01
「へぇ~本当にあたしとそっくりですね」
大介が雪枝の写真を見せたら、小日向穂香という応募者も驚いた。
「こちらの雪枝さんのお兄さん、悠治くんはうちのシナリオライターです。悠治くんは、雪枝さんの結婚相手に気に入らないせいで、かなり落ち込んでいて、仕事が全然進まないです」
大介は適当に話をいじって、事情を穂香に伝えた。
「あらら、大変ですね。でも、分からないことでもないですわ。お父さんやお兄さんによくある気持ちですね。実は、私も恋人のことで家族と揉めたことがあります」
穂香はふんわりと笑った。
雰囲気からすると、彼女は明るくて、優しい性格の子だと大介が判断した。
「ああ、だから、予め説明しておきたいと思います。最近、オレはいろいろ試していて、悠治くんを励んでます。そのうち立ち直ると思いますが、その前に、ご迷惑をかけるかもしれません。ご理解をいただけると助かります」
「反町さんはいい人ですね。落ち込んでいる仕事仲間を切るのではなく、励むのですね」
穂香は優しく微笑んだ。
大介が彼女を「回復のカギ」として使おうとすることに全く気付いていないようだ。
「これも何かのご縁だと思います。厚かましいですが、小日向さんも適当に悠治くんを励んいただけますか?雪枝さんとそっくりの小日向さんの励みがあれば、彼はもっと早く立ち直るでしょう」
「ええ、もちろんですよ。仕事仲間ですもの」
穂香は快諾した。
こんないい子を利用することからの罪悪感が半端じゃないが、大介にはほかの方法がない。
それに、雪枝にそっくりの穂香に巡り合うことは、きっと神様が不運の彼に授かった助け船だと、大介は何処かで信じている。
02
「雪枝!?」
スタジオに入った穂香の姿を見たら、悠治は慌てて床から起きた。
「紹介します。今日から、チームに参加する小日向穂香さんです」
「!!」
「雪枝、じゃない…?」
悠治は数秒間戸惑ったけど、すぐに大介の企みに気づいた。
「よくもここまで……!」
悠治はこっそりと大介を睨んだ。
「なんのことですか?」
大介はわざとらしく目を逸らしたり。
「小日向さんは優秀なシナリオライターです。悠治くんは『先輩』だから、迷惑をかけなように気を付けてくれよ」
「……」
大介は穂香をスタジオを案内したら、悠治は頭を壁の片隅い突っ込んで、ぼそぼそ独り言を始めた。
「ふざけるな、雪枝はこの世に一人しかいない!顔が同じでも……」
「あの、有川さん?大丈夫ですか?」
彼の行動パターンに何も知らない穂香は思わず声をかけた。
「大丈夫なわけが……」
悠治はまだ文句を続こうとしたが、穂香の顔を見たとたんに、反射的に立ち直った。
「はい!大丈夫です!」
「それはよかったです。あたし、この仕事について分からないことが多いから、有川さんにいろいろ聞きたいと思います」
「何でも聞いてください!それに、悠治でいい!」
「プッ」
悠治の変化の速さに、大介は我慢できず、笑い声を漏らした。
穂香を送ってくれた神様に感謝しなくちゃ。
これで、悠治をコントロールする手も一つ増えた。
あの陰気シスコンが真面目になれば、どんなものを仕上げてくるのか、
ちょっと期待する気持ちはなくもない。
03
シナリオライターだから在宅でもいいのに、もともと仕事熱心か、悠治を励むためか、穂香は頻繁的にスタジオに足を運んだ。
「今日は、この二つの企画のシナリオ構成をお願いしたい、悠治くんと分担してやってください」
「はい、分かりました」
大介から仕事を受領した穂香はさっそく悠治に話しかけた。
「あの、悠治さん、企画のシナリオ構成、一本をお願いできますか?」
「そんなダメ企画……いいえ、なんでもない、任せてください!」
進捗を見て、大介はどんどん仕事を振り分けた。
「こちらのキャラの背景資料とキャラ付けをお願いしたい。分からないことがあれば、悠治くんに聞いてくれないか?」
「はい、やります」
「悠治さん、キャラ資料の作り方を教えていただけますか?」
「俺もよく分からない……調べますから、ちょっと待ってて!」
なにより、穂香は大介の指示通りに動いてくれて、見事に悠治のエンジンになった。
いままでサボりまくりの悠治は、穂香の指導をするために、やむを得ず、徹夜に仕事の勉強をした。
別の意味で、大介のスタジオから離れなくなった。
「もういいだろ。これは三日目だ。家に帰って休んでいいよ」
今夜も徹夜で資料と奮闘する気の悠治に、大介はコーヒーを運んだ。
「お前のいいなりになりたくない……」
目の下にデカいクマができている悠治は反射的にコーヒーに手を伸ばし、一口飲んだ。
「にがっ!」
その濃烈な味に顔を締めた。
「エクスプレス3倍濃縮、徹夜に効果的」
「言ってることとやってることが違うだろ!!」
「そちらこそ、オレの言いなりになりたくないと言ったくせに、オレが運んできたコーヒーを飲んだんじゃないか」
「コーヒーに罪はない!それに、小日向さんのために、俺は一刻も早くこのクソ仕事をマスタしなければならないんだ」
「やらない選択肢はないのか?本当の妹じゃないし」
「できるもんか?!あの雪枝そっくりな顔に向かって……」
悠治は涙涙に歯を食いしばった。
「そもそも、お前が彼女を利用しなければ……」
「彼女を利用するのは認めるけど、オレの言いなりになりたくないなら、彼女に構わなくていいだろ?」
「できるもんか?!あの雪枝そっくりな顔に向かって……」
「……」
だめだ、このまま無駄な循環に入る。
大介はさっそく会話を諦めた。
まあ、死なないなら、放っといてもいいような気がする。
少なくとも、今の悠治はあのエロ小説を書く余力がない。
しかし、妹に似ている子のために、嫌な仕事をここまで努力できるとは……
今まで軽蔑な目でみていたこのシスコンに、大介は初めて微かな感心を覚えた。
穂香の叩きでだんだん活気化する悠治を目にして、大介は疑問と好奇心が湧いてきた。
そのくらい努力できるなら、普通に仕事ができるはずだ。
穂香の対応もまあまあできてるし、頑張ればコミュ力も問題ではないようだ。
なぜ引きこもりの二重人格陰気シスコンになったのか……
雪枝に聞けば分かるかもしれないと思って、携帯を出した。
「……」
でも、少し考えたら、やはりやめとこうと決めた。
これ以上関わったら、本当に沼から抜けなくなるような予感がしたからだ。
04
数日後、悠治と穂香の努力で、新しいシナリオが6本も上げられた。
そのクォリティは今までのない素晴らしいもの。
構成や文章力がしっかりしていて、企画の意図や売れポイントをうまく表現しているだけではなく、一見飛び切りな設定とトリックにも合理的な解釈がつけられて、企画原案にあるいくつのバグも修正された。
大介は感服した。
「いろんな意味」で感服した。
穂香にいろいろ確認してから、アシスタントたちを呼び出して、試読み会を開けた。
穂香は同席したが、悠治は連日の徹夜で、ほかの部屋で芋虫になっている。
「すばらしいです!おもしろい!」
「イメージが鮮明になって、これでもっといい道具が作れる!」
「ぞくぞくしたぜ!小日向さんは天才だな!」
案の定、アシスタントの三人は、まず褒め声を上げた。
「ありがとうございます」
穂香は照れそうに笑った。
「実は、あたしは基本的なものを書いただけで、ほぼ悠治さんの訂正と加筆です」
「謙遜しなくていい!」
「いえいえ、本当のことです。他人の功労を自分のものにしてはいけません」
「確かに、小日向さんは一部しか担当していない」
大介は顔を引き締めて、話を検討したいところへ誘導した。
「この前にも二人でいろいろ確認した。今日の試し読み会で、よいところだけじゃなく、違和感のあるところについてもみんなの意見を聞きたい。内容にツッコミところがあれば、遠慮なく言っていい」
「……」
「……」
「……」
大介の真面目な態度に微妙の何かを感じて、三人のアシスタントはお互いの顔を見た。
「どうぞ、何でも言ってください!これからの仕事の改善になるから!」
穂香は三人の背中を押した。
「引いてい言えば、キャラ設定?だな……あと、全部バッドエンディング、だよね」
小春は不確かな口調で言った。
「ストーリーやトリックはどれもおもしろいけど、オチというか、黒幕というか、なんだかみんな同じような気がします」
彩夏も正直に言った。
「黒幕や悲劇の原因は、全部、キャラの親にある。そこはワンパターン過ぎるだと思う」
辰はそのズバリを言った。
「やっぱり、みんなもそう思ったか。オレの気のせいじゃないようだな」
三人の率直な感想を聞いたら、大介は嘆いた。
これは、クォリティ以外に、彼が感服したもう一つのことだ。
6本のシナリオから、作者が親へのとんでもない恨みを感じ取る。
1本目、プレイヤーが演じる主人公の親と主人公の友達の親が不倫をし、二つの家庭がどろどろの状態に落ちた。
2本目、悪役の親が未婚で生んだ悪役を虐待し、悪役を無差別殺人者にした。
3本目、主人公たちの親は犯罪を隠すために、子供まで殺そうとした。
4本目、脇役の親がみんなを裏切った変態ボス。
5本目、子供を意のままに操ろうとする学校の親会が全員悪役。
6本目、参加者全員がそれぞれの親に売られ、デスサーカス団で死のゲームを参加する羽目になった。
普通に考えれば、親に強い恨みのある人間が書いたものだろう。
大介が慎重に穂香に確認したら、1本以外に、全部悠治が仕上げたものだと分かった。
悠治がああになった原因は、まさか、彼と雪枝の親にあるのか……