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0009 武術の師匠

「少年、この事は俺以外の誰かに話した事はあるのか?」


「いいえ、相談できる人がいなくて誰にも言っていません」


「そうか」


コウさんはほっとした表情になった。


「それが何か?」


「うむ、警察は余程へまをしなければ大丈夫だろう。だが、裏社会はそうはいかない」


「裏社会?」


俺は、裏社会に近づく気は無いのだけれど……。


「ああ、裏社会では疑われれば、そのまま有罪だ。命を狙われ続ける事になる」


「えっ!?」


そうか! コウさんは俺がこのまま行けば、いずれ裏社会との関わりを持つことになると考えているのか。

いや、この能力を使い続ければ、俺が嫌だと言ってもそうなるのだろう。


「少年が手を触れる事も無く、人間をコントロールする事が出来る。そう知れ渡れば、不自然な死を迎えた者がいた場合、全て少年がやったことになる。言い訳など聞いてもらえる社会じゃ無い。そうなれば常に殺し屋に狙われる事になるということだ。少年は自分の事が決して知られてはならない。理解出来るか?」


「は、はい」


これは、俺の能力の事を誰にも知られるわけにはいかない。

肝に銘じよう。


「それと、身を守る手段を憶えた方がいいな。少年時間はあるか?」


「はい」


「では、俺の武術の師匠のところへ行こう。マリアさん車の準備を頼む」


「はーい!」






乗用車の運転はマリアさん、助手席にはコウさん、後部座席にはマイちゃんがチャイルドシートに座り、その横に俺が乗っている。

しばらく県道を走ると、大きな神社に着いた。

神社は俺の住んでいるアパートからは近かった。

神社の鳥居をくぐり境内に入った。境内には立派な鉄筋の建物が有り、そこの一階が道場になっている。


「立派な道場ですねー」


「ふふふっ」


俺がコウさんに言うと、コウさんは意味深に笑った。


「こっちよ」


俺が道場のドアの方に歩き出すと、マリアさんが建物の奥を指さした。

建物の裏は雑木林のようになっていて、その奥にボロイ木造の建物がある。

まさか、あれか?

そういう予感はたいてい当たる。


「ここよ。私は先生を呼んでくるわ」


道場に入ると、学校の柔道場くらいの広さで中は外観に反して綺麗だった。丁寧に掃除をされている前面畳敷きの道場だった。

一人の髭面の仙人のような爺さんが、道場の隅で座っている。

なんだ、呼びに行かなくても師匠はいるじゃ無いかと思った。


コウさんが仙人のような師匠に深々と頭を下げている。

マイちゃんも同じように頭を下げた。

俺も失礼の無いように頭を下げた。

そして、その後ろの男子用の更衣室に入った。

コウさんが俺の体のサイズを見て道着を渡してくれた。


着替えが終って道場に戻ると、マリアさんの横に道着姿の一人の女性がいる。

顔は、ヒマリとエマの中間位の美女、歳も同じ位に見える。


「先生、こんにちは!!」


「まあ、まいちゃん。こんにちは」


「少年紹介しよう、この方が俺の武術の師匠サヨコさんだ。あの刑事サエコさんの妹さんだ」


「な、なんだって!!」


俺は、驚いた。

そして、俺が失礼な顔をしたのだろう、その瞬間サヨコさんの顔つきが変わった。


「少年! 私の襟をつかんで見ろ!!」


サエコさんは、俺を少年呼ばわりした。

歳はあんまり変わらないはずだ。

まあ、やっすい挑発だろう。

これでも俺は体を鍛えている。

俺の実力も知らないで、うかつな奴だ。


「おりゃあーー!!」


俺は全力で、腕を伸ばして襟を取ろうとした。

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