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0010 夜景

「コウさん、なにこの人? 私の襟に微かに触ったわ。すごい才能!」


「そんなにすごい事なのか?」


「すごいわよー。おかげで本気で投げてしまったもの」


なんだか、遠くの方で話しているように聞こえる。

どうやら俺はサヨコ師匠に投げられたようだ。

しかも、少し意識を飛ばしてしまったようだ。かっこ悪い。

俺は、柔らかい少し生暖かい物を枕にして横になっている。


――ひょっとしたら膝枕か?


もしかしたら、サヨコ師匠の膝枕で寝ているのかー!!

俺は、気が付いているのだが、もう少しこのままが良くて、目を閉じたままにしていた。


「もー、サヨコはやり過ぎ。可哀想な瞬君」


……ヒマリの声だ。

俺は恐る恐る、目を開けるとヒマリの膝枕で眠っている。


「ちっ、ヒマリかよーー!」


「はーーっ、なんで文句を言われているのかしら?」


「なんで、お前がいるんだよー?」


「私とエマはサヨコの幼馴染みだから、貴方より先にここに出入りしているわ」


「ヒマリは才能無しなので練習はしていませんけどね」


エマが言った。


「ちっ、エマまでいるのかよー」


「いるわ。まったくー! 学校で待っていたのに、勝手に帰るのだからー!」


俺は、高校卒業までの二年間この道場で修行する事になる。

古武術の道場で、戦国時代から続く武術道場とのことだ。

古い道場では弟子を新道場では練習生を教えているそうだ。

弟子には急所攻撃なども教えているので、分けているらしい。




道場に通い出してから二ヶ月ほど経ったときにその事件が起きた。

道場の修行が終わり、家に帰ると珍しく姉が先に帰っていた。

食事を済ませて片付けをしていると。


「……市……町で小学一年生の少女が行方不明になりました。最後に目撃されたのは午後三時頃の公園で……」


テレビから緊急ニュースが流れてきた。

時刻は午後九時、すでに六時間経っている。


「この近くだわ。物騒ね」


「……市周辺では、この五年間で他に三人の女児失踪事件が起きており、警察では事件と事故の両面で調査をしています」


ニュースは続いていたが、この事件は俺が解決しないといけない。直感的にそう感じていた。


「姉さん、ちょっと出かけてくる」


俺は姉にそう言うと、サエコ師匠の自宅の神社へ急いだ。

神社の鉄筋の建物は四階建てで、俺の住む田舎町の中では高い建物になる。かなり遠くまで見通せるはずだ。


「師匠!!」


「わかっています。どうぞ」


師匠は風呂上がりなのか石けんの良いにおいがする。

俺は、すでに真っ暗になっている、建物の屋上であたりを見渡した。


「どうですか?」


「全くわかりません。俺はしばらく探したいのですが、よろしいですか?」


俺は、怨霊と怨念が見える事だけは師匠に伝えている。

そして、電話で行方不明の少女を、俺なら助けられるかもしれないと伝えたのだ。

さいわい、姉のサエコさんは警察署にいて、今日は帰ってこないらしい。俺にとっては好都合だ。


「くそっ、駄目だわからない」


俺は独り言を言った。

どうやら甘く考えすぎていたようだ。

俺が怨霊を見えるのは、眼球で物理的に見えているわけでは無いから、遮蔽物があっても透けて見える。

だから、ここから見渡せば、すぐに犯人を発見できると考えていたのだ。


「あせらないで、あせりは心を乱すわ。落ち着いて静かな心で見るのよ」


「師匠ありがとうございます」


武術の達人のアドバイスは的確だ。とてもありがたい。

俺は深呼吸をしてもう一度ゆっくり、夜の町を少しずつ、視点をずらしながら見ていった。

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