「久しぶり!」
事務所兼自宅のドアを乱暴に開けてエマが入って来た。
すでに陽は傾き薄暗くなっている。
こんな時間に、一人暮らしの男の家に来るかねえ。
「久しぶりと言うほど、日にちは経っていないだろう」
エマは勝手にキッチンへ行って、俺と自分の珈琲を入れて持って来た。
「あれからどぉ?」
応接セットの机に二人分の珈琲を置いて椅子に座った。
そして、珈琲を一口飲むと質問してきた。
「はっ??」
質問がざっくりしすぎて、何を聞いているのかわからなかった。
珈琲の良い香りがする。この香りは一口飲むと消えてしまうので、飲む前に鼻からいっぱい息を吸った。
支社長用のデスクからゆっくり移動して、エマの前に座り珈琲をすすった。
口の中に目一杯の甘さが広がる。そしてガツンとミルクの味、珈琲の味は完全に殺されている。
だが俺は、甘くてミルクたっぷりが好みで、エマの作った珈琲は完璧に俺好みの味だった。
「ほら、大きな怨霊さんよ」
「あーっ、あいつかー。あれからもずっと狙われているよ。
地下鉄のホームで見張っている事が多いから、最近は一つ前の駅で乗降している。だから面倒くさくってね。
そうそう、二日前に歩いていたら、何故か見つかってずっと後を付けられたよ」
「えっ!?」
「ふふふ、あいつは俺みたいに建物を透過して見る事は出来ないみたいだから、死角に隠れながら逃げて何とかまくことが出来たけど危なかった。
でも、なんで俺だってわかったかなあ?
あの日に顔は見られていなかったはずだけどなあ。
あいつも何か特殊な能力があるのかもしれないな」
「こ、こわぁー! このままいくと、いつか見つかるのじゃない」
エマは、不安そうな表情をすると、珈琲カップを取ろうとしてカチャカチャと鳴らした。
「見つかりたくないけど、いずれ見つかるだろうな。そんな事より、お前は何しに来たんだよ」
「あのさあ、お前とか呼び捨てはやめてほしいのだけど……」
「ああ、じゃあエマ様は何の御用でお越しになったのでしょうか?」
「普通に呼んで!!」
少し怒った表情になった。
単純なエマは、この怒りでさっきの恐怖は消えたようだ。
整ったエマの顔が怒りの表情になると、キリッとして美しさがさらに増す。
「はいはい、エマさんは何しにここへ」
「お願いがあって来たのだけど……」
少し、眉毛が下がって、子猫がご飯を欲しがるような表情になった。
反則だろう、かわいい。
「はぁー、お願いがあって来て、その言い草かよ」
だが、俺はあきれて、嫌そうな表情をして言った。
「あのね。今日これから一緒に来て欲しいの」
なにっ! デートの誘いか?
「ああ、勘違いしないで、デートの誘いじゃ無いから」
――おーい! なんで俺の考えがわかった?
「後輩がちょっと危険な、新歓コンパに誘われて参加しているのがわかったの。悪い噂の絶えないコンパで、何も知らない新入生をカモにしている悪質なコンパ。一緒に行って助け出してほしいの」
「それに俺を巻き込むと、後悔する事になるぜ。それでもいいのか?」
俺は、真剣な顔をして答えた。