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第5話 第二人格の依頼

01

「どういう……」

大介に質問の間を与えず、金髪の女性は部屋の中に突入した。

「失礼~」

「ちょっ...お前、誰だ?何しに来たんだ!?」

「昨日の夜、あなたに身も心もごちゃごちゃにされた悠治の保護者ですよ」

「はぁ!?」

(保護者?というと、あいつが扮したのではなく、違う人間なのか?)

(っ、違う、そんなことより――)

「誤解されそうな言い方をやめろ!オレはあのシスコンに何もしなかった。保護者って、姉か?親戚か?名前は?小説の件のために来たのか?」

質問連発の大介に対して、美女は余裕そうに唇に指をあてて、ちょっと考えてから答えた。

「そうですね、この姿で誰かに自己紹介したことはまだないわ……じゃあ、ペンネームの悠子でいいわ」

「ペンネームの悠子……まさか、あの小説を書いたのはお前か!?」

「いいえ、悠治が書いたの。クズ男に復讐するとはいえ、三流エロロマンスを書くなんて、私に相応しくないもの」

「じゃあ、彼はお前のペンネームを借りたのか?」

「いいえ、悠子は悠治のペンネームです」

「二人が同じペンネーム?」

「理解力がどうかしてるわ、出直しに来なさい」

「”#$%&’()=IU'&%$#"#$%&'()000」

(お前の説明こそどうかしてるじゃないか!!)

がっかりそうにため息をついた「悠子」、完全に混乱に落ちた大介。


それ以上大介に構わず、悠子はスタジオを回し始めた。

作業台に置いてある建物の模型や企画書を見て、納得したように頷いた。

「なるほど、密室脱出ゲームとか作ってますね。引きこもりで引きこもりみたいなエンターテインメントを考えているから、おかしくなったのもおかしくないですね」

「それはあのシスコンのことだろ!」

「あら、シスコンで悪いですね」

悠子は冷笑した。

「でも、ここにいる人間性も分からない男よりずっとましだと思いますわ」

「人間性も分からない男ってなんだ!?」

悠子はパソコンで大介の作業資料をめぐりながら、毒舌を連発した。

「人の心を動かせる盛り上がりがないのに轟音や叫びだけで雰囲気を作る、現実性のない残酷シーンで人を脅かす、生理的に気持ち悪い道具を置きっぱなし、それでホラーのつもり?むしろギャグですわ。アイデアだけは褒めてやるけど、所詮、人間性の分からない素人が作りがちなダメ作です」

「!?」

(あれは、制作会社が流行要素云々って無理やりに追加させられたものだ!)

大介が反論する前に、悠子のほうはもう削除を押した。

「よし、削除っと」

「!!!」

反論もアレルギーのことも忘れて、大介は一歩駆け出して、悠子の手首を掴んだ。

「お前、なんてことを……!!」

悠子は鋭い目で大介を見返した。

「まだ分かってないの?頭が悪いみたいね。あなたが私にしたことをやり返しに来たのに決まってるじゃない」

「お前に何もしていないだろ!」

「私の家に不法侵入、私の許可なしでパソコンやメモをいじった、私の顔を通帳で叩いた、私の髪とドレスを汚い足で踏みにじんだ、何より、私の妹と電話番号を交換したこと!――どれも万死に至る罪です!」

「何バカなことを、あれは全部あのシスコン……っ!!」

不思議にも、大介はある可能性に気づいた。

「お前、まさか……」

近くで見たら、やっぱり――

メイクしているけど、悠子は悠治と全く同じ顔を持っているようだ。

特に、右目下のほくろが全く同じ位置にある。

「もうわかったでしょ?悠治の顔は私の顔、悠治の家は私の家、悠治の妹は私の妹ですよ!」

そして、悠子のいろんな妙な言い方から導いた結論は……

「お前は、二重、人格……!?」


02

聞いたことがある。

本人の人格がストレスに耐えられなく、第二の人格は保護者として生まれる話……

これもまた、とんでもない面倒なことになりそう。


でも、相手は二重人格だろうと三重人格だろうと、そもそも、基本な事実が捻じ曲げられた。

「いい加減にしろ!オレはお前の家に行ったのは、お前があのデタラメの小説を書いたから!」

「書いたのは私じゃない、悠治です。この件に関して、私は完全に被害者ですわ」

「何が完全に被害者だ……」

話が通じない相手だと分かって、大介は平和交渉を諦めた。

「とにかく、警察を……」

スマホで近所の交番に電話をかけようとしたら、いきなり、悠子の足が飛んできて、携帯が蹴り飛ばされた。

そして、悠子に後ろから両手を掴まれて、顔が下向きで机に押し倒された。

「言ったでしょ。私は悠治の保護者、警察を呼ぶくらいで、私をどうにかできると思いますか?」

そう言いながら、悠子は体勢を下げて、大介の手を自分の顔と首に押しつけた。

「!!」

それから大介を解放し、自分のスマホを出した。

「さあ、警察を呼びましょう。私今、理不尽なセクハラをされました」

「ひ、卑怯なっ!」

今度は大介が電話を阻止するために、悠子に飛びかかった。

でも悠子はワルツを踊るように、大介の動きを誘導し、体の接触を利用して、大介の手を自分の体のあちこちに触らせた。

最後に、大介の腰を捕まえて、自分の上に乗せている状態で二人を床に倒らせた。

そして、適時に横からスマホのカメラシャッターを押した。

「証拠写真もゲットですわ」

「一体、何がしたいんだ、この変態……!!!」

大介の体は怒りで震えている。

「写真を渡せ!」

大介は携帯を奪おうと、スマホもろとも悠子の手を掴んだ。

その時――

「お邪魔しま~す!」

玄関から、アシスタントたちの声が届いた。


「大介さん、差し入れを持ってき……」

「!!」

「!?」

「!?」

二人の若い男性と一人の若い女性が、目の前の景色に呆気にとられた。

静寂は数十秒も続いた。


「大介ったら、ドア閉めを忘れないでって何度も言ったでしょ」

悠子は嬌声とともに、色気っぽい微笑みを大介にかけた。

「!!」


「えっと、差し入れが、ちょっと足りないみたいね!」

最初に状況を理解した若い女性はクルッと身を翻した。

「そ、そうだな!私が買いに行こうか!」

「俺もちょっと買い忘れたものがある!」

三人は我が先に部屋から逃げ出した。


「……もう満足だろ……」

諦めたように、大介は身を引いて、ぺたりと床に座った。

「お望み通り、オレのほうもごちゃごちゃだ……」

「まあ、大体やり返したし、遊びはこの辺にしましょう。本題に入りますわ」

悠子は髪とワンピスを整えて、床から起きた。

「まだ何かやるつもり!?」

大介は自分神経がビシッと切った音を聞いた。

「ええ、どちらかというと、こっちがメイン目的ですよ――悠治を雇用してほしいの」

「!?なんの冗談だ……」

大介は自分の耳を疑った。

「冗談じゃないわ。昨日、あなたに置き去られた悠治は人生を諦めました」

「その誤解されそうな言い方をやめろって言っただろ……」

大介の無力な抗議を無視し、悠子はひとため息をついて、真面目そうに続けた。

「十数年の引きこもりで、雪枝を守ることだけが生きがいの彼は、あなたへの復讐に全てをかけていました。なのに、あんな無惨な形で終わらせてしまって、彼にとってどれほどショックのことなのか、あなたにも分かるでしょう」

「分からないんだ……変態シスコンの考えなんて」

「とにかく、彼が生きる意欲を失ったから、私はこうして外に出なければなりません。昨晩から一生懸命生きる理由を探し続けていた結果―――あなたへの恨みというピンポイントが浮かび上がりましたわ」

「なんでオレへの恨みが生きる理由に繋がるんだ!」

(あまりにも理不尽だろ!)

大介の喉は不平で燃やそうになる。

「本来なら、雪枝の幸せを守ることにすべきだったけど、雪枝は今、あの身分詐欺彼氏とラブラブじゃないですか。悠治がそれを思い出すだけで余計につらくなって、死にたくなるの。ですから、しばらく彼の思考の焦点を雪枝から逸らす必要があります」

「だから何故オレなんだ……?」

「事情がおかしくなったのは、あなたが現れてからです。とにかく、私はあなたがすべての元凶という暗示を自分にかけました。この暗示は悠治の潜在意識にも影響します。これで、あなたへの復讐心は、彼の生きる意欲へと繋がるでしょう」

もう聞いていられない、大介は床を叩いで起き上がった。

「逆恨みでもほどがある!あいつは生きる意欲がないなら、それでいいんじゃないか!お前がいるし、その体はもうお前一人のものでいいだろ!」

「そんなのできませんわ」

悠子は目を伏せてに頭を横に振った。

「悠子は、悠治が生きるために必死に生みだした人格。もし、彼は完全に生きる意欲を失ったら、この悠子の人格も長く存在できないでしょう」

「……」

人助けのために、自分が悪役になるということか……

こっちこそ被害者なのに、なんでこんな展開に……

寂しそうな悠子の顔を見て、大介は長いため息をついた。

あれだけ陰気な悠治と突っ走る悠子だけど、生きるために必死に足掻いていることがなんとなくわかった。

考えてみれば、すべてをかけた復讐といっても、悠治ができるのはあの小説による名誉棄損くらい。

なんと、無力で悲しい人だ……

「まあ、一人の引きこもりシスコンに恨まれる程度のことなら……」

「では!私は全力を絞って、悠治を浮かばせます!無理やりにでも彼をあなたの元に引き留めて、あなたへに恨みを強めるのですよ!」

悠子は落ち込む表情を一掃し、ギュッと大介の手を握った。

「それと、万が一失敗した場合、私は死ぬ前にさっきの証拠写真を警察に送ります」

「ちょっ、なぜだ!」

「人間の心が分からいないものですから、手抜きをさせないために、保険をかけないと~では、頑張ってくださいね、大介君!」

悠子はチャーミングな笑顔見せたら、キュッと目を閉じた。

「おい!!待って……!!」

こんな人に同情心をかけることに、大介はひどく後悔した。

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