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0011 研ぎ澄ませ

「少年、君は、こうして誰にも知られず、ただ一人で人助けをしていたのですね」


「えっ?!」


「君が意識を失っているときに、ヒマリから聞きました。命を助けてくれたんだってね」


「そうですか。知られていたのですか。まあ、褒められた事ではありませんよ」


「……君は人助けをして、罪悪感があるようですね」


「罪悪感ばかりですよ。あの時は、七人も死なせてしまいました」


「ふふ。君はいい奴だな。ほれてしまいそうだよ」


「えっ!?」


「ほれてはいないぞ。ほれそうになっただけだ。私はこの道場と神社を継がなくてはならない。そういう相手と結婚する。君は、こんな田舎の道場に縛られてはいけない……」


師匠は悲しそうに笑っていた。


「俺も同じです。こんな呪われた能力を持ってしまった。ろくな死に方をしないでしょう」


「君は優しいな。だから、その力があるのかもしれないな。君なら間違った使い方をしなさそうだ……」


俺は、この雑談で不思議と心が落ち着いた。

サヨコ師匠の顔を見ると満足そうに笑っている。

まさか、師匠は俺を落ち着かせるためにこんな話をしてくれたのか。


「師匠は本当に俺より一個年上なだけなのですか? もっと年上のように感じます」


「つまり君は、私を若作りのばあさんだと言いたいのか!」


師匠は拳を握りしめて、プルプルしている。


「ふふ、師匠ありがとう。落ち着きました」


「そうか。もう気が付いていたのか。さあ、可哀想な少女を救ってやってくれ」


「わかりました」


俺は何も考えず、静かな気持ちで町を眺めた。

するとさっきまで見えなかった白い靄が、少しだけ見えるようになった。

いくつか、まとまって見える所がある。

あそこは、こないだ助けた組長さんの家だ。

近くで見るとはっきり見えたのに、ここからでは薄らとしか見えない。

当然の事なのだろう、距離が離れれば見えにくくなる。

そして、見える限界があのあたりと言う事なのだろう。


いや、違う。もっと感覚を研ぎ澄ませ、そして集中するんだ!


――駄目だ。全然見えなくなった。


集中したらだめなんだ。リラックスして、感覚だけ研ぎ澄ませ。

よし、また見えてきた。

組長の靄が少しはっきりした。

いい感じだ。




「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」


「きゃあ!!」


俺の声に師匠が驚いた。

師匠が赤い顔をして俺を見てきた。


「ま、まさか……見えたの?」


「……」


俺は返事が出来ずに、うなずいた。

下を向いた瞬間、涙が床にこぼれた。

あまりにも大量の涙だったので、床の涙の痕が十個以上できている。

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