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0003 怨念

「懐かしい?」


「あら、言ってなかったかしら。私、その文芸部だったのよ」


「聞いていない。けど聞いていても憶えてねえや。関心無いからな」


「でしょうね。あんたって、そういう人だもの」


姉はそう言うと、部屋に入って着替えを始めた。

俺は念の為、部誌に姉の名前が無いか探して見た。

姉が文章を書くなんて聞いた事が無い、部誌にも案の定姉の名前は無かった。


食事が終ってから、俺はその部誌を読んでみた。

テーマは家族だったが、仲の良さそうな微笑ましい内容のものだけで、特に呪物になりそうな内容の文章はなかった。


「何が原因で呪物になっているんだ?」


現時点ではこれ以上は、わからなかった。




翌日の放課後、気は進まなかったが借りた物は返さないといけない。

文芸部に顔を出した。


「はい、入部届!」


「はっ??」


ヒマリがいい笑顔で俺の顔に近づき、紙を渡してきた。

おい、顔が近いって。わかっているのかこの女。

お前は無駄に美人だから、ドキドキしてしまうんだよ。


「はっ、じゃ無いでしょ」


相変わらず、エマは意地の悪い言い方をする。

目が吊り上がっているから、そんな言い方をすると、まるで意地の悪い継母だぞ、わかっているのかこの女。


「いやいや、俺は入る気は無いよ」


「こんな、美人が二人で頼んでいるのにー?」


おいおい、自分達で美人って言っているよ。

まあ、それは認めるけど、文芸部ってガラじゃねえんだよな。


「なあ、なんであんた達は俺に関わろうとするんだ?」


「命を助けられたから。じゃあ駄目ですか」


ヒマリが言った。


「ふふふ、黒いモヤがこの部誌から出ているなんて言われたら」


エマが言った。

ひょっとして、こいつオカルトマニアか。


「エマ、お前はオカルトマニアなのか?」


「違うわ。じゃなくて、先輩を呼び捨てにするんじゃない。私はあんたの彼女か!」


「ああ、済みません。エマさん。で、どうなんですか」


「そうね。全く信じていなかったけど、ヒマリの話を聞いて、部誌を見た時の貴方の反応を見たら……」


「みたら?」


「興味を持ちました。しょうが無いでしょ! 不思議すぎるのだからー」


「ふーーーっ」


俺は大きなため息が出た。

正直、こんな話をしても信じてくれる人はいないだろう。

だがこの二人は違うようだ。


「……」


二人は、頬を赤くして、俺の顔をのぞき込ん出来る。

少し鼻息も荒い、興奮しているのか。


「あのさあ、俺はこの事は誰にも知られないようにしてきた」


「うん、うん」


「普通に考えれば、気持ちが悪い話しじゃないか。それに俺自身、これがどの様な物で、この後どうなるのかもわかっていない」


「うん、うん」


「あんたら、恐ろしく無いのか」


「あの、恐い物なのですか?」


ヒマリが聞いて来た。

なんだ、この女?

あんな酷い目にあったもんだから、感覚がおかしくなっているのか。

こわいだろう。気持ち悪いだろ。


「あんた達は、幽霊が恐くないのか」


「えっ!? 幽霊なのですか?」


「正確には幽霊では無い。なぜなら幽霊を俺は見えない。俺に見えているのは怨霊だ」


「怨霊?」


「って、俺は何を言っているんだ。忘れてくれ」


俺は、我に返った。

たぶん俺は人に話たかったのだろう。

つい話そうになった。

でも、やはりこんなことは他人に知られるべきでは無い。

俺は、部室を出ようとした。


「まって、話して下さい」


ヒマリが俺の腕をつかんだ。

そして、顔を近づけて俺の目を見つめる。

顔が近いんだよ。

そして、四人用のテーブルの所まで引っ張った。

三人でテーブルを囲み椅子に座った。

これは、ちゃんと話せと言う事なのか。


「あのー、済みません。少し私も聞いてしまいました」


「あっ、まゆちゃん」


また一人、入って来た。

しかも、かわいい子だ。


「怨霊の話だ。聞かない方がいいぞ」


俺は脅かすつもりで言った。


「いいえ、聞かせて下さい。私は二年前呪いで殺されかけました。だから聞きたいのです」


「えっ!?」


な、なな、なんだって、今度はこっちが驚いた。

ヒマリもエマも凄い顔をして驚いている。


「学校では誰にも言えませんでしたが、まさか見える人が学校にいるなんて驚きました」


「お、俺も驚いた。で、あんたは見えるのか」


「いいえ。私は少し霊感が強くなりましたが、はっきり見ることはできません。感じる程度です」


「なるほど」


俺はそう言いながら、呪いがダダ漏れの部誌でまゆという少女の体を触ってみた。


「はうっ」


体がビクンと波打ち、変な声を出した。

どうやら、霊感があるというのは本当のようだ。


「ななな、何をしたのですか」


「ああ、試すような事をして済まない。この部誌には怨念がある。見えるか?」


「いいえ。でも、感じました。呪われている時と同じような嫌な感じです」


「うん、そうか。俺には黒い靄として見える。この部誌からは黒い靄が漏れ出している。この本だけじゃ無い。本棚の同じ号から全部出ている」


「あの、もし本を触ると呪われるのですか?」


ヒマリが不思議そうな顔をして聞いて来た。


「そんな力は無い。深い悲しみや強い怒り、人の強い思いのような物だ。不快に感じることはあっても、普通の状態なら影響は受けないだろう。だが、心が弱ったときには影響を受けるかもしれないけどな」


「すごい……」


そう言って、三人が俺の顔をじっと見つめている。

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