昔、好きだった幼馴染に「キミ、あと10日後に死ぬから」と言われたら、果たして受け入れることができるだろうか?
――1日目
「おい、遊佐ッ! 金持ってんだろ? とっとと、よこせやぁ!」
学校の屋上にて、クラスメイトの井上に殴られてしまう。
他の不良共も薄ら笑いを浮かべ、一緒に蹴りを入れ理不尽な暴力を振るわれる。
何も抵抗できない。これだけの人数に敵うわけがない。
だってクラスでは陰キャラのぼっちだから……。
俺は、
容姿も平凡で冴えなく、特に勉強もできる方でもない。
おまけにコミュ力もなく、誰かに話しかけられても気の利いた返事もできない。
唯一、ゲームが得意なくらいだ。
だから目を付けられたんだと思う。
不良共の中で身長が高く、容姿が優れたリーダー格のクラスメイト。
井上 健太だ。
こいつはワイルドな風貌から、女子の間でも「某ダンスユニットのボーカルみたい」と囁かれ、とても人気が高い。
おまけに運動神経も抜群で間違いなくカースト上位の人物だ。
そんな恵まれた奴が、ただの陰キャである俺への仕打ちは、きっとただのストレス解消目的だと思う。
弱者を踏みつけて、自分をより強く見せる。
ただの自己満足。
こんな連中に、残りの高校生活を踏みにじられると思うと地獄でしかない。
……いっそ、死んでしまった方が楽なのだろうか?
殴られながら、ふと頭に過った。
そんな時だ。
「――あたしのシンシンをイジメるなぁぁぁっ!」
どこからか女子の声が響いた。
シンシン?
なんだろう……とても懐かしい響きだ。
俺を唯一、そう呼んでいたのは……。
確か――?
「ぐわっ! なんだ、この女は!?」
「つ、強えぇぇぇっ!」
激しく殴る音。
不良共の悲鳴。
俺は静かに目を開けた。
――不良共が全員、地面に倒れている。
唯一、井上と少女が一人対峙していた。
私服姿で帽子を深々と被り、マスクにサングラスを変えた小柄な少女。
「ひぃぃぃっ! 誰だ、テメェ!? 俺を誰だか知っているのか!? 井上 健太だぞ! この学校で知らない奴はいないんだからな!」
「知らない」
少女は言い放つと井上に突進して行く。
「う、うわぁぁぁっ!」 井上は拳を振り下ろすも、あっさり躱されカウンターの蹴りを顔面に喰う。
「ぶぎゃっ!」
無様な悲鳴を上げ、井上は宙を舞い回転して転げ落ちる。
そのまま動かなくなった。
つ、強い……でも何者なんだ?
少女は「はぁ~っ」と呼吸を整え、俺に近づいてくる。
「ひぃ……」
今度は俺の番だと思、びびって喉を鳴らしてしまう。
「シンシン、大丈夫? 怪我な~い?」
少女は穏やかで可愛らしい声で訊いてくる。
「え? シンシンって……誰? いや、俺をそう呼ぶのはただ一人だけ……」
――思い出したぞ!
俺は気づいた瞬間、少女は帽子を脱ぎサングラスとマスクを外した。
艶やかで長い黒髪が靡かせ、くっきりと大きい二重の瞳と小さな鼻梁と形の良い唇を覗かせる。
色白でスタイル抜群の、誰がどう見ても正真正銘の美少女。
けど、俺の幼馴染。
「……
「ピンポーン! やったぁ、覚えてくれたんだぁ!」
そう。
この子は、
俺の幼馴染である。
そして、俺にとって片想いで初恋の……。
美玖は嬉しそうに、俺に飛びつき抱きついてきた。
「痛ててっ!」
「ご、ごめん! シンシン大丈夫!?」
「ああ……でも、どうして美玖がここに? 確か東京へ引っ越したよな? 芸能活動のために……」
「うん、ちょっと理由があってね。お仕事はお休みして、しばらくこの街で暮らすことにしたんだぁ」
「向こうで何かあったのか?」
「違うよ」
俺の問いに、きっぱりと美玖は首を横に振るう。
「違うって?」
「うん、シンシンのため」
「俺の?」
「あのね、シンシン。よく聞いてね……」
美玖は一呼吸置き、俺の瞳をじっと見つめてくる。
「――キミ、あと10日後に死ぬんだよ」
好きだった幼馴染に、いきなり死亡フラグを立てられた。
俺は美玖に問い質すも、彼女は何も答えてくれないまま離れていく。
「今日はね。手続きに来ただけなんだぁ。あと、キミの顔を見に……そしたら、こうでしょ? 思わず頭に血が上っちゃったぁ。えへへ」
美玖は恥ずかしそうに微笑み、「じゃあ、また明日ね」と手を振っていた。
俺もそれ以上、言及できず呆然としてしまう。
確かに言ったよ? 俺が10日後に死ぬって……どういう意味なんだ?
◇◆◇
【芯真が死ぬまで、あと9日】