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第7話

「どうですか、リーダー? このあたりに、アタシたちのアジトに使えそうなところはありそうですか?」

「うーん、そうだな。ここからもう少し先に、生命反応が全くない地下シェルターが一つありそうなんだが……」

 巨獣の追跡から辛くも逃れた後、しばらくバイクを走らせていたハルたち一行は、新しいアジトとして使えそうな場所を発見することができそうな段階にまで到達していた。

 先導するガルディンが端末を凝視しながら、それに該当する地下シェルターを探していると、一つ、生命反応が確認されない地下シェルターがあることが判明した。

「本当ですか? では、早速行ってみましょう」

「そうだな。よし、行くぞ」

 アイラの進言に従い、ガルディンはその地点へとバイクを走らせた。アイラとハルもそれに従う形でバイクを走らせ、一緒にその地点へと向かっていった。

「アイラさん、これで、俺たちも、少しは落ち着けるでしょうか……?」

「さぁ、それはアタシが聞きたいぐらいだよ」

 ハルが不安そうな表情で尋ねると、アイラはどっちつかずというような回答でお茶を濁していた。

 アイラにとっても、現状は今なお厳しいということをよく理解しているのだ。政府に追われている身であるという事実が、その現状の厳しさにさらに拍車をかけていた。

 そのことは、ハルも十分心得ていたが、今の彼にとっては、アイラと、そしてガルディン以外に頼れる人物がいない、ということもまた変えようのないもう一つの現実だった。

「よし、着いたぞ。確かこの辺のはずなんだが……」

 そして、さらにバイクを走らせていった時、ガルディンが途中でバイクを止めた。恐らく、探していた地下シェルターが目の前にあるのだろう。そう判断したアイラとハルは、やはりバイクを止め、ガルディンの様子を見守っていた。

「んっ? ここか。なるほど、前の時と一緒で、ちょっとした洞窟のようになっているのか」

 そして、ガルディンは大量の雪が積もっている中、その隙間から洞窟の入口らしきものがあることを確認した。しかし、このままでは雪が進路を塞いでいるため、洞窟に入ることができない。

「しかし、このままでは入れんな……。よし、ここは一つ発破をかけるか」

 そう言うと、ガルディンは荷物の中からダイナマイトの棒と長い導火線を取り出した。

「ダイナマイト? でも、こんな寒い地上で、使うことができるんですか?」

「大丈夫だよ。まぁ、見ていなよ」

 アイラがハルの疑問に答えている間、ガルディンはダイナマイトと導火線のセットを続けていた。

「このあたりにセットすればいいだろう。……よし、アイラ、ハル。爆発に巻き込まれないよう、二人とも下がっていてくれ」

 ダイナマイトと導火線のセットが終わると、ガルディンはアイラとハルにできる限り洞窟から離れるように指示を出した。アイラもハルも、ガルディンの指示を聞き、十分に距離を取った。

 アイラとハルが十分に離れたのを見たガルディンは、再度周囲の様子を確認した後、導火線に火を付けた。導火線の火はあっという間にダイナマイトに向かって走っていき、そして目標のダイナマイトに点火した。

「ウワッ!」

 その直後。猛烈な爆発音と共に、大量の雪が周囲に飛散していった。ハルは思わず両腕を顔の前で交差させ、飛散してくる雪をやり過ごした。

 猛吹雪の中に響く一瞬の爆発音。それが収まり、大量の雪の飛散が収まると、そこには思っていた通り、洞窟の入口が彼らの前に姿を現していた。

「……あっ、見てください。洞窟の入口が!」

「ふむ。どうやら、この先に地下シェルターがあるようだな。よし、行くぞ」

 ガルディンはバイクを押しながら、その洞窟へと入っていった。アイラとハルも、周囲に危険がないことを確認しながら、ガルディンの後に続いて洞窟へと入っていった。

「……それにしても、この洞窟、随分と寒いですね。外にいるのとほとんど変わらない寒さじゃないですか……?」

「そうだね。まぁ、かなり長い間、あの雪が入口を塞いでいたんだろうね。それじゃ、これだけ寒いのも、無理はないだろうさ」

 洞窟の中を進みながら、ハルは防寒着を着ていてもなお襲ってくる冷気に身を震わせていた。アイラもハルに同意しながら、マスク越しに白い息を吐いていた。

 猛吹雪の中を進む時は、当然ある程度覚悟をしていたから、多少の寒さもあまり気にすることはなかったが、この洞窟内の寒さは、外の寒さとはまた異なった、無機質な冷気を感じる。

「んっ? どうやら、ここがこの地下シェルターの入口のようだな」

 そうして、さらに洞窟の奥へと進んでいくと、目の前に巨大な扉が現れた。それを見たガルディンは、この扉が地下シェルターの入口に違いないと判断していた。「随分と大きな扉ですね。ですが、これ、前の時みたいなカモフラージュがないみたいですけど、大丈夫なんですか?」

「そこは、あとでなんとでもするよ。今は、この地下シェルターがアタシたちのアジトとして使えるかどうかを確認するのが先だからね」

 ハルとアイラがその扉を見ながら会話をしている間、ガルディンは扉の脇にあるセキュリティーシステムを確認していた。

「……ふむ、なるほど。この地下シェルターは、放棄されてからかなり長い間使われていないようだな。最後にここを通った記録があまりにも古すぎる。だが、私が持っているマスターコードを使えば、開けることができるはずだ」

 そう言うと、ガルディンはセキュリティーシステムのキーを操作し始めた。その時、ハルは直前にガルディンが言っていた、ある言葉が気になっていた。

「あの、アイラさん。さっきガルディンさんが言っていた、マスターコードって、なんのことですか?」

「あぁ、あのことかい? アタシも詳しいことはよく分からないんだけど、リーダーが言うには、どんなセキュリティーシステムでも解除することができる秘密のコードのことらしいんだ」

 ハルがそのことをアイラに尋ねてみた。ただ、アイラもその存在は理解しているが、詳しい内容までは分かっていないようだった。

「秘密のコード、ですか。でも、どうしてガルディンさんが、そんなコードを知っているんでしょうか?」

「それは、アタシにもよく分からないよ。リーダーもあまり多くを話してくれないし、アタシも敢えて聞かないようにしているしね」

 アイラもよく分かっていないというガルディンの正体。もしかしたら、ただのレジスタンスのリーダーというだけでは収まらない、なにか暗い過去を、彼は抱えているのかも知れない。

 しかし、この場でそれを詮索することは、ハルにとってはあまりに無粋な行為だった。今は地上の真実を探るという目的を同じくする仲間として、互いに協力関係を構築すべき時なのだ。

「……うむ、これでよし、と。さぁ、開いたぞ」

 その時、ガルディンがセキュリティーシステムのキー操作を完了した。それと同時に、目の前の扉が重い音を立てながらゆっくりと開かれていくのが見えた。

「本当だ、ちゃんと開きましたね。中は……、意外とキレイそうですね」

「そうだね。ここを放棄する前に、ここに住んでいた人たちがキレイに整頓したのかもね」

 扉の向こうには奥へ続く長い廊下が見えた。それまでの、いかにも洞窟っぽい岩だらけの光景とは打って変わり、人工的に造られた施設を思わせる無機質かつ幾何学的な構造が、そこには広がっていた。

「よし、では入るとするか。まずは、我々が使うためのコンピュータールームに相応しい部屋があるかどうか、それを確かめないとな」

 ガルディンを先頭に、地下シェルターの中へと入っていく一行。彼らが入っていった直後、入口の扉は再度重い音を立てながらゆっくりと閉じていった。

 廊下を歩くと、三人の足音だけが無機質に響いてくる。ここが放棄された地下シェルターだというのは、確かに間違いないようだ。

 そうしている間、ガルディンは各部屋のセキュリティーシステムを一つ一つ調べ、コンピュータールームとして使えそうな部屋がないかどうか吟味していった。そして、廊下の一番奥にある部屋のセキュリティーシステムを調べていた、その時だった。

「……ふむ。どうやらこの部屋なら、我々のコンピュータールームとして使えるかも知れないな」

 そう言うと、ガルディンは懐からコンピュータールームの情報を記録したメモリーチップを取り出した。そして、それを部屋のセキュリティーシステムにあるメモリーチップの挿入口に差し込んだ。

「どうですか? この部屋、使えそうですか、リーダー?」

「まぁ待て、アイラ。今、この部屋の情報とコンピュータールームの情報を照合している」

 はやる気持ちを抑えられないアイラをたしなめるようにしながら、ガルディンは照合結果が出るのを食い入るような思いで待っていた。そして、さらに少し時間が経過した、その時だった。

「おっ、照合結果が出たぞ。……よし、この部屋は問題なく、我々のコンピュータールームとして使えそうだ」

 セキュリティーシステムが照合結果を表示した。その結果を見たガルディンは、終始冷静な態度を崩すことなく、しかし内心はホッとしているように、ハルの目には映っていた。

 この部屋がコンピュータールームとして使えるということは、すなわちこの地下シェルターを自分たちの新しいアジトとして使うことができる、ということを意味するからだ。

「じゃあ、早速この部屋にコンピュータールームの情報を復元するとしよう」

 そう言うと、ガルディンは再度セキュリティーシステムのキーを操作した。すると、部屋の中からあの時と同じ駆動音が繰り返し鳴り響いてくるのが、ハルの耳にもはっきりと聞き取ることができた。

「こ、この音は、もしかして、この部屋の中をあのコンピュータールームに作り変えているんですか?」

「そうだよ。正確には、原子レベルまで圧縮したコンピュータールームの情報を、この部屋に物質レベルで復元しているってところなんだけどね」

 駆動音を聞きながら、ハルは自分が今まで知ることのなかった技術の凄まじさに、改めて圧倒されていた。

 地上の真実を知ることも、巨獣をなんとかすることももちろん大事なことであるが、それと同時にこうした技術革新の一端に触れることもまた、ハルにとって大きな意味を持つものであった。

 やがて、駆動音が止まり、周囲は再度静かな空気が支配していった。それは、コンピュータールームの情報を復元する作業が完了したことを示すものに他ならなかった。

「……よし、終わったようだな。では、入るぞ」

 そう言いながら、ガルディンは先頭に立って部屋のドアを開けた。開けた途端、無機質な乾いた匂いが彼らの鼻を通り抜けていった。

 ガルディンに続いてアイラが、そしてハルが部屋の中に入っていく。そして、そこに飛び込んできた光景に対し、ハルは思わず自分の目を疑った。

「な、なんだ、これ……? ほ、本当に、あのコンピュータールーム、そのままだ……」

 そこに広がっていたのは、紛れもないあのコンピュータールームそのものだった。机や椅子の配置、端末やモニターの数など、全てがあの時とそっくりそのまま再現されていたのである。

「どうだ、驚いたかね? 我々が政府の追跡から逃れながら、こうしてレジスタンスとして活動を続けることができるのは、全てこの技術のおかげなのだ」

「そ、そうなんですか。いやぁ、本当にビックリしましたよ。まさか、こんなことが、本当に実現できるなんて」

 ガルディンの説明を聞いた後であっても、ハルは驚きを隠すことができなかった。それと同時に、自分は今までなんと狭い世界の中で生きてきたのかと、改めて自分の小ささを思い知らされていた。

「さてと。まずは電源の確認だな。電源が入らなければ、我々はなにもできないに等しいからな」

 ガルディンはコンピュータールームの中を一通り歩いて回った後、電源のある場所に行き、そこのスイッチを入れた。入れてすぐにはなにも反応がなかったが、その数秒後、端末全体から小さな駆動音が聞こえてきた。

「あっ、なにか聞こえてきましたよ。これって……」

「あぁ、復元が上手くいったってことだろうね。あとはちゃんと起動してくれれば、当面の問題はクリアできそうだよ」

 ハルが声を掛けると、アイラがそれに応えるように言葉を連ねていった。その直後、設置されていたモニターが次々と点灯し、システムの基本画面を表示していった。

「よし、これで起動確認は問題なし、と。フゥ、やっと自分たちの新しい拠点を確保できて、私もホッとしているよ」

 システムが無事に正常起動したことを確認したガルディンは、そこで初めて誰の目にもはっきりと分かるほどに安堵の表情を浮かべていた。

 恐らく、ここに来るまでに心の中では常に緊張が絶えなかったのだろう。途中で巨獣に襲われたことを含めても、自分たちがあの猛吹雪の中をさまよい続ける必要がなくなったというのは、確かに一定の安心感をもたらすには十分なものだった。

「さて、これから我々はバックアップしたデータの復元を行う。これにはかなり時間がかかるから、ハル、キミはその間に他の部屋の様子を見てもらえないか?」

「あっ、はい、分かりました。それじゃ、ちょっと様子を見に行ってきますね」

 ガルディンとアイラは、ハルに他の部屋の様子を見に行くよう指示を出しながら、自分たちは他の作業の準備を始めた。この後、自分たちを待ち受けているものがなんなのか、それを知る由など全くなかった。

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