エマはさみしそうに笑った。
正確には、口元は笑っているのだが、口から上は泣き顔のように見える。
いったいこの表情は、何を物語っているのだろうか?
「なあ、エマさん。まさかあの店が新歓コンパの場所って事はないよな?」
店の中に大小七つの怨霊がうごめいている。
大きさは、リンゴからスイカ位までさまざまだ
「ふふ、一緒に来て良かったわ。貴方のそういう所、ほんとうに頼りになる。まずはこっちよ!」
エマは、俺が指さした店のむかえのカラオケ店に俺を案内した。
「遅くなってごめん」
エマは、両手を合せてわびている。
個室の中には、見知らない女がいる。
美人の友人には美人が多いと言うが、まあ化粧の濃い美人が二人いた。
「ねえ、これ、聞いて」
「ひゃーははは、男は物置にぶち込んでおけ」
「う、うううっ。たっ助けて……」
「おい、あせるな。まずは上玉を二人以上探せ、幹部が二人ホテルのスイートでお待ちかねだ」
テーブルの上のラジオのような物から声が出ている。
盗聴器が後輩さんに付けてあったのだろうか。
あの店の中の様子だろう。
結構やばい状態じゃないか。
「エマ行くぞ!! 何をしている!!」
「は、はい」
俺はエマの腕を取って部屋を出ようとした。
「……な、なに、なに、か、かっこいい」
化粧の濃い美女が、何か言っている。
「でしょ!!」
急いでいるのにエマが、部屋に首を突っ込んで何か言っている。
「状況は大体分かった。あそこが良いだろう」
俺は、エマを連れて店から少し離れた牛丼屋に入った。
「なんで店を出たの?」
「ふふふ、見知らぬ人間に見られたくないからな。あー、俺は並で」
「えーーっ、私が払うの?」
「今回の報酬はそれで許してやる」
「えーーっ、報酬がいるの? 報酬なら安いわね」
文句を言いながら、エマがチケットを買っている。
この牛丼店は先にチケットを買って注文をする牛丼店だ。
エマがチケットを買っている間に、俺はテーブル席に座って冷たいお茶を二つ用意した。
「あのっ」
「しっ!!」
チケットを買い終わって席に来たエマが話しかけてきたが、俺は集中したかったので、人差し指を口に当てそれをさえぎった。
「きゃああぁぁぁーーーーーーーーっ!!!!!!」
新歓コンパの会場の前の、道路から悲鳴が聞こえる。
「もう、終わったの?」
「ああ、完了だ」
「ふふふ、貴方の顔、口だけ笑って目は泣いているわ。気持ちの悪い顔」
「そう言うな。俺はまたやっちまった。しかもエマの前でやってしまった」
「まさか! 貴方!? 私に知られたく無かったの?」
「それは、そうだろう!」
「あきれたわね。私はヒマリから全部聞いています。その上で貴方の友達でいるのよ」
「気持ち悪いだろ?」
「……何を言うの、人を殺して怨霊に取り憑かれている犯罪者から、罪も無い人を守るのは正義だわ」
エマが強く首を振ると言った。
エマは俺のした事を正義と考えてくれているようだ。
「うわああぁぁぁぁーーーーー!!!!!!」
喚声が続いている。
俺は、七人の怨霊に大量の怨念を送り込み、殺し合うように指示をした。
奴らは、手に刃物を持ち、お互いに差し合っている。
すでに倒れている者の体の下には、大きな血の水たまりがドンドン広がっている。
この騒ぎで警察が来て、後輩さんも助け出される事だろう。
パトカーの音が聞こえてきた。
「だが、人殺しは人殺しだ」
「ごめんなさい。貴方の言った事の意味がわかったわ」
エマは泣きそうな表情をして俺を見てきた。
そして、口だけ微笑んだ。
その表情は、大きく後悔をしている様に見えた。
俺の事務所で言った事を思い出しているのだろう。
牛丼屋からかなり離れているが、高い位置に怨霊が二つ見える。
恐らく、奴らの幹部だろう。
犯罪で稼いだ金で、ホテルの最上階の一番良い部屋をとり、可哀想な女性で楽しむ予定なのだろう。
こいつらにも怨念を送り込み、ホテルから出て刃物を使って殺し合うように怨霊に指示を出した。
これは、正義と言って良いのだろうか?