「懐かしい?」
「あら、言ってなかったかしら。私、その文芸部だったのよ」
「聞いていない。けど聞いていても憶えてねえや。関心無いからな」
「でしょうね。あんたって、そういう人だもの」
姉はそう言うと、部屋に入って着替えを始めた。
俺は念の為、部誌に姉の名前が無いか探して見た。
姉が文章を書くなんて聞いた事が無い、部誌にも案の定姉の名前は無かった。
食事が終ってから、俺はその部誌を読んでみた。
テーマは家族だったが、仲の良さそうな微笑ましい内容のものだけで、特に呪物になりそうな内容の文章はなかった。
「何が原因で呪物になっているんだ?」
現時点ではこれ以上は、わからなかった。
翌日の放課後、気は進まなかったが借りた物は返さないといけない。
文芸部に顔を出した。
「はい、入部届!」
「はっ??」
ヒマリがいい笑顔で俺の顔に近づき、紙を渡してきた。
おい、顔が近いって。わかっているのかこの女。
お前は無駄に美人だから、ドキドキしてしまうんだよ。
「はっ、じゃ無いでしょ」
相変わらず、エマは意地の悪い言い方をする。
目が吊り上がっているから、そんな言い方をすると、まるで意地の悪い継母だぞ、わかっているのかこの女。
「いやいや、俺は入る気は無いよ」
「こんな、美人が二人で頼んでいるのにー?」
おいおい、自分達で美人って言っているよ。
まあ、それは認めるけど、文芸部ってガラじゃねえんだよな。
「なあ、なんであんた達は俺に関わろうとするんだ?」
「命を助けられたから。じゃあ駄目ですか」
ヒマリが言った。
「ふふふ、黒いモヤがこの部誌から出ているなんて言われたら」
エマが言った。
ひょっとして、こいつオカルトマニアか。
「エマ、お前はオカルトマニアなのか?」
「違うわ。じゃなくて、先輩を呼び捨てにするんじゃない。私はあんたの彼女か!」
「ああ、済みません。エマさん。で、どうなんですか」
「そうね。全く信じていなかったけど、ヒマリの話を聞いて、部誌を見た時の貴方の反応を見たら……」
「みたら?」
「興味を持ちました。しょうが無いでしょ! 不思議すぎるのだからー」
「ふーーーっ」
俺は大きなため息が出た。
正直、こんな話をしても信じてくれる人はいないだろう。
だがこの二人は違うようだ。
「……」
二人は、頬を赤くして、俺の顔をのぞき込ん出来る。
少し鼻息も荒い、興奮しているのか。
「あのさあ、俺はこの事は誰にも知られないようにしてきた」
「うん、うん」
「普通に考えれば、気持ちが悪い話しじゃないか。それに俺自身、これがどの様な物で、この後どうなるのかもわかっていない」
「うん、うん」
「あんたら、恐ろしく無いのか」
「あの、恐い物なのですか?」
ヒマリが聞いて来た。
なんだ、この女?
あんな酷い目にあったもんだから、感覚がおかしくなっているのか。
こわいだろう。気持ち悪いだろ。
「あんた達は、幽霊が恐くないのか」
「えっ!? 幽霊なのですか?」
「正確には幽霊では無い。なぜなら幽霊を俺は見えない。俺に見えているのは怨霊だ」
「怨霊?」
「って、俺は何を言っているんだ。忘れてくれ」
俺は、我に返った。
たぶん俺は人に話たかったのだろう。
つい話そうになった。
でも、やはりこんなことは他人に知られるべきでは無い。
俺は、部室を出ようとした。
「まって、話して下さい」
ヒマリが俺の腕をつかんだ。
そして、顔を近づけて俺の目を見つめる。
顔が近いんだよ。
そして、四人用のテーブルの所まで引っ張った。
三人でテーブルを囲み椅子に座った。
これは、ちゃんと話せと言う事なのか。
「あのー、済みません。少し私も聞いてしまいました」
「あっ、まゆちゃん」
また一人、入って来た。
しかも、かわいい子だ。
「怨霊の話だ。聞かない方がいいぞ」
俺は脅かすつもりで言った。
「いいえ、聞かせて下さい。私は二年前呪いで殺されかけました。だから聞きたいのです」
「えっ!?」
な、なな、なんだって、今度はこっちが驚いた。
ヒマリもエマも凄い顔をして驚いている。
「学校では誰にも言えませんでしたが、まさか見える人が学校にいるなんて驚きました」
「お、俺も驚いた。で、あんたは見えるのか」
「いいえ。私は少し霊感が強くなりましたが、はっきり見ることはできません。感じる程度です」
「なるほど」
俺はそう言いながら、呪いがダダ漏れの部誌でまゆという少女の体を触ってみた。
「はうっ」
体がビクンと波打ち、変な声を出した。
どうやら、霊感があるというのは本当のようだ。
「ななな、何をしたのですか」
「ああ、試すような事をして済まない。この部誌には怨念がある。見えるか?」
「いいえ。でも、感じました。呪われている時と同じような嫌な感じです」
「うん、そうか。俺には黒い靄として見える。この部誌からは黒い靄が漏れ出している。この本だけじゃ無い。本棚の同じ号から全部出ている」
「あの、もし本を触ると呪われるのですか?」
ヒマリが不思議そうな顔をして聞いて来た。
「そんな力は無い。深い悲しみや強い怒り、人の強い思いのような物だ。不快に感じることはあっても、普通の状態なら影響は受けないだろう。だが、心が弱ったときには影響を受けるかもしれないけどな」
「すごい……」
そう言って、三人が俺の顔をじっと見つめている。