「はぁ…すっごかった…光さん、大丈夫ですか?」
身体を預ける美影の体温が心地いい。おれよりも少しばかり平熱が高い彼の素肌は、情事の間だけひんやりと心地がよかった。多分おれの方が火照ってしまうから、そう感じているのだろうけれど。
おれが土日に互いの部屋を行き来しようと思ったのは、平日の間に放ったらかしにしてしまう愛しい人を悲しませたくなかったから。平日は何かに追われるように働き詰めていたから、今となっては徹夜なんて以ての外だ。三食キッチリ食べて夜は人並みに寝ることを課せてからは、どうやら体調がすこぶる良くなったらしい。それは上司としても…とても良かったと思う。
その所為なのか、男としての機能も…恥ずかしながら絶好調になってしまったようだ。
ヤリ過ぎ感は否めないけど、日付が変わって日曜日になった。まだ休みだし、明日は明日のおれがなんとかしてくれるだろう。今は美影と過ごす、この甘ったるくて気だるい時間を大切にしたいと心から思った。
「…美影こそ、無理してないか…?」
「よしてくださいよ。俺はいつでも余裕ですから!それに…やっと桐生さんとえっちできたんですよ?1回で終わらせる筈ないでしょう」
ベッドの上で頬杖をつき、おれを見降ろしながら、くくっと笑う彼の笑顔は…俺なんかより格好いいと思う。と言うよりもどんな表情も好きすぎて、惚れた弱みなのだろうととうに諦めていた。こいつはおれのことを可愛いだのかっこいいのだと言うが、おれは所詮中年に足が掛かったオジサンに過ぎない。多少体形は気にするようになったけれど、何処にでもいる普通の
サラリーマンだ。それなのに美影は横たわったおれの隣に寝転んで、『かわいいかわいい俺のひかるさん』なんて呼びながらおれの髪を優しく撫でた。さっきのお返しなのだろうか。
お互い下着1枚だけの姿なんて、最初は心臓に悪かったけど今はすっかり見慣れてしまって、美影の逞しい胸筋がすぐ近くにあるのに安心感すら感じている。
「…おまえ、ずっと鍛えていたのか?やけに筋肉質になったと思ったが…」
「え?鍛えれば男はみんな大体そうなるんじゃないんですか?」
「おれのは…まぁ…おまえに散々揉まれた所為で人よりは柔らかいけどな」
美影の引き締まった胸元から腹筋にかけて指先でなぞると、擽ったそうに笑う。まるで彫刻のように無駄のない体つきは、普段から身体を動かしている証拠だ。
一方本番はなかったと言えど、付き合ってから抱き合う度に美影に揉まれ、舐られているおれの胸はだらしない肉がついてしまった。この方が揉み甲斐があるとか、気持ちイイ顔してると音無に言われて以来、無理に鍛える必要もないと思ってしまっていたからだ。
流石に重いモノを持ち上げる筋力くらいはある。ただ、筋トレするよりも小説の執筆に時間を割きたいが為の言い訳でもあった。
「胸…揉まれるとおおきくなるんですね」
「そ、それは女性だけだと…思うが」
「でもひかるさんだっておっきくなったでしょう?」
伸ばされた手がおれの胸を優しく掴む。またスイッチが入ってしまったらしい。普段なら翌日に備え、既に寝ている真夜中なのだろうに。さっき散々おかしくされた仕返しにと、音無の乳首も摘んでやる。
「っ、やめ、…!」
「美影もそこ、気持ちイイんだろ」
「なに言ってるんですか、こんなの…あんっ…!」
「ふふ、やってみないと分からないことばかりだな」
音無の胸元をまさぐると、小さな突起が少しだけ隆起した。表情は擽ったそうな、微妙な顔。更にその周りをなぞって、顔を近づける。唇で挟んだり軽く舌先で撫でるとどうやら興奮はしてるみたいで、おれの息が掛かる度に音無の息が上がった。
「ねっ、ひかるさん…っ!駄目だって…!」
「ここ、良くなってきたか…、まだまだって顔してるけど」
”まだ”と言う単語が適切かどうかは分からないけれど、おればかりが気持ちよくなってるのは申し訳ないから。今度は彼の番だ。
× × ×
急に立ち上がり、フラフラとした足取りで桐生さんが洗面台に向かう。戻って来た時には、濡らして絞ったタオルを手にしていた。何に使うかと思いきや、なんと俺の一物を丁寧に手入れしている。じんわりと温かいので、わざわざお湯にくぐらせたようだ。
「きっ、桐生さん!?なにもそんなことまで」
「おれがしたいからやってるんだよ。黙って拭かれてろ」
じわりと温かい蒸しタオルで綺麗になっていく身体を眺めると、唐突にあの足つぼマッサージ店ことを思い出した。次あの店行くときは、今日この瞬間を思い出すかも知れない。ちょっとそれは危険だ。
汗やらなにやらが綺麗に消え去った俺の下半身に桐生さんが触れて、既に力を無くしているソレに恐る恐る舌先を近づける。先っぽだけしか舐められていないのに、その光景を眺めているだけで俺はもう既に限界を迎えそうだった。
「っ…あぁ……それ、やばい…」
「ん?」
一度唇を離した桐生さんが、笑いながら俺を見ている。その時点でもう俺のはバキバキになっていたのに、更に苛めようとしているのか俺の一物を奥まで咥えだした。
光さんの舌が、前歯が、咥内が俺を包み込んで舐り刺激する。こんなに気持ちよかったなんて思いもしなかった。
「…あぁ!だめですって、もっ…!」
光さんの顔まで赤くなっているのを見ながら、彼の口の中でぶちまけたい欲求をどうにか押し殺そうとする。それなのに、当の本人がちっとも離してくれなかった。さっきこの人の中に出したばっかりなのに、今度は口の中になんて…考えただけで、無理でしかない。
「いっ…イクっ…!」
扇情的な光景と開放感に肩の力が抜けてしまう。
ああ、やっちまったと思ったその瞬間、頭の中が空っぽになった。
光さんが少し噎せている声が耳に入り、慌ててベッドの近くにあるティッシュを数枚掴んで引き渡す。
「も、無理しないでくださいよぉ」
口元でティッシュを拭う素振りをみていると、何というか…食後に口元を拭いているような、そんな仕草に見えてしまった。
「無理じゃ、ない…ココなら…出していいから…。それにしてもまったく、音無じゃなくて底なしか?」
「ん、さあ…?どうなんでしょうね…」
まだ足りないですと危うく言い掛けた言葉を飲み込み、誤魔化すように光さんのを頭を撫でる。ムッとした顔の光さんもやっぱりかわいかったけれど、俺のを咥えたままこっちを睨んでくるその視線が堪らないくらいイヤラシイ。
「…どうだった?」
「最高でしたし欲を言うならもっとやってほしいんですけど、また今度にしますね。あと、ひかるさんの声が聞こえないの残念だなぁ」
「早口に何言ってんだ…とりあえず、風呂入ろうか」
一度お互い汗だくになった身体を綺麗にするために、光さんが風呂に入ろうと声を掛けてくれた。光さんちのお風呂は広めで、浴槽は2人で入っても余裕の広さがある。湯は張らずに浴槽の中でお互いの身体を洗いながら、シャワーに溶け込む光さんから流れ出した俺の白い分身を排水溝に見送った。一度だけではあるが、やはり尻の中に違和感があるらしく何度も洗い流そうとしている。次からはちゃんとコンドームをつけようと自分に言い聞かせた。
よくもまぁこんなに出たものだと我ながら呆れていると、相当
お互い手の平にボディソープを出して、泡立てさせたら互いの身体を洗い合う。光さんの肌の上を俺の手の平が滑ると、ベッドの上とは違う色を含んだ吐息が俺の耳元に当たった。
「あっ…くすぐったい…ふふ…」
胸元にあるやや褐色になった突起に吸い付けば、カスカスに枯れた声で気持ちよさそうに喘ぐもんだからこっちまでその気になってしまう。裸同士で抱き合って、光さんの少し厚ぼったい胸元を揉んでは腰を擦りつけた。光さんの身体を壊したくないのに、次から次へと湧いて来る欲求に抗えなくなる。
「美影…、もう、無理だって…」
「っ、天性の煽り使いですね…!それにまだ、ひかるさんも俺もまだ2回しか」
起き上がる雄を優しく掴んで、上下に擦ればまた先端から白い泡が溢れてくる。先っぽを口に含んで鈴口を舌でほじくり返されるのがこの人はいたく気に入っているらしく、どれだけ疲れていてもすぐにまた勃ち上がってしまい、風呂場でも光さんが昇り詰めた。のぼせてくったりする前に光さんの身体を拭いて浴室を後にした。折角綺麗にした身体がまた汗をかいてしまうから、何度もシャワーを浴びている分消耗も激しいのだろう。
「…おれの体力はもうゼロだ。降参しよう」
「えぇ…明日起き上がれなくなるまで抱きつぶして欲しいって言ったのは誰でしたっけ」
「そんなこと言ってない!」
ムキになる光さんの頬をふにふにと摘まむ。かわいい。
浴室から出て光さんが乾いた口の中を濯いだ後、冷蔵庫の中から野菜ジュースを、俺はチューハイを取り出し煽ってかなり遅い夕飯を食べた。メニューは光さん作り置きのリゾットとラザニアだ。冷凍してあったものをレンジで温めるだけで、ホカホカのご馳走になる。午後休みのため、昼からロクに食べてないという光さんは、普段の彼には珍しくよく食べていた。
さっきまでトロトロの顔で喘いでいた彼とは思えないくらいに。