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第13話 引きこもりの原点

01

クリスマスが嫌い、新年が嫌い……家族団楽な日はみんな嫌い…

が、家族団楽と関係のないバレンタインデーがなにより大嫌い。

14年前のあの日、クズみたいな両親は自分と妹を家庭教師に押し付けて、二人の世界を過ごしに行った。

そのまま帰らなくてよかったのに、二人は、最悪の中の最悪な形で戻ってきた……


02

再び目が覚めたら、悠治は病院のベッドにいた。その手に、点滴の針が刺しこんでいる。

「お兄ちゃん!また無理をして!」

彼の目覚めを迎えるのは妹の雪枝の暖かい抱擁。

そして、雪枝の後ろにいる大介の何とも言えない眼差し。

「医者さん呼んでくる」

大介が一歩離れたら、彼の後ろに立っている人が見えた。

雪枝とそっくりの顔を持つ穂香だった。

「よかったですね!雪枝さん!」

「ええ、ありがとう!穂香さん!」

「いいえ、私は何もしていないわ。ちょうど大介さんが悠治さんを運んだところを見て、付いてきただけです」

同じ顔を持つ二人の少女が初対面で、お互いに不思議を思っていても、すぐ相手から親しい感情を覚えた。

悠治はちょっと複雑な気持ちで二人を見守っていた。


「あら、雪枝、何時分身術を習得したの?」

突然に、大人の女性声が部屋に入った。

「黒河さん…分身じゃないの。こちらは小日向さんです」

「ごめんね、最近オカルト絡みの事件が多くて、ついに――」

その女性が穂香に軽い挨拶をしてから、悠治のベッドの前まで来た。

長い黒髪にスーツ姿の凛とした女性は、お見舞いプレゼントっぽい白犬のぬいぐるみを抱えて、捨てられた子犬を憐れむような目で悠治を見下ろした。

「黒河さん、なんで……」

悠治は体を起こそうとしたが、黒河と言う女性は犬のぬいぐるみを悠治の顔にぶつけた。

「!!」

「お前がダメだからでしょ?体から精神まで引きこもりになって、妹に心配させるばかり」

「……」

「ゆ、悠治さん!」

こんなやり取りを初めて見た穂香は驚きの声を上げた。

「悠治はどうした?」

廊下でその声を聞いた大介は足を速めた。

「だ、大丈夫です、いつものことですから……」

雪枝は大介たちを落ち着かせて、医者さんと看護婦さんを部屋に案内した。


「小さい頃から大変お世話になっていた黒河さんです。警視庁捜査一課の警部さんです。」

医者が悠治の検査をする間に、雪枝は大介と穂香に女性のことを紹介した。

「黒河です。よろしくね」

「捜査一課の、警部さん……っ!」

大介は驚きのあまりに舌を噛んだ。

「どうしたの、青少年?」

大介の大げさな反応を見て、黒河の目がきりっと光った。

「い、いいえ。ドラマや漫画でしか見たことのない職業なので……」

悠子が言っていた――

悠治に何かあったら、大介の「罪の証」を警察に提出する件、もしかしたら、この人と関係があるかも……

大介の脳内整理はまだ終わっていないのに、黒河のほうから攻めてきた。

「雪枝から聞いたわ。悠治を雇用するなんて、普通に考えられないと思う。ひょっとして、訳アリ?」

「!」

(さすが警部さん!その訳アリだ……)

「そ、それは、ただ、悠治くんの才能に惹かれて……別に、深い理由とか……」

何かを見破るオーラを発している黒河に迫られて、大介が思わず後退ろうとした。

「ほう、深い理由、ね――」

「もう、黒河さん……」

雰囲気がまずくなったら、雪枝が中に入った。

「大介さんはいい人です。もともと、お兄ちゃんがいけないことをしたから……」

「いけないことって?」

「後で話します」


医者さんの検査はそんなに時間がかからなかった。

大介たちに注意事項とかを伝えて、医者さんと看護婦さんは部屋から退出した。

大したことがないと知って、大介たちも一安心。

「相変わらずダメな子だけど、雪枝以外にもお見舞いの人がきているのはでかい進歩だ」

黒河はベッドの隣に座って、思いきり悠治の頭をいじった。

その遠慮のないしぐさと口調に、大介はデジャブがあった。

「しかしね、妹とそっくりな子を彼女に選んだとは、お前のシスコンも変態級に入ったのね」

「!ち……っ」

「違います!」

悠治が口を開く前に、穂香のほうは先に否定した。

「私じゃないです!」

黒河は意外そうに振り向いた。

「そうか?勘違いしたの?」

「そ、そうです!誤解しないでください。みんなも困りますから……」

「その言い方だと、ほかに誰かがいるみたいね」

黒河に聞き返されたら、穂香は視線を大介のほうに投げた。

警察の直感と女の勘、両方も優れている黒河は秒で悟った。

「なるほど、そっちだよね。通りにこんなダメな子を雇ってくれたわね。まあ、驚くことはないわ。今の時代じゃ普通のことだし。で、結婚はどこの国?ドイツ?カナダ?」

「それもまたとんでもない勘違いだけど……」

大介の弱い否定は、全く黒河の耳に入らなかった。


03

悠治は数日入院することになった。

黒河の誘いで、お見舞いが終わった大介たちは四人で食事に行った。

その間、雪枝は悠治の勘違い小説のことを黒河に説明をした。

短い時間だけど、雪枝と穂香はすっかり仲良くなった。二人が共通話題で盛り上がっていて、食事の後にカラオケしに行った。

大介はそのまま仕事に戻ろうとしたら、黒河に引き留められた。

「悠治のことなんだけど――」

「さっきも言ったけど、オレじゃないんだ……」

よろしく頼む!の匂いを嗅いだ大介は、さっそく否定をした。

「知ってるよ」

意外にも、黒河はその線に行かなかった。

「!」

「女だろうと男だろうと、あの子、人と恋愛するはずがないもん」

「……どうして?」

大介は思わず聞き返した。

「あら、悠治のことに興味があるの?」

「……それは…訳アリだ」

あまり認めたくないけど、悠治に好奇心があるのは確かだ。

「名誉棄損されても悠治を訴えない、それどころか、彼を雇って世話までしている――」

美しい黒河警部は鋭い分析力と女の勘ですぐ理由を見つけた。

「もしかしたら、女の悠治に脅かされたの?」

「?!!」

「その様子だと、図星だね」

「……」

黒河に事情を悟られた以上、もう隠す必要がなくなる。

大介は開き直った。

「その通りだ。黒河さんは、悠子……あいつの女の人格を知っているのか?」

「もちろんだよ。私が生み出したと言っていい人格だもの」

「?!!」

その一言で大介はピンッと来た。

なるほど!黒河の口調としぐさは誰かに似たような感じがしたら、

悠子か!

「でも、どうして……?」

にっこりと笑顔を見せた黒河の誘いで、二人は近くのカフェで二次会をした。


「あなたの質問に答える前に、一つ聞きたい。悠治の両親のこと、どのくらい知ってるの?」

「交通事故でいなくなり、その日は、14年前のバレンタインデー、あっていますか?」

「基本的に間違いないわ。そのほかは?」

「悠治くは、両親にひどい恨みを持っているらしい。その恨みの理由は分からないが、雪枝さんに知られたくないみたい」

「へぇ、恨みを見せてもらったのか」

黒河は興味深そうに眉を吊り上げた。

「見せてもらったというより、勝手な推測です……やはり、両親を恨むようなことがあったのですか?」

「あったわよ」

黒河は嘆きながら、五本の砂糖を一斉にコーヒーに入れた。

「……」

「『あの件』を知った夜、彼は自分を警察署のトイレに閉じ込めていたの」

(引きこもりの原点は警察署のトイレか、なかなかやるじゃないか……って、感心する場合じゃない‼不謹慎だ!)

大介は急いで飛ばしすぎる脳電波を回収した。


04

14歳の悠治は自分を警察署のトイレに閉じ込めた。

大人たちからどんなに話をかけられても出てこなかった。

我慢の限界に、両親の「事件」の調査を担当する黒河は男子トイレに突入し、一蹴でトイレの鍵をぶっ壊した。

「いつまで引っ込んでるつもり?クソ親でもクズ男でもビッチ女でも、言いたいことがあったら大声であの二人に言え!」

「……」

便座の上で膝を抱え込む悠治はおどおど頭をあげて、驚愕と恐怖に震えた。

でも、すぐにまた引きこもった。

「……いまさら何を言う……どうせ、僕たちはどうでもいいものだ。ほっとけ……そのうち、どこかに消えるから……」

「『僕たち』とはなんだ?妹まで道ずれにするつもり!お前が立ち上がらなかったら、彼女はどうするんだ!」

黒河は強引的に悠治の顔を持ち上げて、彼の目を自分の目に合わせた。


この人は自分を励もうとしている。

もう子供じゃないし、そのくらいのことが悠治には分かる。

けど、ずっと愛している両親、自分と妹を愛していると思われる両親の本当の姿は、あまりにも受け入れがたいものだ……

黒河に向かって、悠治は一夜に溜まっていた感情を爆発させて、真っ赤な目で訴え返した。

「そう簡単に立ち上がるものか!僕は普通の人間だ……あんたみたいなバカ強い女じゃないんだ!」

それでも、黒河は退かなかった。更に強い力で悠治の胸倉を掴んで、言い放った。

「じゃあ、あたしみたいなバカ強いやつになればいいだろ!このだめガキ!」



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