「少年、君は、こうして誰にも知られず、ただ一人で人助けをしていたのですね」
「えっ?!」
「君が意識を失っているときに、ヒマリから聞きました。命を助けてくれたんだってね」
「そうですか。知られていたのですか。まあ、褒められた事ではありませんよ」
「……君は人助けをして、罪悪感があるようですね」
「罪悪感ばかりですよ。あの時は、七人も死なせてしまいました」
「ふふ。君はいい奴だな。ほれてしまいそうだよ」
「えっ!?」
「ほれてはいないぞ。ほれそうになっただけだ。私はこの道場と神社を継がなくてはならない。そういう相手と結婚する。君は、こんな田舎の道場に縛られてはいけない……」
師匠は悲しそうに笑っていた。
「俺も同じです。こんな呪われた能力を持ってしまった。ろくな死に方をしないでしょう」
「君は優しいな。だから、その力があるのかもしれないな。君なら間違った使い方をしなさそうだ……」
俺は、この雑談で不思議と心が落ち着いた。
サヨコ師匠の顔を見ると満足そうに笑っている。
まさか、師匠は俺を落ち着かせるためにこんな話をしてくれたのか。
「師匠は本当に俺より一個年上なだけなのですか? もっと年上のように感じます」
「つまり君は、私を若作りのばあさんだと言いたいのか!」
師匠は拳を握りしめて、プルプルしている。
「ふふ、師匠ありがとう。落ち着きました」
「そうか。もう気が付いていたのか。さあ、可哀想な少女を救ってやってくれ」
「わかりました」
俺は何も考えず、静かな気持ちで町を眺めた。
するとさっきまで見えなかった白い靄が、少しだけ見えるようになった。
いくつか、まとまって見える所がある。
あそこは、こないだ助けた組長さんの家だ。
近くで見るとはっきり見えたのに、ここからでは薄らとしか見えない。
当然の事なのだろう、距離が離れれば見えにくくなる。
そして、見える限界があのあたりと言う事なのだろう。
いや、違う。もっと感覚を研ぎ澄ませ、そして集中するんだ!
――駄目だ。全然見えなくなった。
集中したらだめなんだ。リラックスして、感覚だけ研ぎ澄ませ。
よし、また見えてきた。
組長の靄が少しはっきりした。
いい感じだ。
「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」
「きゃあ!!」
俺の声に師匠が驚いた。
師匠が赤い顔をして俺を見てきた。
「ま、まさか……見えたの?」
「……」
俺は返事が出来ずに、うなずいた。
下を向いた瞬間、涙が床にこぼれた。
あまりにも大量の涙だったので、床の涙の痕が十個以上できている。