「まだです」
俺は、黒いモヤの出ている場所を指さした。
「しょ、少年!!」
コウさんが驚きながら、俺の指の先を見た。
そこには、エアコンがある。
コウさんがカバーを上げた。
「!??」
コウさんがエアコンの電源の方から何かを見つけたようだ。
「何があるんだ?」
かしらと言われた強面の男がのぞき込んだ。
コウさんの手には小さく折りたたんだ茶封筒が有り、それをゆっくり丁寧に開き手の上で逆さにした。
封筒の中には折りたたんだ白い紙が入っている。
コウさんはそれを、緊張した手つきで開いていく。
緊張の為か、それとも恐怖のためか手が小さく細かく震えている。
「うわっ!!」
かしらが声を上げた。
その声に飲まれて、俺達は声を出さずに済んだ。
白い紙には見た事も無い字が墨で大きく書かれていて、血で固められたような長い黒髪がごちゃっと包まれていた。
「しょ、少年!!」
「呪物ですね。強い怨念です。俺が預かります」
俺は呪物を祓う事は出来ないけど、怨念を引き受ける事が出来る。
正直、呪物は初めて見るけど、強い怨念は俺の力になる。
もらっておく事にした。
「そんなところに仕込んでやあがったのか!! 犯人はぜってー捕まえてやる」
かしらの目が怒りで血走っている。
「少年!?」
コウさんが心配そうな顔をして俺を見てきた。
「もう大丈夫でしょう」
「うむ」
コウさんはうなずいた。
俺が呪物をポケットにしまってからは黒いモヤは出なくなっている。
コウさんにはそれがわかっているはずだ。
「す、すごい!!」
女性全員がつぶやいた。
「瞬君、君はやっぱりすごいのですね」
ヒマリがそう言うと俺の腕につかまってきた。
胸が当たっている。
わざとなのか、気が付いていないのか不明だが、やめろよなー。
「おい、飯の支度をしねえか」
目の落ちくぼんだミイラ爺さんが威張っている。
グーーっと爺さんの腹が鳴った。
同時にコウさんの腹が鳴り、俺達の腹まで鳴った。
伝染するのか?
「へ、へい」
かしらは、まだエアコンを調べているので、他の若い衆がバタバタしている。
「ヤス!! そっちはもういい。お客人を案内しねえか!」
「へ、へい!!」
かしらのヤスさんはまだエアコンが気になるようだが、食事の用意が出来ている和室に案内してくれた。
全員が席につくと。
「さあ、みんなやってくれ! 俺も腹が減った」
用意された食事はとても豪華で一杯のっている。
寿司に天ぷら、刺身などの和食や、エビチリや唐揚げなどの中華もある。
爺さんがガツガツ食い出すと、コウさんが同じように食いだした。
マリアさんと、マユも遠慮なしで食べ出した。
――すげーー!!!!
たぶん、爺さんは組長だ。
そんな人の前で三人は遠慮も無く飯を食っている。
俺とヒマリとエマは緊張して、もたもたしている。
「おい、あんた達は俺の恩人だ。遠慮する事はねえ。食ってくれ、気持ちよく沢山食ってくれた方が、俺の気持ちが晴れる。俺の為だと思って食ってくれ」
「少年! そう言う事だ。作法なんてねえから、バクバク食え!!」
「おいおい、コウさん。あんたはちょっと食い過ぎだろう」
「ははは、ちげえねえ」
コウさんが笑っている。
きっと、俺が食いやすいように、いつもより食べていてくれたのかもしれない。
俺は一番高そうな、ぶりぶりの大きなエビの入ったエビチリを、ご飯の上に大盛りで乗っけた。
熱々のご飯に載せるとエビチリのうまそうな香りがあたりを包んだ。
それを大きな口にかき込んだ。
それを見て、ヒマリとエマも真似をした。
二人はまだ少しおびえがあるようだ。ヒマリの太ももが俺の太ももに当たっている。くっつきすぎだーー!!
飯を腹一杯食った組長は、みるみる若返っている。
九十歳すぎの爺さんだと思っていたが、どうやら五十歳位の中年のおじさんのようだった。