「あずさ。中華料理ゲンのお店のお粥を出してくれないか」
「はい」
あずさちゃんがお粥を出すと、とうさんは六人に一人用のお膳を出して、その上にお粥を置きました。
「このお粥は薬膳粥だ。弱った胃腸を元気にしてくれる。食べてゆっくり胃腸を休めてくれ」
「はっ」
六人は、それぞれ食べ始めました。
「はい、ヒマリちゃんもどうぞ」
「ありがとう」
どうやら、私の胃がもたれているのがバレていたみたいです。
「これを食ったら、少し休んで、風呂に入ろう。城から一番近くに温泉を作った。そして、そのむかいにステーキの屋台がある。あとで案内してやる」
やっぱりとうさんは、お風呂の位置もステーキの屋台も計算してあの位置にしていました。
さすがです。
六人は、お腹一杯お粥を食べるとグーグー眠ってしまいました。
きっと、緊張がとけて深く安眠出来ていると思います。
とうさんはその間に、お城に明かりを付けたり、掃除をしています。私もあずさちゃんも居眠りをしてしまいました。
お城でのんびりしていると、屋台の明かりが消えました。
急に町の風景がさみしくなります。
同時に私の心も、寂しさで一杯になります。
お祭りや夏休み、旅行など楽しいことが終るときはさみしくて、終ってほしくないと、ほんとうに悲しくなります。
「さあ、行こうか」
「えっ」
「ふふふ、祭りの終わりはさみしいからな、少しだけ余韻を楽しみたい。だから、後夜祭をしようと計画している」
「はい!!」
どうやら、あずさちゃんも同じ気持ちだったみたいです。
返事が重なりました。
とうさんって人は最高です。
私達の返事が大きすぎたのか、眠っていた六人が目を覚ましました。
「どうだ、腹の調子は」
「おかげさまで、最高のコンディションです」
「じゃあ、行くぞ。まず、お前達は服を着替えて風呂からだ」
「はっ」
暗いお城の道を歩き、お風呂に着きました。
真っ黒な平たい不気味な、飾りっ気の無い建物のお風呂です。
六人が少し驚いています。
「ここが風呂だ。俺はこのステーキ屋で待っている。行ってきてくれ」
私とあずさちゃんは、六人を安心させるため先に中に入りました。せっかくなのでお風呂にも入っておくことにしました。
女湯には、若返ったミサさん、坂本さん、古賀さんが入っていました。
三人の体は、首から上ほど変化はありませんでした。
「さすがに浴衣は無理ね」
お風呂から上がると、ミサさんが言いました。
今は三月下旬です。昼はそこそこ暖かいですが、夜は冷え込みます。
冬の装いになりました。
ミサさんの、暴れん坊の胸もすっかりジャンパーの中に収まりました。
外に出ると屋台に再び火が入り、温かく私達を迎えてくれます。
昼間にボランティアで手伝ってくれた人と警察隊の人も参加しているようです。けっこう大勢の人が参加しています。
屋台の店員さんは、全部メイド姿のシュザクさんが担当しています。
とうさんと一緒に回る屋台はとても楽しいのですが、楽しければ楽しいほど、心の一部が暗く沈んで行きます。
――時間よ止まれ!!
私は、強くそんなことを思っています。
とうさんの横に座っていると、とても心が温かく満たされていきます。
次々人が挨拶に来て、少しだけ話しをすると入れ替わります。
私はその会話が子守歌のように聞こえてきて、いつからか心地よく眠っていたようです。
気が付くと、とうさんに抱っこされていました。
「はわわ」
「起こしてしまったか。すまないな」
「い、いいえ」
私は、驚いて起きようとしました。
そしたら、あずさちゃんがポンポンと肩を叩いてくれました。
いたずらっぽく笑っています。「そのまま、そのまま」と言っているようです。
私は、もう一度目を閉じました。
「大殿、よろしいですか」
「うむ」
「これから、私達はどうすれば良いのでしょうか」
「それより、心ゆくまで祭りは楽しんだか」
「ふふふ、見てください。この腹を」
「うむ。熊野衆は清水家配下としてこのまま紀州を守ってくれ、但しカンリ一族は、木田家一門衆として直接俺の配下とする。清水はそのまま和泉、河内の賊退治だ。治安を取り戻してくれ」
「はっ!」
「はっ!」
私が眠っている間に、熊野衆と清水様が集っているようです。
「あの」
私は、話しが終った隙をみて、さすがに起き上がりました。
「さあ、行くよ」
あずさちゃんが私の手を引っ張ります。
「ど、どこへ?」
「うふふ、ピーツインのラストステージです!!」
「えーーっ」
私は、本気の寝起きですよ。
それでも、ステージにのぼるとスイッチが入りました。
「和歌山のステーキ祭り会場のみなさーん! ピーツインのラストステージでーす。集ってくださーい」
「制服姿のステージ衣装もいいですなー」
ステージの前に集る、大きいお兄さん達が話しています。
――なーーーっ
今川家の殿様が最前列にいます。
まさか、前夜祭からずっといたのでしょうか。
楽しみすぎです。
「はい! はい!」
私達は、片手をあげてリズムを取り一曲目を歌いはじめました。
最前列の人の興奮度がなんだかいつもと違う気がします。
やっぱり制服姿だからでしょうか? それとも夜だから?
あずさちゃんは、いつも通り水着の上にフリフリの見せパンです。
――あーーっ!!!
私は、ステージをやる予定はありません。
ふ、普通のパンツです。
やれやれです。
こうして、楽しい和歌山のお祭りは終りました。