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第2話

 謎の追跡者たちに追われていたハルは、その途中、これまた正体不明の女性に助けられた。途中、正体不明の巨大な影に遭遇したが、女性の機転により危機を脱した。

 今もなお荒れ狂うほどの猛吹雪が吹き荒れる大地を走り抜けていく一台のバイク。女性が運転するそのバイクの後部座席に乗りながら、ハルはこれから自分は一体どうなるのだろうと思っていた。

 この女性は一体何者なのか、というところがまず気になっていたし、それ以上にあの追跡者たち、そしてあの巨大な影の正体も大いに気になるところだった。

 果たして、この寒風吹きすさぶ地上には、どんな秘密が隠されているのだろう。そして、しばらく女性と共にバイクに乗っていたハルだったが、突然、バイクの動きが止まった。

「よし、着いたぞ。さぁ、降りてくれ。どうした? 付いてこい。心配するな、別にアンタを取って食おうってわけじゃない。少なくとも、アンタが連中の手の者じゃないってことは分かる」

「えっ? あっ、はい、分かりました……」

 女性がバイクから降りると同時に、ハルにもバイクから降りるように促した。女性に促されるままバイクから降りたハルは、目の前に洞窟らしきものを確認した。女性はハルがバイクから降りたのを確認すると、エンジンを停止させ、ハンドルを握ったまま手で押す格好でバイクと共にその洞窟の中へと入っていった。そして、女性の後に従い、ハルも洞窟に入っていった。

 ハルを先導する女性は、懐から携帯用の照明を取り出し、前方を照らしながら前に進んでいた。女性が使っている携帯用の照明は、サイズこそ小さいものの、前方の見通しを良くすることができる程度の照度をもって道を照らしていた。そのおかげで、女性はもちろん、ハルも足元を確認しながら進むことができていた。そしてしばらく進むと、女性の足が途中で止まった。

「あれ? ここ、行き止まりですよ。大丈夫なんですか?」

「心配はいらない。ここを開けるには、特別なカードキーが必要なんだ。少し待っていろ。今扉を開ける」

 ハルが行き止まりか、と思ったその時。女性が懐から携帯端末を取り出し、それを操作し始めた。そして、女性が慣れた手つきで携帯端末を操作していくと、数秒後、目の前の岩がゆっくりと右に動いていくのが見て取れた。

「あっ! 岩が動いた!」

「どうだ、驚いただろう? この先にアタシたちのアジトがあるんだ。アタシたちのリーダーにも会わせてやる。さぁ、入ってきな」

 岩壁が動き、先に続く通路が見えてきた。その通路は、先程の洞窟の光景とは打って変わって、一面コンクリートに覆われた、非常に無機質な姿をハルの前に示していた。ハルと女性が通過した後、先程の岩壁はまるで二人が移動したことを自動的に感知したかのように再度動き出し、通路を完璧に塞いだ。

「それにしても、こんなところにこんなシェルターがあったなんて、俺、知りませんでしたよ」

「そうか。このシェルターは、だいぶ昔に造られたものらしいから、今のシェルターに比べると機能性では劣る。だが、その分かなり頑丈に造られているそうだから、ちょっとやそっとのことでは崩れたりしないぞ。さぁ、着いた」

 女性の話を聞きながら、ハルはこの女性が自分を助けた理由はなんなのだろうかと、思いを巡らせていた。今のところ怪しい素振りは認められないが、そこから先の思惑が不明である以上、ここはおとなしく女性の様子を窺うのが得策というものだろう。そして、女性が通路の奥にある扉の前までやってきた時、先程の携帯端末を再度操作し、その扉を開けた。

「リーダー、ただいま戻りました」

 扉が開くと、そこはまるでどこかのコンピュータールームのようだった。部屋の奥にある無数の巨大モニターを見上げながら、一人の男性が手前にある椅子に座り、なにやら端末の操作をしているのが見える。

「おぉ、アイラ、無事だったか。……んっ? 後ろにいるのは、誰かね?」

「アタシが周辺区域を調査していた時、『政府』の手の者に追われていたところを助けました。もしかしたら、アタシたちに協力してくれるかも知れません」

 その男性が椅子に座ったまま振り返ると、適度に口ひげを生やした、力強い風貌がそこにはあった、女性が経緯を簡単に説明すると、男性は納得したように頷いた。

「そうか、分かった。……おっと、自己紹介が遅れたね。私は『ガルディン』。このレジスタンスのリーダーだ」

「アタシは『アイラ』。このレジスタンスのメンバーの一人さ。もっとも、メンバーはアタシとリーダーを含めて五人しかいないんだけどね」

 男性と女性はハルに自己紹介をした。そこで、ハルは彼らがレジスタンスを名乗っている、ということを知るに及んだ。

「あっ、お、俺、ハルっていいます。そ、その、助けてくれて、ありがとうございます……」

「なに、礼なんていらないよ。それより、ハル、って言ったっけ。アンタ、どうして、あんなところであんな連中に追われていたんだい? アタシたちとは別にレジスタンスがあって、アンタはそこのメンバーだった、ってことなのかい?」

「あっ、はい。実は……」

 ハルがお礼を兼ねて自分の名前をアイラとガルディンに告げた。そこで、例の追跡者に追われていた理由をアイラに尋ねられたハルは、一瞬ためらいながらも自分が地上に出ることになった理由を説明し始めた。

 この日、ハルはいつもの通り人工農場での仕事を無事に終えた。そのまま帰ろうとしていたハルに、管理責任者からこことは別の人工農場に行ってほしいと頼まれた。

「フゥ、やれやれ。一仕事終えて帰ろうと思った途端、これだからな。あの人、あれで案外人使いが荒いところがあるんだよな。後で、ちゃんと残業手当を出してもらうように言っておかないとな……」

 愚痴に近い独り言をつぶやきながら、ハルは指定された人工農場に向かっていった。ハルとしてはきちんと残業手当が支払われるのであれば、特に文句を言う理由はなかったし、他の人工農場であっても、作業内容はそれほど大きく変わることはないからだ。

 程なくして、指定された人工農場に到着したハルは、そこの管理責任者に挨拶をした後、軽く作業内容について説明を受けた。そして、いつもの通り作業を開始した。

「……うん、これも問題なし。こっちも問題なし、と……。これぐらいの作業なら、別に俺じゃなくてもできるだろうに。人手不足をいいことに、俺たちをこき使おうとしているんじゃないのか……?」

 ハルは、内心ではこの臨時作業に対して不満がないわけではなかったが、一切文句を言うことなく、作物のチェックを一つ一つ行っていった。早くここの仕事を切り上げて、自分の部屋でゆっくり過ごそう。そう思いながら、ハルはその区域の作物のチェックを完了した。

「すみません。作物のチェック、終わりました」

「おぉ、終わったか。ご苦労さん。……うん、大丈夫そうだな。いやぁ、急に来てもらってすまなかったね、助かったよ。じゃあ、今日はもう帰っていいよ」

 ハルはチェックシートを持って管理責任者に提出した。受け取った管理責任者がその内容に問題がないことを確認すると、ねぎらいの言葉を掛けながらハルを見送っていった。今日のこの臨時作業については、改めて残業報告を出さなければならないだろうと、ハルは思っていた。

「さて、今日はもう帰るか。……おっと、もうこんな時間か。早く帰って寝ないと、明日ちゃんと起きられないからな」

 ふとハルが普段から愛用している腕時計を見ると、時計の針はすでにかなり遅い時刻を指し示していた。

「……あれっ? こんなところに、通路なんてあったかな? 来た時は気が付かなかったのに、こいつは、一体……?」

 帰りの途中、ふとハルは通路の途中に細い別の通路が横に向かって伸びているのを発見した。その細い通路のすぐそばには、よく見えるフォントで「立入禁止」と書かれたボードが立てかけられていた。

 ハルは、何故かその細い通路に興味を惹かれていた。この先には一体なにがあるのだろうか。

「立入禁止、って書いてあるから、多分無闇に入っちゃいけないんだろうけど……。今なら誰もいないし、少し中を見るぐらいなら大丈夫だろう」

 ハルは、部屋に帰る前に、少しだけ寄り道をしていこうと思い、その細い通路へと入っていくことにした。立入禁止区域に入る。それが大きな危険を伴うものであることは分かっていた。

「しかし、暗いな、この通路は。注意して歩かないと、転んでケガでもしたら元も子もないからな……」

 その細い通路には照明が用意されていないらしい。ハルは、携帯端末を取り出し、それに搭載されている小さな照明を使って、足元を照らしていった。ハルはその照明を頼りに、さらに通路の奥へと進んでいった。

 そうして、通路を一歩一歩進んでいったハルの前に、なにやら小さな扉のようなものが視界に飛び込んできた。

「……んっ? 扉か……。きっと、この先になにかあるんだろうけど、さすがにロックが掛かっているだろうし……、って、な、なんだ……?」

 ハルはその扉に対し、ある違和感を募らせた。本来であれば設置されているはずのセキュリティーシステムが、この扉には見当たらないのである。

「セキュリティーシステムがない……。ということは、この扉は、誰でも開けることができるのか……? 試しにやってみるか……」

 ハルは背後から誰かがやってこないかどうか注意しながら、その扉に付けられている取っ手を握り、ゆっくりと扉を開けてみた。すると、扉はやや鈍い音を立てながら、横にスライドしていった。

「おっ、なんだ、簡単に開くじゃないか。……しかし、中は真っ暗だな。これじゃ、なにも見えないぞ……」

 扉の向こうに待っていたのは文字通り真っ暗な空間で、中になにがあるのかを確認することはできなかった。

 ハルがとっさに携帯端末の照明を使って中を照らしてみると、どうやら荷物などがうず高く積まれている形跡は認められなかった。

「……うーん、特に目に付くようなものはなさそうだな……。んっ? なんだ、あれは……?」

 ふとあるものが照らされた時、その物体に向けてハルの視線が止まった。ハルがその物体に照明を集中させて目を凝らしてみると、どうやらそれは潜望鏡だった。

「……あの潜望鏡を使えば、地上の様子を見ることができる、ということか……? ちょっと、試しに覗いてみるか……」

 ハルの心に、地上の様子を知りたい、という欲求が湧き上がり始めていた。幸い、この通路に他の人が入ってくる気配はない。ハルは、周囲の様子に注意を払いながら、部屋の中央に設置されている潜望鏡まで歩を進めていった。

 その潜望鏡は、かなり古い時代に造られたものであるらしかったが、覗き窓の部分は比較的キレイに保たれているようだった。ハルが内心胸を高鳴らせながら潜望鏡を覗き込むと、そこには、衝撃の光景が飛び込んできた。

「……こ、これは……? こ、これが、地上、なのか……?」

 ハルが初めて目の当たりにした地上の景色。それはまさに彼の想像を絶するものだった。

 猛烈に吹きすさぶ雪嵐。まるで暴君のように荒れ狂いながら舞い上がる大量の氷。

 それは、まさに彼が幼い頃から繰り返し聞かされていたものと寸分違わぬ光景だった。

「お、俺たちがこの地下シェルターに住んでいるのは、この猛吹雪のせいで、地上に住めなくなったからなのか……? でも、一体いつから、地上はこんな風になってしまったんだ……?」

 潜望鏡を使って地上の様子を見つめているうちに、ハルは地上を猛吹雪に見舞わらせた原因を知りたい思いが募っていくのを感じていた。

 知りたい。いや、知らなければならない。今まで惰性の中で生きてきたハルにとって、初めて明確な目標を持って行動しようと思った瞬間でもあった。

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