「コンビニから近い、崖の上の空き地ですよ」
「君はそこで何をしていたのだね?」
「ジョギングですよ。トレーニングをしているんです」
「なるほど、ジョギング中に倒れている少女を見つけて助けたのだと」
「はい。それだけです」
「少女は、足を歩けない程骨折していて、衣服は破れて乱れていた。君がやったのでは無いかね?」
「ち、違います。助けてくれたのです!」
ヒマリは馬鹿なのか。大きな声で否定した。
記憶喪失じゃないのかよ。
「そうですか。助けてくれたのですか」
「はい!!」
ヒマリは嬉しそうになっている。
駄目だ。この女、ポンコツすぎる。
刑事さんの口角が少し上がった。
「何から?」
「はう、はわわ」
ヒマリが慌てている。
「あなたはレイプをされていなかったわね。おかしいわ。あなたの足を折り、服を破いた人達はどうしたのかしら? 襲われそうになっているピンチの女の子を助けた正義のヒーローは、一体どこへ行ったのかしら?」
「わ、私はわかりません。記憶が……」
「ふざけないで!! そんな都合のいい事がありますか!! 何を隠しているの!! 全部はなしなさい!!」
「おいおい、外にまで声が聞こえているぜ。何の騒ぎだ?」
ドアを開けて、体の大きな恐い顔をした男が入って来た。
「コウさん」
刑事さんが、急にしおらしい声で名前を呼んだ。
コウと呼ばれた大男は、まるでドラマの悪党の大親分のような顔をしている。
滅茶苦茶こえーー!! いったい何者なんだ?
「瞬先輩、この人が合わせたかった、私のフィアンセのコウさんです」
まゆがコウさんの横に走り寄り、腕につかまって嬉しそうに言った。
「フィ、フィアンセ!?」
ヒマリとエマが驚いている。
「うわっ」
俺も驚いて声が出た。
「違うわよ。まゆが勝手に言っているだけ」
まゆのお姉さんが笑いながら言った。
だが、俺が驚いたのはそんなことじゃない。
コウさんの後ろに黒いもやが出ているのだ。赤い筋も見える。
まゆが腕につかまった瞬間に出て来た。
強い怨念のような物だ。
「何が見える!!!」
コウさんは俺の視線が、自分の後ろにあることに気が付いて驚いて聞いて来た。
「赤い筋が……」
「な、何だと!!! まゆ、この少年は誰だ!! 何者だ!!」
コウさんの剣幕にまゆが少し驚いている。
「ははは、はい。私の学校の先輩です。た、ただの先輩です。私が好きなのはコウさんだけです」
まゆの奴何を言っているんだ。
ヒマリといい、まゆといい。揃いも揃ってポンコツ揃いかよう。
「少年、君は一体何者だ?」
そう言ってコウさんが、俺の顔をのぞき込んで来た。顔が近い。
そのコウさんの顔に自分の顔を近づけて、女刑事さんも俺の顔をのぞき込んで来た。
「な、何者と言われても、ただの高校生です」
「なるほど、ただの高校生か。面白い」
こえーー!!
俺は、死を覚悟した。