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怨霊師
覧都
現実世界裏社会
2024年08月07日
公開日
21,256文字
連載中
一人の少年の両親が目の前で怨霊となり、少年はそれが見えるようになります。
そのせいか、人々の黒い物、怨念まで見えるようになりました。

見えるようになった少年の目には、世の中に黒い怨念があふれているように見えます。
そして、その中でも強い怨念は人に悪影響を及ぼす事を知り、人知れずそれを取り除いていました。

あるとき怨霊に取り憑かれた暴走族が、殺人をするところを目撃します。
少年は怒りに我を忘れます。
我を忘れた少年の体から、取り除いていたはずの大量の怨念が飛び出しました。
飛び出した大量の怨念は怨霊に吸収されると、とりついている暴走族を自由に動かし、殺してしまいました。
その時、少年は自分の出来る事を理解し、自らを怨霊師と名のる事にしました。

怨霊師となった少年は、その力で怨霊に取り憑かれてもなお悪事を働く者達に正義の鉄槌を下します。

0001 怨霊師

「ちっ、まじかよ」


目の前の薄暗い国道を、白いワゴン車が猛スピードで走り抜ける。

窓は黒いスモークが張られ、中がまるで見えない。

だが俺にはこの車が、ただならぬ雰囲気を出していることを感じる。黒い影が、車のまわりを覆っているのだ。

それと同時に俺のまわりの黒い影がザワザワしている。






「痛い、助けて下さい」


私は何がなんだか解らないでいました。

学校から家に帰る途中、突然車にひかれたのです。

ヒザがとても痛くて力が入りません。

私をひいた車から、男が三人降りてきて「大丈夫ですか。病院へ行きましょう」そう言って車に乗せてくれました。

そこまではいいのです。

ですがそこからがおかしいです。


車に乗ると男達は、私の両手と両足をビニールバンドで拘束しました。

男達は大きなマスクとサングラスで顔を隠しています。

私を拘束すると、顔をまじまじと見つめ黒い布の袋をかぶせました。


「助けて下さい」


もう一度私が言うと。


「うるせーなー」


袋を外すと、タオルで口をふさがれました。

そして、もう一度袋をかぶせると、無言で車を走らせます。


「おい、全身を調べるんだ。カバンも調べろ」


運転席から声がします。


「ふふふ、スマホです。財布もあります」


「スマホは川で捨てろ、金はいくら入っている?」


「千円札一枚と後は小銭です」


「ちっ、しけてやがんな!」


車は、くねくね曲がりながら走り続けます。

私が一体何をしたというのでしょうか。

なんでこんな目に遭っているのでしょうか。

全く見当もつきません。

ヒザが凄く痛みます。


「リーダー、やり過ぎましたね。こいつ足が折れていますぜ」


「ひゃーーはっはっはっ! そりゃあいい。逃げられなくて済むじゃねえか」


勝手な事を言っています。


――助けて下さい


「うーうーうーうー」


そう言ったつもりでしたが、「うー」にしか、なりませんでした。


「やかましい!!」


おなかに、すごい衝撃が走ります。


「ぐううーー」


私の口から蛙の声の様な音が出ました。

泣いてもしょうがないのですが、涙が出てとまりません。

涙がかれる頃に、車が止まりました。


スガーーッ


車のスライドドアが開く音がします。

袋のせいでまわりが全く見えませんが、チャンスじゃないでしょうか。

私は、大声を出して暴れました。


「フウガーー!! ウガアアアーーー!!!」


両手は後ろ手で、拘束されています。

両足も拘束されています。

芋虫の様にジタバタするしか出来ませんが、それでも全力で暴れて声も出しました。


――誰か気が付いて下さーい


「フウガーーーー!!」


「こいつ、頭が良いなー。狙ってやあがった。うりゃあ」


「おい、顔はやめろよ」


男達の暴力が始まりました。

体中に痛みが走ります。

でも、顔はやめろと言う事は、生きて帰れると言う事でしょうか。


「おい、外してやれ」


私の顔の袋が外されました。

どこか、さみしい林の中の空き地でした。

木の隙間から海が見えますが、海面までは10メートル以上ありそうです。

誰の気配もありません。

私の努力は、男達を怒らせただけだったようです。


「しかし、整っているねえ。滅茶苦茶美人じゃねえか」


「こいつ、地元じゃあ有名な美人なんですぜ」


「おい、猿ぐつわは外してやる。だがうるせーから大声を出すな。出して良いのは、あえぎ声だけだわかったな。わかったら、うなずくんだ」


男は、サバイバルナイフの様な物を頬に当てました。

私は、コクコクうなずきました。

男はいやらしい笑顔を私の顔に近づけて、口にきつく結びつけたタオルをほどきました。


「よし、服を脱がせろ!」


リーダーが言うと、私の制服に男達が手を伸ばしました。




私は浮かれていました。

皆に綺麗だ。かわいいと言われ続けて有頂天になっていました。

きっと、そんな私への罰なのでしょう。

このまま私は、殺されてしまうのでしょうか。


遠くで、バイクの音が聞こえます。


「おい、何か聞こえないか」


男達の手が止まりました。

ですが私はすでに、男達に下着姿にされています。

バイクの轟音がどんどん近づいて来ます。


「ひゃーーはっはっは。お盛んだねえ」


バイクは、地元の暴走族の様に見えます。

七人ぐらいいます。


「よう、ねえちゃん助けてやろうか?」


「た、助けて下さい。お願いします」


「ひゅーー、本当にさらわれたのかよう。可哀想になあ」


「おい、お前ら。人さらいだ構わねえから、かわいがってやれ」


暴走族のリーダーらしい男が言いました。


「ぎゃあー」「ぐわああ」「げふっ」「ぐえええ」


暴走族は、男達を情け容赦なく暴行します。


「あのー、それ以上やったら死んでしまいます」


「だとよ。助かりたかったら、金をだせ!」


「う、ぐうう、だ、だすげでぐださい」


男達は素直にお金を出しました。


「おいおい、全員で六万かよ。しけてやがんなー」


男達は全員、裸にされて正座させられています。


「ひひひひ」


「おい、やれ!!」


暴走族達は、それぞれナイフを出すと男達の腹や胸を刺しました。

男達の体から大量の血が噴き出します。


「ひっ、ひいいいい」


私は思わず悲鳴を上げました。

体が痙攣しているようにガタガタ震えます。

それでも勇気を出して御礼を言おうと思いました。


「あ、あの、あ、あり、ありが、ありがとう……ご、ございます」


「やあ、お嬢さん。当然のことを、したまでです。こいつら、人の縄張りで好き勝手しやあがって、当然の罰です」


暴走族のリーダーが笑顔で答えました。

助かりました。

こんないい人達がいるとは思いませんでした。

全員バイクに乗っているのでライダーです。

正義のライダーです。

私は、やっと、ほっとしました。


「あの、私は、足が折れているみたいです。病院へ……。助けて下さい」


私は図々しいとは思いましたが、優しい人達なので頼んでみました。


「嬢ちゃん、それは大変だ。ここが折れちゃっているんでしゅかー」


一人の金髪の男が私の折れた足を踏みつけました。


「ぎゃあああああぁぁぁぁぁーーー!!!! い、痛いーー!!」


「ひゃあーはっはっはっ」

「ひーーひっひっひっひっ」


「おい、お前ら! やめてやれ、やっと助かったと思って、ほっとした所なんだからよう」


「ぎゃあーはっはっは」


男達が、私を見下ろして爆笑しています。


――あー、そうか。私はこれで終わりなんだと痛感しました。


私はすべてをあきらめて目を閉じました。

男達に好きにされて、最後は殺された男達と同じようにナイフで刺されるのでしょう。

すべてをあきらめたはずなのに、さっき枯れたはずの涙が流れ出しました。




「あーー、お取り込み中でしたか?」


私が、どうせ死ぬのならと、噛みついて抵抗したため、酷い暴力を受けているときに後ろから声がしました。

こんな状況なのに冷静というか、のんきというか緊張感の無い声がしました。


「はーー!! なんだおめーは?」


「あー俺。俺は怨霊師です」


「陰陽師だと」


「あー、よく間違えられますが怨霊師です。俺は悪霊をはらいません。むしろ呪われています」


「馬鹿が何を言っているんだ。おい、殺せ!」


暴走族のリーダーが、冷たい目をして言いました。

この人達は、少しも人の命を奪うことにためらいが無いようです。


「ぐああああーーーーーー」


ナイフで腹を刺され、声を出しました。

暴走族の一人が、リーダーをナイフで刺したのです。


「お、おい、おめえ、何をしているんだ」


さっき、私の折れた足を踏みつけた金髪が言いました。

私も何が何だか、訳がわかりません。


金髪が言い終わると同時に、別の暴走族が金髪の腹をナイフで刺しました。


「うぎゃああああーーーー」


金髪が悲鳴を上げました。

暴走族達が、全員ナイフで刺し合いはじめました。

その目は、血走り正気を失っているようです。

一人を除いて全員が大量の血を流しながら地面に倒れました。


「あのー」


「うわあー、凄い顔ですね。気持ち悪ー」


「ひどいです」


私の顔は殴られすぎて腫れているのでしょう。

でも、女性に「気持ち悪ー」は無いです。


「良かったですね。あなたには怨霊がついていないようです」


「えっ」


「俺は行きます」


「あ、あの。私、足が折れていて歩けません」


「はーー、面倒くせー」


すごい面倒臭そうに、私をおんぶしてくれました。

おんぶをされて、後ろを見ると残っていた暴走族の一人が、バイクを海にすべて落とすと、全員の死体を車に積めて、運転席に乗り車ごと海に飛び込みました。


「気になりますか。日本では年に八千人もの人が行方不明になっています。彼らもその中に入るだけですよ。心配ありません」


「あ、あの。ありがとうございます」


「あはは、あなたは見ていたでしょ。俺は何にもしていませんよ」


私を助けてくれた怨霊師は、私をコンビニまで運んでくれると、どこかへ行ってしまいました。






「見つけました。まさか同じ高校の後輩だったなんて!」


俺が学校の廊下を歩いていると、目の前に松葉杖をついた、髪の長い絶世の美女が、笑顔で話しかけてきた。

まあ、俺じゃ無くて俺の後ろの奴だろう。

後ろをふり返ったが、誰もいない。


「あのー、人違いですよ」


「あのねえ、あなた怨霊師さんでしょ」


「えーー。なんでそれを……。じゃなくて、そんなのは知りません。って、あんた、あの時の気持ち悪ー、バケもん女か……」


「ふふふ、人の顔を気持ち悪ーなんて言う人は、あなたしか知りません。怨霊師さんでしょ」


「さあ、怨霊師ってなんですか。人違いですよ」


俺は、美女の横をすり抜けて教室へ向った。

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