコーダーと撃退スプレーも装備している。

 バッチ来いだ――。

「悪りぃな、遊佐……来てもらってよぉ」

「いいよ、別に。話って何?」

 井上は俺と向き合い、鋭い眼光で睨んでくる。

 やっぱり、こいつか――来るならこい!

 すると、

「――遊佐、頼む! ミクちゃんのサインを貰えるよう頼んでくれぇ!!!」

 井上は土下座してきた。

「へ?」

「だから、ミクちゃんのサインだよぉ! お前、幼馴染なんだろぉ!? 俺、ずっとファンだったんだぁ! だからよぉ、頼むよ~~~っ! これまでのこと謝るからさぁぁぁっ!」

 えっ……えーと、何これ?

 お願い事? 俺に? 井上が?

 って、ことは俺を睨んでいたんじゃなく、真剣な眼差しで見ていただけなのか?

 羨ましいって思っていただけなの?

「わ、わかったよ……本人に頼んでみるよ」

「マジか!? サンキュ! お前、案外いい奴だな!」

 うっせーっ、お前が嫌な奴すぎるんだよ。

 なんだよ、こいつ……井上は犯人じゃねぇじゃん。

 じゃあ、一体誰が――?

 バチッ!

 離れた場所で、何かが弾ける音がした。

「うっ!」

 美玖の声。

 屋上入り口の角側で隠れていた美玖は倒れる。

その姿を俺達に見せた。

「美玖!?」

「ミクちゃん!? どうして、あんな所にいるんだよぉ!?」

 俺だけじゃなく、井上さえも驚愕した。

「――やっぱり、まだ学校内にいたんだね、遊佐君」

 倒れる美玖を跨ぎ、その人物は姿を見せる。

 間宮さんだ。

 その手には、スタンガンが握られている。

「あ、あんたは、美玖のマネージャーの……どうして、ここに? それに美玖に何をしたんだ!?」

「気絶してもらっただけですよ。これ以上、国民達の宝石を傷つけるわけにはいかない……」

「これ以上だと……どういうことだ!?」

「言葉のままですよ、遊佐君……私はミクのマネージャーだ。デビューした頃から、ずっとあの子の傍にいた……そして彼女を愛している。だからよくわかるんだ……ミクは何を望んでいるのかを」

「美玖が望んでいるモノ?」

「――キミだよ、遊佐君」

「俺?」

「そうだ……ミクはキミのことを心から愛している。けど、彼女は国民的トップアイドル。キミのような平凡以下のただの幼馴染と釣り合う筈がない、だろ?」

「何が言いたいんだ?」

「幼馴染に対しての好きっていうのはね。言わば刷り込みであり洗脳みたいなもんさ……潜在的にそうだと思い込んでいるだけのね。キミなんて、たまたまミクの傍にいたラッキーマン、違うか?」

「否定はできない部分はある……けど、俺は美玖が好きなんだ! アイドルとか関係ない! 俺は、咲崎 美玖を一人の女の子として大切に思っている! それのどこが悪い!」

「――黙れぇ! 私のミクは誰にも汚させない!」

 間宮さんは、腰元からサバイバルナイフを抜き出した。

 そうか……俺を刺殺した犯人は……。

 間宮 達也――こいつだったのか!?

 おそらく、美玖がずっと俺に想いを寄せていることに業を煮やしたんだ。

彼女がコンサートツアー中を見計らって、わざわざ殺しに来たんだろう。

 俺が死ねば、美玖は自分に振り向いてくれると思い込んだのか。

 待てよ?

 俺は、間宮の片手に握られているスタンガンを見つめる。

 まさか10年後に、美玖を襲ったのも……この男か!?

 確か俺が死んでから何年か後に、こいつは美玖に告白したんだよな。

 ――そして断られた。

 腹いせに闇討ちして、スタンガンで襲ったんだ。

 間宮もマネージャーなら、美玖の強さは知っているからな。

 行動パターンも把握済みか……。

「ひぃ、ひぃぃぃっ! 殺されるぅぅぅ!」

 井上は悲鳴を上げ、そのまま逃げて行った。

 間宮は無視して見逃している。

 標的はあくまで俺のようだ。

「邪魔な俺を殺すために、わざわざ学校に来て……よく先生や生徒に見られなかったな!?」

「この身形だからね……新人教師のフリして、すましてりゃ問題なかったさ。それにキミの家に行ったが、妹しかいなかったからね」

「なんだと!? 妹に……小春に何かしたのか!?」

「美玖と同じ目に合わせた。騒がれたら厄介だから……あとは身動きが取れないよう、ガムテープでグルグル巻きにしてあるよ。万一のための人質さ」

「人質だと!?」

「遊佐君、キミが逃げ出さないためのね。今から家に戻ろうとしても無駄さ……私の車の方が断然早いからね。キミを殺し損ねたら、家にいる妹を殺すよ」

「間宮ぁ、テメェ!」

「フン! ぼっちの陰キャがいっちょ前に吠えるか!? 知ってるぞ、キミは学校でも周囲に溶け込めずに弾かれてんだろ? そんな男が、あのミクに相応しいとでも思っているのかね!?」

「うるさい! んなのわかってんだよぉ! だから俺は変わる! 美玖のために変わるんだ! いや必ず変わってみせる!」

「変わるだぁ? はん! それはないねぇ! なぜなら――」

 間宮はサバイバルナイフの振り翳し、俺に向けて迫って来る。

「ここでキミは死ぬからさぁぁぁぁっ! ヒャァァハハハハハッ!!!」

 鋭い切っ先が、俺の顔面へと向かってきた。

 右手で間宮の腕ごとキャッチし、同時に左手でナイフを握り掴み込む。

「そ、その左手のグローブは防刃用なのか!? なんで高校生がそんなもの持っているんだ!?」

「今時、手に入らないものはねーよ! 俺を甘くみんなぁ!」

 準備ができたのは、美玖の情報のおかげだけどな。

 しかし、自ら両手を塞いだのはマズい……これじゃ防犯スプレーが使えない。

「フン! スタンガンで動けなくして顔面から刺してやんよぉ! このカスがぁぁぁぁっ!」

 間宮の口調がと表情が豹変し狂気色へと染まる。

 普段の紳士面は上辺だけで、これがこいつの本性か!?

 翳されたスタンガンがバチバチと火花と音を鳴らし、俺に向けられていく。

 このままじゃやられてしまう――どうする!?

「死ねえぇぇぇぇぇっ!!!」

「――あんたがね、間宮ッ! この最低男!」

 間宮の後ろに、美玖が立っていた。

「ミク!? バ、バカな!?」

「あたしのシンシンに手を出すなぁぁぁぁっ!!!」

 美玖の回し蹴りが、間宮の後頭部に炸裂する。

「ウギャッ!」

 間宮は大口を開け白目を向き、地面へと崩れるように倒れた。

 美玖は溜息を吐き、へたとその場に座り込む。

「美玖ッ!?」

 俺は駆けつけ、彼女の体を支えた。

「……シンシン怪我なぁい?」

「ああ、見ての通り無事だ。お前のおかけだよ、美玖。ありがとう……」

「良かった、えへへ」

「美玖は大丈夫なのか? もろスタンガンで撃たれたんだろ?」

「うん……実はまだ痺れているんだけどね。でも、キミの声が聞こえたから……あたしのために、いっぱい叫んでくれて嬉しかったよ」

「美玖ぅ……」

 俺は美玖を抱きしめる。

 その後、警察が屋上へと入ってきた。

 井上が通報してくれたようだ。

 間宮は逮捕され連行される。

 奴が所持していた凶器類と俺が録音したICレコーダーが証拠となり、もう言い逃れもできないだろう。

 家で拘束された、小春は無事に保護され病院へ搬送される。

 目立った外傷はないので、明日には退院できるらしい。

 連絡を受けた母さんも出張から抜け出し、病院に泊まって小春に付き添うと言っていた。

 俺と美玖は事情徴収を受け当日に解放された。

 ――こうして、俺は死亡ルートを回避することができたわけだ。

 これも全て美玖のおかげである。

「病院に行かなくてよかったのか?」

「うん、もう大丈夫。鍛えているからね……今はキミの傍にいたいし」

 どこまでも健気で一途に想ってくれる幼馴染。

 俺も美玖の傍にずっといたいと思う。

「美玖はこれからどうするんだ?」

「シンシンのお嫁さんになりたい」

「……いや(照)、アイドル活動だよ。休養中なんだろ?」

「マネージャーが逮捕されたから、しばらく事務所も火消しに追われると思うよ」

「その後は?」

「引退かな? 普通の女の子に戻る……シンシンの傍にいたいもん」

「……後悔しない?」

「全然。もう、シンシンと離れる方が嫌だよ」

「ありがとう……ずっと一緒な」

「うん、嬉しい♡ ねぇ、シンシン」

「なんだ?」

「今日、家に誰もいないから二人っきりだよね? 帰ったら一緒にお風呂入ってイチャイチャしょっか?」

「……もう少し自信がついたらな」

「ちぇ……」

 美玖は不満そうに頬を膨らませる。

 あの頃と変わらない幼馴染の表情。

 だけど、俺にとって美玖は一人の大切で大好きな女の子だ。

 これからは俺が美玖を守れるくらい強くなる。

 お前に相応しい男になってみせるから――

◇◆◇

【死亡ルート回避成功】

 お わ り

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