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0005 死を覚悟した

「コンビニから近い、崖の上の空き地ですよ」


「君はそこで何をしていたのだね?」


「ジョギングですよ。トレーニングをしているんです」


「なるほど、ジョギング中に倒れている少女を見つけて助けたのだと」


「はい。それだけです」


「少女は、足を歩けない程骨折していて、衣服は破れて乱れていた。君がやったのでは無いかね?」


「ち、違います。助けてくれたのです!」


ヒマリは馬鹿なのか。大きな声で否定した。

記憶喪失じゃないのかよ。


「そうですか。助けてくれたのですか」


「はい!!」


ヒマリは嬉しそうになっている。

駄目だ。この女、ポンコツすぎる。

刑事さんの口角が少し上がった。


「何から?」


「はう、はわわ」


ヒマリが慌てている。


「あなたはレイプをされていなかったわね。おかしいわ。あなたの足を折り、服を破いた人達はどうしたのかしら? 襲われそうになっているピンチの女の子を助けた正義のヒーローは、一体どこへ行ったのかしら?」


「わ、私はわかりません。記憶が……」


「ふざけないで!! そんな都合のいい事がありますか!! 何を隠しているの!! 全部はなしなさい!!」


「おいおい、外にまで声が聞こえているぜ。何の騒ぎだ?」


ドアを開けて、体の大きな恐い顔をした男が入って来た。


「コウさん」


刑事さんが、急にしおらしい声で名前を呼んだ。

コウと呼ばれた大男は、まるでドラマの悪党の大親分のような顔をしている。

滅茶苦茶こえーー!! いったい何者なんだ?


「瞬先輩、この人が合わせたかった、私のフィアンセのコウさんです」


まゆがコウさんの横に走り寄り、腕につかまって嬉しそうに言った。


「フィ、フィアンセ!?」


ヒマリとエマが驚いている。


「うわっ」


俺も驚いて声が出た。


「違うわよ。まゆが勝手に言っているだけ」


まゆのお姉さんが笑いながら言った。


だが、俺が驚いたのはそんなことじゃない。

コウさんの後ろに黒いもやが出ているのだ。赤い筋も見える。

まゆが腕につかまった瞬間に出て来た。

強い怨念のような物だ。


「何が見える!!!」


コウさんは俺の視線が、自分の後ろにあることに気が付いて驚いて聞いて来た。


「赤い筋が……」


「な、何だと!!! まゆ、この少年は誰だ!! 何者だ!!」


コウさんの剣幕にまゆが少し驚いている。


「ははは、はい。私の学校の先輩です。た、ただの先輩です。私が好きなのはコウさんだけです」


まゆの奴何を言っているんだ。

ヒマリといい、まゆといい。揃いも揃ってポンコツ揃いかよう。


「少年、君は一体何者だ?」


そう言ってコウさんが、俺の顔をのぞき込んで来た。顔が近い。

そのコウさんの顔に自分の顔を近づけて、女刑事さんも俺の顔をのぞき込んで来た。


「な、何者と言われても、ただの高校生です」


「なるほど、ただの高校生か。面白い」


こえーー!!

俺は、死を覚悟した。

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