「さて、いくら見つめられても、話せるのはここまでだ。ここから先は秘密だ」
「ひ、秘密って、ここまで話しておいて秘密って」
エマが聞いて来た。
「ふふふ、エマさん。それこそ、彼女でもねえのに、これ以上は話せないと言う事だ」
「なるほどねえ」
三人が俺を見ている。
どういう感情かはわからないが、無言で見ている。
「じゃあな、俺は帰るよ」
これで、こいつらとも、もう会うことは無いだろう。
俺の秘密は絶対に話せない。
悪人にバレたら命が危ないからな。
折角の力だから悪用はいけないだろうけど、お金は稼ぎたい。なにか名案はないだろうか。
「ちょっと待って!」
俺がそんなことを考えて部屋を出ようとしたら、まゆから呼び止められた。
俺は、聞こえないふりをして部屋を出ようとした。
「困っていることがあるなら、相談に乗りますからまた会いましょう」
笑顔で、手を振っている。
あの言い方だと、俺に困ったことがあって悩んでいて、いずれ相談をするということになる。
まゆって一体何者なんだ。
くそっ!
気になる。
「まゆさん、一体あなたはどの様なお方なのですか」
「うふふ、私は後輩なので呼び捨てでいいですよ」
「そ、そうですか」
「うふ、相談したいことがあるのですか」
「特には、無いけど。どんな相談に乗ってくれるのかが知りたい」
「ズバリ、心霊相談です。私の家は心霊相談所なのです」
「はっ! 心霊相談?」
これには、俺だけじゃ無く、ヒマリもエマも食いついた。
「家に来ますか?」
「行くーー!!」
ヒマリとエマが両手をあげている。
お、お前らは関係ないだろ!
「先輩はどうしますか?」
「わかった。俺も行く」
まゆの家は、大通りには面しているが、古い四階建てのオフィスビルだった。
「ここです」
ここですって、もう見るからに心霊物件のたたずまいだ。
そこの三階の大きな部屋に案内された。
ドアには何も書いていない。あやしすぎる雰囲気だ。
部屋の中も様子がおかしい。
大きな部屋に、一つの応接セット、事務机が四つ、部屋の端にベッドが二つ。
広い部屋だから、後は空間が大量に余っている。
「まあ、珍しい! まゆが友達を連れてくるなんて、初めてじゃ無いかしら」
綺麗な事務員さんが出迎えてくれて、あいさつをしてくれた。
「この人は、まりあ、私の姉です。そしてこの子はまい、私の妹、そして、あの机に座っている人が事務のはるみさんです」
応接セットに小学生位の少女がいて、事務机に結構年上のお姉さんが座っている。
女の人ばかりだ、しかも全員綺麗だ。
だが、ヒマリも負けないくらい綺麗だ。
「コウさんは?」
「ああ、お祓いに行っているわ」
まゆの質問に、まりあさんが答えた。
「そう。紹介したい人がいたのですけど……」
「どの方ですか」
奥からはるみさんが興味津々で聞いて来た。
「こちらの……」
「俺は、木野瞬といいます」
あまり、本名は言いたくなかったが、成り行きで言わされた。
どうやら、コウさんというのがここの社長で、心霊相談の相手と言う事なのだろうか。
「こんにちは」
入り口から女性が入って来た。
「――!?」
俺は驚いた。
いま入って来た女は知っている。
刑事だ。
ある事件で、俺が通報した相手だ。
「あらー? あなた、どこかで会ったことなかったかしら?」
「……、さ、さあ。記憶にありません」
「あなたはヒマリさんね。全くコウさんのまわりにはどうしてこんなに美人が集まるのかしら。で、何をしにここへ来たのかしら」
「け、刑事さん!? ここが友達の家だから遊びに来ました。刑事さんこそ何をしに来たのですか」
「うふふ、あなたの事件の捜査のために来たのよ……思い出した。あなたは、コンビニの監視カメラに写っていた子だわ」
げっ!! 監視カメラに写っていたのかー。
失敗した。警察はまずい!
「うふふ、来て正解だったわ」
女刑事の目がギラリと光った。
「ちょっと待って下さい。さえこさん。ここは警察じゃありません。取り調べはやめて下さい」
まゆが、大きな声を出した。
「じゃあ、続きは警察署で聞きましょうか? お嫌でしょう。どうかしら?」
「くっ」
「まいちゃん、応接セットを開けてくれますか」
「はーーい」
まいちゃんがかわいい。
「どうぞ少年、座って下さい」
「瞬です。瞬と呼んで下さい」
「わかりました。瞬君ですね。あー、あなた達もどうぞ」
ヒマリとエマが俺の両隣に座った。
前に刑事のさえこさんと、まゆが座った。
「ふふ、まずは自己紹介をします。私は警視庁心霊捜査官のさえこです」
「えーーっ! 心霊捜査官なんて、本当にあるのですか?」
「ふふ、瞬君はだまされ易いわね。それが本当にあれば、もっと事件はたくさん解決しているわ」
「しかも、警視庁でも無いです。ただの県警の刑事さえこさんです」
まゆちゃんが、あきれ顔で言った。
警察官が嘘をついていいのかよー。
まてよ、これは嘘を付いてもいいという振りなのか。
「さて、少年、君は何が見えている」
瞬って言ったのに、少年に戻っているし。
「何も……」
「質問を変えよう。怪我をした美少女をどこでどうやって、助けたのだ?」
「!?」
俺はヒマリを見た。
ヒマリは首を振っている。
「その少女は、何も憶えていないの一点張りでな。警察の調査では、車にはねられた所を見たという目撃者がいる。交通事故の現場から、コンビニまではずいぶんある。私は何があったのか知りたい。そして、犯人の行方が知りたい。知っている事を教えて欲しい」
くそう、刑事というのは厄介だなあ。
いったい、どこまで知っているんだ。
「おれは、倒れていた少女を助けて、コンビニに運んだだけです」
「ほう、少年。どこに倒れていたのかね?」
さえこさんは、勝ち誇った表情で聞いて来た。