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第18話 陶酔と独占欲(R-18)

 食事を終わらせた頃になるとおねこが起き上がり、俺たちに甘えて来た。  

 俺と桐生さん二人の間におねこがすっぽり収まるくらいの隙間を作ると、吸い込まれるように入って香箱座りでこちらを見上げる。  

 暫くはおねこと遊んだり撫でてやったりと寛ぎの時間を過ごしていると、急におねこが立ち上がりしびびと背中を伸ばしてまた猫ベッドに戻って行った。俺が言うのも変だけど、相変わらずマイペースなやつだ。猫ベッドに乗るなり、身を転がして再び寝始めた。何故かおねこは寝相がすこぶる悪い。誰に似たんだろう?

 俺達は歯を磨き、お互い下着一枚着ただけの姿でベッドに横になり隣り合わせになって手を繋ぐ。何でか知らないが無性に照れてしまう俺を、ひかるさんは可愛いと頭を撫でてくれた。まるでおねこを撫でているかのような、優しい手つきだ。

「……腕枕しようか?」

 笑いながら俺の額にキスを落として、唐突に言われたその言葉に甘えたくなったから、ひかるさんが広げた腕に嬉々として頭を乗せる。俺の頭にキスを落とすひかるさんと目が合って、幸せだなぁ、と実感する。

 いつの間にかひかるさんの笑顔に溺れていた俺は、彼の匂いにも敏感になっていた。俺の後頭部の辺りから漂うひかるさんの濃い匂い。背中がゾワゾワしてしまう。

「……ひかるさん、脇の匂い嗅いでいい?」

「は…どうしたんだ?さっき洗ったばかりだから臭くはないと思うけど」

 頭を横に動かしたら、彼の匂いが更に濃くなった。それと同時に俺は勝手に盛り上がっていた。ふわふわの腋毛を掻い潜り、脇の溝に鼻先を埋め、たっぷりと鼻から息を吸うとひかるさんの小さい溜息が聞こえる。

「やめっ、ぐりぐりするな…!ん…くすぐったい…」

 ひかるさんの性感帯に、脇の下が追加された瞬間だった。舌先でくすぐるとまたもや嬉しそうな恥ずかしそうな声が聞こえる。

「ふふっ…ひかるさん、今日は本当に元気ですね…?何回イッたか忘れましたよ」

「…おまえのせいだからな…責任取れよ」

 俺をそうさせるのはひかるさんなのだから、大元を辿ればひかるさんが悪い。でもそんなことはどうでも良くて、体勢を変えて育つ前のひかるさんの雄に顔を近づけ、上からやんわりと噛み付いた。

「ひぁ…んなっ、それは駄目だろ、美影…!」

ほんはひ?そんなに?

「っ…咥えたまま喋るな…!」

 少しずつ湿ってくるのは、俺のヨダレだけではないらしい。ひかるさんの先端からもじわりと広がってきて、玉の雫となり落ちてくる。

「はっ、っ、あ……ばか…駄目だって…」

「それ、気持ち良すぎてダメになる、の略ですよね」

 ひかるさんの鈴口に舌を捻じ込むように少しずつ、ほじくっては吸いあげる。石鹸とひかるさんの匂いが混ざりあってとてつもなくいやらしい。陰嚢を唇で探し当て、食むように動かしただけで甲高い声が漏れていた。

「これ、気持ちいいですか?」

「んっ…ぅん…いい…っ」

「乳首いじりとどっちが良い?」

「…ど…どっちも…」

 顔を真っ赤にして小声で言うひかるさんが可愛すぎて、更にイジメたくなってくる。ひかるさんの急所を完全に口の中に入れ、球状のものを唇で探り当てる。舌で睾丸を転がすように舐ると、ひかるさんが足の爪先をピンと伸ばした。

「ん…くっ…!みか…っ!」

「へへっ…、コリコリしてなんだか美味しそう…たべちゃいますよー?」

 散々その形をなぞるように舐めまわした後、緩く前歯を立てる。

「っ……!あ、あっ、…!」

「もしかして、こっちの方がいいです?」

「………っ!」

 涎を垂らすひかるさんの雄を、前置きなく奥まで口の中に入れる。先端が俺の頬に当たるように角度を変えて、熱を持つそれを口の中から何度も出したり入れたりした。

「ひっ!やっ!やだ!!また出るからっ…!駄目だって!」

 暴れ出しそうなひかるさんの言葉をお構い無しにしゃぶり続ける。可愛すぎるあなたが悪い。

「あっ、みかっ…!また…っ!っく…!」

 俺の口の中で桐生さんの雄が震え、腰がびくんと痙攣した。舌先で先端を舐めたと同時に色も味も薄い体液が吹き出して、口の中から溢れないよう少しずつ嚥下する。

「んっ…ひかるさんの匂い…まだまだ濃いなぁ…」

「……そんなの、飲んだらダメだろ…」

「えぇ?だって勿体ないじゃないですか」

 熱に浮かされたような顔で俺の顔を見つめるから、俺はそのままひかるさんの臍に自分の唇を重ねた。続いて鳩尾、胸元、乳首、鎖骨と徐々に上昇する。最後はやっぱり唇で、ちぅ、と啄むようなキスを何度も繰り返していくうちに、段々と深くなっていくこの瞬間が堪らなく好きだ。

「…美影、愛してる」

「それ、俺が先に言おうとした台詞ですよ」

 ひかるさんの額に俺の額をくっつけて、ひかるさんの綺麗な濃い灰色の瞳を見つめた。今この時間だけ、彼の目には俺の顔しか映っていない。

 もう一度キスをすると流石に疲れたのか、ベッドにくったりと身体を沈ませる。流石に申し訳なくなって、小さい声で謝罪した。

「…ン、ごめんなさい、ひかるさん…やりすぎた……」

「いや…。正直言うと、凄くよかった…」

「でへへ。…俺もですよ…はぁ、もう一回したいって言ったら殴られます…?」

「いや…大丈夫、たぶん。おまえがおれを介抱するんだろ?」

 底なしなのはひかるさんの方かも知れない。


×    ×       ×


「あっ、…おく…んぅ…」

「ふふ、何言ってるのかよく分からないですよ」

 音無が桐生の腰を両手で掴み、思い切り引き寄せると締め付けが強くなった。奥まで到達するのに抵抗されているような気がして、ややムキになりながらも抽挿を繰り返す。音無はそのまま何度も腰を打ち付けて、桐生の意識がいっそ飛んでしまうまで抱いてやりたいと思っていた。しかし彼を労りたい気持ちと拮抗して、どうしても力をセーブしてしまう。

 先程と違って対面座位で向かい合いながら、お互いに余裕があるような口ぶりだが実際余裕などというものは皆無だった。少しでも気を抜けば快楽に飲み込まれてしまい、意識朦朧としたまま求めてしまうであろうことは安易に理解できる。

「ふふっ…いつまでも俺に絡みついて離れないじゃないですか…スケベすぎる身体ですね?」

「んっ…テンプレみたいな煽り文句だな?もっと捻らないと、臨場感が…っ…出て来ないぞ?」

「ひかるさんったら…まぁた強がって!でもそこが可愛いのだけど、ねぇ?」

「っ…!」

 とちゅっとちゅっと卑猥な水音を撒き散らしながら桐生の腰から背中に手を這わせ、目の前にあるやや肥大してしまった乳首に喰らい付く。歯を立てないように舌先で乳輪をなぞり、隆起する毛穴のひとつひとつをくすぐるように愛撫する。桐生の背筋がぞわぞわと総毛立ち、腰をしならせて音無のまだ衰えない剛直を強く締め付けた。

「うわ、きっつ…!俺の俺が喰いぎられそう…」

「くっ…ふふ…今のは60点だな……」

「もうっ…!どうやったら100点採れるんですか?キリオ先生」

「ふ、それは自分で考えてみな」

 まるで教師と生徒のような問答の後、何か悪戯を思いついたかのような顔つきになり、音無がニヤリとわるい笑みを浮かべ桐生の耳元に唇を寄せた。

「『…先生、僕、もう我慢できないよ…』」

「え…んなっ…⁉」

「『約束したでしょ、先生…僕がおっきくなったら、いっぱい気持ちいいことできるようになるって』」

「や、やめろ…っ…何で一言一句憶えてるんだよ…!」

「『ベロニカ先生の中、あったかい』…ほらぁ…次は先生の番ですよ」

「っ…!そんなの、言える訳…っ…」

「『ルカ、君は…随分と、おおきくなったな』」

「やめろぉっ…!んうっ、あぁぁっ…」

 桐生は顔を真っ赤にして抵抗するも、虚しく空振りに終わる。桐生が生田キリオとして作家活動をしていた頃、自費出版の書籍として出した『ルカとベロニカ』というボーイズラブ小説の一節だった。寄宿学校を舞台にした生徒と教師の淡い禁断の愛を描いた三部作として発行され、物語の後半で生徒のルカが教師のベロニカにただならぬ想いを打ち明けるシーンだ。まさか暗唱できるまで読み込んでいるとは思わず、桐生は自分の手元にあった自著の同人誌を渡して良かったのか悪かったのか分からなくなってしまう。

「俺の中で100点のやりとりはキリオ先生の小説ですからねぇ。はぁ、ゾクゾクする…ふっ…やば、出そう…」

「わかった……その…ご、ご愛読ありがとうございます…?」

「あはっ…ひかるさん面白すぎっ!『ずっと我慢してた先生に、ご褒美あげるね…!』」

「うぅっ…!いっ…あぁぁ!」

 ひとしきり大きく腰を揺らすと桐生の最奥の扉が開かれ、音無の剛直がその先へと白濁をぶちまけた。目の前が明滅し強烈な絶頂を迎え、桐生自身も足の指先でシーツを掴み、音無の引き締まった腹に吐精する。

「ひかるさん…えっろぉ…」

「……『…こんな身体にしたのは君じゃないか…』」

「あ~っ!最高…!俺もうひかるさん家で暮らす…!」

「何馬鹿な事言ってるんだ…何時だって遊びに来ればいいだろ」 

 恍惚とした笑みを浮かべ、汗ばむ音無の背中に指先を食い込ませ、強く抱きしめて乾いた口を潤すようにキスをねだる。ひとつになり、また別れて絡み合う舌と唇は何度も重なり合った。

 長い長い夜が明けたのか、窓の外は白み始めていた。


×    ×    ×


「っ…はぁ…流石にきついな」

「…ん…でも、近くに居ていいですか?」

「おれがダメだって言うと思うか?」

 美影が寝転んだままおれと向き合って、身体を抱き寄せる。掌に感じる彼の温もりを握りながら絡み合わせた指先の、少しごつくなった感触。

 日に日に音無の仕事は上達してきていて、これなら少しは安心できるだろうと自分に言い聞かせる。それと同時に、いつ言おうかまだ迷っている自分が居たのも事実だった。

「美影、ありがとう」

「急にどうしたんですか」

「そうだな…。しいて言えば、ちょっと言いたくなったんだ」

 いつかお互いに指輪を交換して、2人きりの教会でもうこの手を離しはしないと誓いたい。それが近い将来なのか、もっと先なのかは分からないが。

 だからそれまでは、何度でも言ってやろう。


 ありがとう、おれは音無美影を愛している…と。

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