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第17話 渇望と愛情(R-18)

「はぁ…すっごかった…光さん、大丈夫ですか?」

 身体を預ける美影の体温が心地いい。おれよりも少しばかり平熱が高い彼の素肌は、情事の間だけひんやりと心地がよかった。多分おれの方が火照ってしまうから、そう感じているのだろうけれど。

 おれが土日に互いの部屋を行き来しようと思ったのは、平日の間に放ったらかしにしてしまう愛しい人を悲しませたくなかったから。平日は何かに追われるように働き詰めていたから、今となっては徹夜なんて以ての外だ。三食キッチリ食べて夜は人並みに寝ることを課せてからは、どうやら体調がすこぶる良くなったらしい。それは上司としても…とても良かったと思う。

 その所為なのか、男としての機能も…恥ずかしながら絶好調になってしまったようだ。

 ヤリ過ぎ感は否めないけど、日付が変わって日曜日になった。まだ休みだし、明日は明日のおれがなんとかしてくれるだろう。今は美影と過ごす、この甘ったるくて気だるい時間を大切にしたいと心から思った。

「…美影こそ、無理してないか…?」

「よしてくださいよ。俺はいつでも余裕ですから!それに…やっと桐生さんとえっちできたんですよ?1回で終わらせる筈ないでしょう」

 ベッドの上で頬杖をつき、おれを見降ろしながら、くくっと笑う彼の笑顔は…俺なんかより格好いいと思う。と言うよりもどんな表情も好きすぎて、惚れた弱みなのだろうととうに諦めていた。こいつはおれのことを可愛いだのかっこいいのだと言うが、おれは所詮中年に足が掛かったオジサンに過ぎない。多少体形は気にするようになったけれど、何処にでもいる普通の

サラリーマンだ。それなのに美影は横たわったおれの隣に寝転んで、『かわいいかわいい俺のひかるさん』なんて呼びながらおれの髪を優しく撫でた。さっきのお返しなのだろうか。

 お互い下着1枚だけの姿なんて、最初は心臓に悪かったけど今はすっかり見慣れてしまって、美影の逞しい胸筋がすぐ近くにあるのに安心感すら感じている。

「…おまえ、ずっと鍛えていたのか?やけに筋肉質になったと思ったが…」

「え?鍛えれば男はみんな大体そうなるんじゃないんですか?」

「おれのは…まぁ…おまえに散々揉まれた所為で人よりは柔らかいけどな」 

 美影の引き締まった胸元から腹筋にかけて指先でなぞると、擽ったそうに笑う。まるで彫刻のように無駄のない体つきは、普段から身体を動かしている証拠だ。

 一方本番はなかったと言えど、付き合ってから抱き合う度に美影に揉まれ、舐られているおれの胸はだらしない肉がついてしまった。この方が揉み甲斐があるとか、気持ちイイ顔してると音無に言われて以来、無理に鍛える必要もないと思ってしまっていたからだ。

 流石に重いモノを持ち上げる筋力くらいはある。ただ、筋トレするよりも小説の執筆に時間を割きたいが為の言い訳でもあった。

「胸…揉まれるとおおきくなるんですね」

「そ、それは女性だけだと…思うが」

「でもひかるさんだっておっきくなったでしょう?」

 伸ばされた手がおれの胸を優しく掴む。またスイッチが入ってしまったらしい。普段なら翌日に備え、既に寝ている真夜中なのだろうに。さっき散々おかしくされた仕返しにと、音無の乳首も摘んでやる。

「っ、やめ、…!」

「美影もそこ、気持ちイイんだろ」

「なに言ってるんですか、こんなの…あんっ…!」

「ふふ、やってみないと分からないことばかりだな」

 音無の胸元をまさぐると、小さな突起が少しだけ隆起した。表情は擽ったそうな、微妙な顔。更にその周りをなぞって、顔を近づける。唇で挟んだり軽く舌先で撫でるとどうやら興奮はしてるみたいで、おれの息が掛かる度に音無の息が上がった。

「ねっ、ひかるさん…っ!駄目だって…!」

「ここ、良くなってきたか…、まだまだって顔してるけど」

 ”まだ”と言う単語が適切かどうかは分からないけれど、おればかりが気持ちよくなってるのは申し訳ないから。今度は彼の番だ。


×    ×    ×


「あはっ…ひかるさん、俺の中、きもちい…?」

「く、っ…!そんなの、おまえが一番良く知ってるだろ…!」


 既に夜半を過ぎた頃のこと。

 おまえの中に入ってみたい、とひかるさんが可愛くねだるもんだから、今度は俺がひかるさんに身体を委ねた。最初からどちらがタチでネコなのかなんて示し合わせてはいないし、初めての…セックスのことでもしひかるさんが嫌がるならと、一応準備はしてきて良かったと思う。元より好奇心から後ろで試したことはあるけれど、確かにこれは癖になってしまうと暫くお預けにしていた。下から突き上げられて、奥の方がむずむずすると途端に目の前がはじけ飛んだような衝撃が走る。ひかるさんが蕩けた顔で「もっと」と言う理由が分かった気がした。言葉にならない声を何度も上げて、ひかるさんが俺の中に何度もぶちまけては陶酔した顔で俺を見上げた。その表情が堪らなく…スケベだ。美影、と名前を呼ばれるたびに俺の雄が反応する。

 制御が効かなくなったように俺が腰を動かすと、ひかるさんはもう出ない、と悲鳴を上げた。攻守交代かと思いきや、ひかるさんは攻められる方が好きなようだ。受け攻め固定のカップルが多いけど、気分によって逆転するなんてのもアリかも知れない。今度聞いてみようか、そんなことを考えながら途中で動きを止め、乱れた息を整えるためにひかるさんに被さり唇を吸った。

 俺の中からごぼりと白いのが零れ、ひかるさんの肌に落ちていくのが分かる。ぬちゃぬちゃと湿った音を立てた上と下の口を擦り合わせ、お互いに我慢できなくなって今度は俺がひかるさんの腹の上を目掛けて射精した。

 まるで底なしだなとひかるさんが笑えば、人のことを言えないでしょうと俺が囁く。ひかるさんは恥ずかしそうに目を伏せて、「おまえがそうさせたんだ」と言った。ほんとうに可愛い人だ。


 一度ドロドロになった身体を綺麗にするために、ひかるさんが風呂に入ろうと声を掛けてくれた。ひかるさんちのお風呂は広めのジャグジーで、2人で入っても余裕の広さがあった。湯は張らずに浴槽の中でお互いの身体を洗いながら、シャワーに溶け込むひかるさんと俺の白い分身を排水溝に見送った。一度だけとは言え、やはり尻の中に違和感があって何度も洗い流す。

 よくもまぁこんなに出るものだと関心していると、相当草臥くたびれたのかひかるさんが俺の身体を支えにするように指先を這わしてくる。風呂場の薄暗い灯りに照らされたひかるさんの身体は、何でこうもと思うくらいに色っぽい。

 胸元にあるやや褐色になった突起に吸い付くと、カスカスに枯れた声で気持ちよさそうに喘ぐもんだからこっちまでその気になってしまう。裸同士で抱き合って、ひかるさんの少し厚ぼったい胸元を揉んでは腰を擦りつけた。アレにまた力が漲ってしまう。ひかるさんの身体を壊したくないのに。

「美影…、もう、無理だ…」

「っ、天性の煽り使いですね…!」

 起き上がる雄を優しく掴んで、上下に擦ればまた先端から白い泡が溢れてくる。先っぽを口に含んで鈴口を舌でほじくり返されるのがこの人はいたく気に入っているらしく、どれだけ疲れていてもすぐにまた勃ち上がってしまう。風呂場でも何度かひかるさんが昇り詰めると、のぼせてくったりする前にひかるさんの身体を拭いて浴室を後にした。折角綺麗にした身体がまた汗をかいてしまうから、何度もシャワーを浴びせてやらないといけないのが少し大変だった。

 浴室から出てひかるさんは冷蔵庫の中から野菜ジュースを、俺はチューハイを煽ってかなり遅い夕飯を食べた。メニューはひかるさん作り置きのリゾットとラザニアだ。冷凍してあったものをレンジで温めるだけで、ホカホカのご馳走になる。昼からロクに食べてないというひかるさんは、普段の彼には珍しくよく食べていた。

 さっきまでトロトロの顔で喘いでいた彼とは思えないくらいに。

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