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武装システム、起動


 未だかつて出したことのなかった全速力で、シェリーは移動基地に戻った。


 鉄の扉に手をついて、一旦息を整えて、中へ駆け込む。

 シェリーを見ると、モモカがてくてく近付いてきた。



「翡翠が探しに行ったです、会わなかったです?」


「モモカ!武装機能を!」


「ロボットです?!」



 頷いて、シェリーは操縦室へ急ぐ。


 移動装置の原動機は、千年を経て冷えきっている。エンジンをかけて、どうにかコンディションが水準値に達すると、車輪の運転スイッチを叩いて、一気に走行速度を上げた。



 ブォオォーーーーン……!



 トラック三台分はある小屋を支えた移動装置が、砂利道を走る。シェリーは操作バーに捕まって、タッチパネルを操作する。現在地とさっきの広場は、目と鼻の先だ。



「飛ばすわ、捕まって!」



 シェリーの白衣の裾を掴んで、モモカが叫ぶ。



「揺れるのですーっ」


「翡翠さんが囲まれた、あの子の武器は?!」


「弾は補充したのですっ」


「さっきのロボット、銃撃じゃ効かない!」



 ガタンガタン、と砂利を跳ねて進む移動基地を操縦しながら、シェリーは前方カメラをモニターに繋ぐ。


 銃を構えて震える翡翠を、ロボット達が包囲していた。



「うそ、やだっ!うそっ!来ないで……来ないで来ないでってば!」



 翡翠とロボット達の距離は、十メートルない。


 モニターを拡大すると、高強度の鉱物から出来たロボット達の数体に、うっすら被弾跡があった。翡翠が付けたものだろう。


 付近に移動基地を停めた時、二足歩行していたロボット達の胴体が、縦に開いた。新たな部品が展開していく。みるみる一角獣に形態を変えた彼らは、翡翠に突進していった。



「モモカ、光エネルギーを大砲に集めて!レーザー射撃する!」


「足りないのですっ!あれだけの数を撃破するには、火薬弾しか……」



 ヴーーーーーー……



 ロボット達は、ざっと二十体近くいる。翡翠との距離が、もう五メートルもない。



「あんなの使ったら、翡翠さんを巻き込む……」


「ドローンでバリアを運ぶのです!」



「翡翠っ!!!」



 シェリーは操縦室を飛び出す。


 レーザーガンを掴んで外に降りると、翡翠に接近していた個体に向けて引き金を引いた。


 熱と酸を調合した光線が、弓の穂先を連想する角に命中して、根本から折った。


 別のロボットが翡翠を襲う。



 ドンッ!ズシュッ!!



 シェリーは、その個体の足を狙って射撃する。


 翡翠は、頭を抱えてしゃがみ込んでいた。



「お母さん……お父さん……怖いよぉ……私を一人にしないで…………もういやだよぉ……助けて──……っ!!」



「……何で、っ……やだやだっ……やだぁ、おかぁ、さ……ぅく……おと、さ……ぐすっ……」



 シェリーは移動基地を振り向く。


 モモカが遅い。エネルギー不足は、ドローンの起動も手こずるほど深刻なのか。…………



 ヴィーーーーーーー……



 不気味なモーター音を立てながら、三体目が翡翠に迫る。



 鋳鉄色の一角獣が砂利を蹴った時──……


 上空から蛍光色のカーテンが降りた。


 電気バリアの運搬が、間に合ったのだ。モモカが遠隔操作しているドローンは、翡翠を今まさに串刺しにしようとしていた個体を締め出して、半径一メートルを飛行した。



「シェリー、戻るのです!」



 移動基地の窓から、モモカが顔を出していた。


 シェリーは来た道を駆け出す。


 ロボット達が、狙いをシェリーに移行していた。



 ヴーーーーーー…… 


 ケタケタケタケタ。



「っ、はぁ、はぁっ……」



 体力がひどく消耗していた。移動基地への僅かな距離が、途方もなく長い。足が麻痺して、思い通りに進めない。



 バキューーーッッ!!



 振り返って光線を放つ。


 先頭のロボットが飛びかかってきた。鈍い銀色の猛獣をかわしながら、引き金を引く。別のロボットが、シェリーの腰まである金髪に噛みつく。振り下ろした肘で頭を打擲し、よろけた隙に、銃口を喉元に当ててレーザーを撃ち込む。



 ケタケタ……と、仰向けになって手脚を動かすロボット。



「シェリー、早く!!」



 移動基地を出てきたモモカが、中にシェリーを引っ張り込んだ。



「有り難う」



 ダンダンダンダンッ!!



 鉄扉から、けたたましい音が立ち始めた。



 ダンダンダンダンッ!!



 過去の戦火も免れてきた移動基地が、振動する。ロボット達の咆哮に追われながら、シェリー達は操縦室へ走った。



「シェリー、モニターは?!」


「扉に体当たりしてる……バリアで締め出し損ねたら、突き破られるわ」


「もうひとっ走り逃げるのです!」



 ヴゥゥーーーーン…… 



 移動基地を滑走させて、ロボット達との距離をとる。そして、翡翠を保護したのと同じ電気バリアを展開した。



「全個体、隔絶完了。モモカ、火薬弾の装填を!」



 機械音の咆哮を上げる一角獣の群れを見ながら、ふと、シェリーは冷静になる。


 何のために、自分は必死になっているのか。よく知らない少女一人を助けたところで、世界の何も変わらないのに。



「大砲発射、いつでもオーケーなのです!」



 モモカの声が、シェリーの気を引き締めた。


 小窓に移って、シェリーは、まるでこの惨状を見越して備えてでもいたような大砲の銃口を鋳鉄色の塊に向けて、引き金を引く。



 ドォォォォオオオオーーーン!!



 耳をつんざくような轟音が止むと、獰猛な一角獣達が、見る影もなくした。木々から鳥達が飛び立つ。


 長い動乱を物語る、いつのものかも見当つかない廃棄物にまぎれて残ったのは、ガラクタだ。

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