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第16話 いい子が仮面を外した時

01

両親がいなくなって間もない頃。

悠治自身はまだ真相を飲み込んでないのに、雪枝にしつこく問い詰められた。

「お母さんとお父さんはどこ?いつ帰ってくるの?お兄ちゃん!何か言ってよ!」

「どうして何も言わないの?雪枝はちゃんといい子してるの!どうして何も教えてくれないの?」

もともとストレスが溜まっていて、心身ともに限界を超えた悠治は高熱が出して倒れた。

幸い、黒河は駆け付けて、悠治を病院に運んだ。

そして、雪枝に両親のことを適当に誤魔化した。

「だから、お父さんとお母さんはもう帰らないの。お兄ちゃんは雪枝ちゃんを守るために、すっごく頑張ってるの。これ以上お父さんとお母さんのことを聞くと、お兄ちゃんはまた辛くなるのよ。雪枝ちゃんはいい子だから、お兄ちゃんと一緒に頑張ってくれる?」

子供だったけど、雪枝は物分かりが早くて、泣きながら黒河に承諾した。

「分かった!もう聞かない!絶対聞かないから!」

「お兄ちゃん、早く元気になって!」


02

「雪枝」が入った時、すでにどこか妙な雰囲気を感じた。

両親のことが聞かれたら、悠治は確信を持った。

目の前の人は雪枝ではなく、穂香だった。

そして、穂香の目的は、おそらく……


「退院を祝ってきてくれたのですね。とてもおもしろいいたずらです。ありがとう」

悠治はその話を触れないようにした。

だが、穂香は一歩前に出た。

「悠治さんはもうわかったでしょ?私が悠治さんを接近する目的を」

「俺はあくまでライター、仕事の相談なら、大介に……」

「とぼけないでください!」

穂香は焦って声を上げた。

「知らないというのなら、私が思い出させてあげます!」


「25年前に、私と似たような顔を持っていて、お金好きな女がいた。意気投合な彼氏がいたのに、お金欲しさに、子連れの資産家の二代目と結婚した。でも結婚後、彼氏との関係も密かに続けていて、やがて、彼氏の子供を身ごもっていた」

「彼氏は女の離婚を要求したけど、女に断られた。諦めない男は、女の夫にすべてを告げようとしたら、女に脅かされた。『私のお腹にいるのは双子よ。女の子が生まれたら一人をやるから、黙って消えてちょうだい。でないと、あんたが私を犯したことを訴える』と」

「しかたがなく、その彼氏は生まれた双子の中の一人を連れて、女の傍から消えた。買収された病院のスタッフは、一人が死産だと女の夫に伝えた」

「あれから十数年、その捨てられた彼氏と女の子は田舎で貧しい生活を送っていた。それでも、女の子は幸せだった。お父さんはとてもやさしくて、自分のことを大切にしてくれていたから。でも、夜中になると、お父さんはいつも一人でお酒を飲んで、泣いていた。『どうして俺じゃだめなのか?どうして穂香まで捨てられたのか?』」

「捨てられた男は健康が崩れて早死した。彼の葬式で、女の子は祖母から初めて自分と父の過去を聞いた。父と自分を捨てた女が憎かった。父を早死にさせたのは間違いなくあの女だから!」

「あの女に会いたかった。父はあなたのせいで死んだと言いつけたかった!父と自分が捨てられた理由をあの女の口から聞きたかった……必死にあの女を探していた……なのに、会う前に、あの女はもう死んだ。しかも謎だらけな事件で、警察の調査も中途半端で終わった」

「今となって、張本人から何も聞けなくなるあの女の子は、ただ、実の母の死因を知りたい……」


「双子の妹が就職する会社に応募してみたけど、専攻分野が合わなくて書類で落ちた。次の手を考えたら、あの女には義理の息子がいることに気付いた。あの女が死んだとき、その息子はもう中学生らしい、きっと本当のことを知っていると思った。すぐその息子さんが働いているスタジオに応募した。運がよく採用されて、その息子さんと仲良しになった」

「試してあの事件のニュースをその息子さんに見せたら、案の定、彼の顔色が変わった。その場から逃げ去った……」

穂香は声を震えながら、自分の過去を語っていた。

いつも朗らかで暖かいお笑顔が歪んで、悲しくて寂しいものになった。

「ねえ、教えてよ、母の義理の息子さん、私の母は、どうして死んだの?」


03

「……」

悠治は黙って穂香の話を聞き終わった。

両親がいなくなった後、彼は父の書斎からいくつか資料を見つけた。

父と雪枝のDNA鑑定と、母の過去の交友関係の調査資料。

そして、母の賄賂をもらった病院のスタッフからの謝罪状。

そこで、雪枝には双子の姉がいることを知った。

穂香が現れたとき、きっと似たような別人だと自分を騙していたが、

シナリオ作成する際に、穂香はさりげなく内容を両親絡みの方向に導いた。

ついに、図書館で両親の事故のニュースを見せられた。

「……あれは、単純な事故だった」

悠治は静かに瞼を閉じた。

「隠しても無駄です!私はもう知ったの!あれは単純な事故じゃない!母の死はおかしい!」

「それは、小日向さんはお母さんを憎んでいるから、思い込みで……」

「悠治さんだって同じでしょ!両親にとんでもない恨みを持っていますね!あれは尋常じゃないよ!」

穂香に痛いところを突かれて、悠治は少し後ろめいた。

「恨みは恨みだけど、あの二人はもういなくなったから、過去のことを追い詰めても意味がないよ……小日向さんは雪枝の姉だったら、俺の妹にもなります。二人を守る義務があります」

「なら教えてよお兄さん!お母さんはどうして死んだの!?あなたのお父さんに殺されたんじゃないの!?」

「!!」

ようやくあの質問を穂香の口から聞いた。

雪枝がそれを聞いてい来る悪夢を何度も見たけど、そっくり顔の別人から聞いたのは別の意味で悪夢が現実になったような気がした。

「どうしても教えてくれないなら、私は雪枝さんに教えます」

穂香さんは思いきり携帯を出した。

「!!」

「私たちには、両親の本当の死因を知る権力があります!……っ!」

番号をかける前に、悠治は穂香の手をから携帯を叩き落とした。

「……」

悠治は目線を伏せて、表情を前髪に隠したまま、低い声で呟いた。

「小日向さんも、雪枝も、何も知る必要はない。俺はすべてを持って、両親のところに行くから」

「!!」

穂香はまだ反応していないうちに、悠治は部屋から飛び出した。



04

記者の話を聞き終わって、大介は複雑な気分で家に帰った。

記者はおおざっぱなおじさんの外見と違って、わりと控えめに事情を説明してたけど、やはり自分の推測と一致してる。

悠治は、大変だ……と嘆く以外に、何も思い浮かばなかった。


スタジオに入って携帯を確認したら、何通かのリマインドメッセージが表示されている。

悠治が小説を発表したあの女性向けサイトからのメール知らせだ。

「フォローしている小説が完結しました!」のが最新のもので、早い時間に「フォローしている小説が更新されました!」のが何通か届いた。

「!!」

あの小説の更新が再開されたのか!

大介は思わずぞっとした。

あいつ、まさか静養する間に、名誉棄損の続きを……

慌ててパソコンを開いて、小説の更新を確認した。

確かに、完結と表示されている。

前回読んでいたところまで遡って、続きを読んでみたら……

「!!」

「あのあらすじと、違う……?」

驚いたことに、続きの内容は、悠治の家で見つけてた「悪徳ホストが純情少女を騙す」ものと全く違う展開になった。

少女がホストに夢中する理由は、父に見捨てられ、継母にいじめられたからだ。心の寂しさを埋めるために散財したら、やさしい「大介」に出合った。「大介」はその継母に雇われ、少女を堕落の道に導くためのホストだけど、少女の純粋さに惚れて、本気に少女ことが好きになった。

最後に、「大介」の助けで少女は継母を追放し、父を引退まで追い詰めて、家の主導権を奪い返した。

腐るほどあるつまらない恋愛小説の定番だけど、宣伝に莫大な金額をかけてユーザー層に届いたおかげで、非常に高く評価されている。微かなつまらないと訴える声も熱狂的なファンたちのコメントによってつぶされた。


最終話に、作者のあとがきが掲載されている。

「!!」

その内容を見たら、大介は目から鱗が落ちた。


「この作品のヒーローの名前は、無断である友達から借りたものだ。

こんなことをしたのは、いたずらでも冗談でもない

本気であいつに痛みを付けたいからやったんだ。」

「その人はとんでもないお人よし。

相手に弱いところを見せられたら、押し付けられた理不尽をどこまでも耐えるような人間、

本当は反撃する手があるのに、本気で相手を敵視できない、追い詰めきれない甘い人間、

たとえ妊娠偽装の詐欺師に付きまとわされても、万が一本物の妊婦さんだったらなんかバカなことを考えたりして、突き飛ばすこともできない、人間の悪の本性も悟らないバカやさしい人間だ。」

「それに、とんでもない正直ものの仕事バカだ。

斬新な発想を持っているのに、社会に有益とか、善良な世界観とか、正しい「出し方」とかこだわりすぎる。プライドを捨てて、流行ってるもののパクリでもで作って媚びを売れれば、もっと気楽に売り出せるのに。

それに、こんな声がデカいほうが勝ちの時代に、地道に実力で実績を積み上げようとしてる。

俺が適当に書いたこのクソ小説を見れば分かるだろ、どんな凡作や俗物でも、お金で盛大なプロモーションをかけれて、これは良いものだ!と受け手を洗脳すれば成功例になる。」

「許してほしいなんて言わない。こうでもしないと、あのバカは目を覚めない。」

「二度と俺みたいな歪んだ人間に騙されないように、捕まれないように気を付けろよ。」


えええどういうこと?!

「俺」って、作者は女子じゃなかったの!?

なんだこのあとがき、ひどくない!?

痛いわこれ……

小説はいいけどね、作者の性格に問題があるみたいね

――――

コメント欄で、信じられないとファンたちが叫んでいる。


いや、でも、痛みを付けると言っても、実際に持ち上げてるのね?大介っていいキャラでしょ?

だよね、こんないいキャラになると知ってたら、あたしも名前を作者に貸したいくらいわ

そのつんつんな言い方、ちょっと萌えるかも

本物の友情の匂いがするぅぅ

――――

勝手に作者の心境を解読し始める人もいる。


「……」

誰よりもわけがわからないのは大介だ。

(あいつ、一体何がしたいんだ……

いきなり小説を完結させて、投げっぱなしみたいなあとがきを残して……)

「二度と、捕まれないように……っ!まさか!!」

不吉な予感が頭を走った瞬間、大介の電話が鳴った。


電話から穂香の悲鳴にも似たような声が届いた。

「た、反町さんっ!悠治さんが……!!」

「!!」

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