「たっ、たいへんだーーーーーー!!!!」
和歌山城ホールのアンナメーダーマンショーの最中に警察隊の隊長さんが駆け込んできました。
すぐに係の人に取り押さえられたのですが、いったい何があったのでしょう。
ピーツインは怪人に捕まって、助けられるアイドル役です。
今日のこのステージが千秋楽なのに、水をさされた感じになっています。
私達は、アンナメーダーマンに助け出されれば出番は終わりです。
出番を終らせると、隊長さんの所に行きました。
「あの、なにがあったのですか」
あずさちゃんが、ステージ衣装のまま聞きました。
隊長さんは口にしっかり猿ぐつわをされています。
あずさちゃんが口に人差し指を立ててから、猿ぐつわをゆっくり外します。
「し、ししし、城に大きな白旗が上がりました」
慌てていますが、声のトーンは小さくしています。
「なっ、何ですってーー!!」
会場に聞こえるくらいの大声を出しました。
あずさちゃんは全員に、にらまれます。
自分で人差し指を口に当てます。
囲んでいる全員がうなずきます。
「なんで、もっと早く教えてくれないのですか」
「ええっ!?」
隊長さんが驚いています。
確かに、理不尽ですよね。でも、子供は大人によくそうやって怒られます。しかたがありません。
「ヒマリちゃん行こう、急がないと」
そうです。こうしてはいられません。
ボヤボヤしていると、あの人達は腹を切るかもしれません。
でも、さすがにアイドル衣装のままでは失礼です。
「あずさちゃん、慌てすぎです。まずは着替えないと」
「ヒマリちゃんはやっぱりすごいです。こんな時でも冷静で落ち着いています。いつも助けられます。ありがとうございます」
あずさちゃんが抱きついてくれました。
いいえ、私は全然すごくありません。
本当にすごいのはあずさちゃんなのに、私は何も出来ていないのに。
でも、とても嬉しいです。
あずさちゃんの顔を見ると、涙が浮かんでいます。
お城の人の事を真剣に考えている証拠ですね。とてもかわいいです。
私達は、人の目も気にせず衣装を脱ぎました。
男の人が全員手で顔を覆います。
でも、指に隙間があって、黒目がそこから出ています。
それって見えていますよね。
でも安心して下さい。私達は真っ白な水着を着ています。
フリフリスカートに、スライムのプリントがお尻に付いたかわいい水着です。
すぐにその上に中学の制服を着ました。
私がブレザーで、あずさちゃんはセーラー服です。
中学生の正装です。
着替えたら、あずさちゃんが私の手を握りました。
「クザン、シュラちゃん」
二人を呼ぶと四人で一塊になります。
「隊長さん。とうさんにも伝えて下さい。私達は先に行きます」
私達は城の結界が解除された通路の前にテレポートしました。
昨日までは衛兵さんがいましたが、もうその姿はありません。
お城を見ると、大きな白い布が外に出されています。
「行こう」
あずさちゃんが真剣な目になりました。
私も真剣な顔をしてうなずきます。
後ろに警察隊の方が駆け寄って来ました。
「お待ち下さい。何があるかわかりません。お供をさせて下さい」
「二名だけ同行を許します」
あずさちゃんが毅然とした威厳を持った口調で言いました。
か、かっこいいです。いつものいたずら小娘とは思えません。
しびれます。もはや王者の風格を感じます。
「はっ!!」
警察隊の隊員さんもそれを感じたのか、顔が緊張して冷や汗のような物が顔に流れました。
お城へと続く道を、慌てること無く進みます。
すでに人の気配がありません。
「お城の人はどうしました?」
「はっ! 白旗が上がると同時に、数十人我らの前に現れましたので保護しました」
「数十人ですか?」
「はっ! それ以外は全員、昨晩城の外に脱走したようです」
「そうですか」
門をくぐると、立派な天守閣が目の前です。
あずさちゃんは、天守閣の前でいったん止ると、下から全体を見つめます。
私も真似をして、見上げました。
人の気配がしません。
誰もいないように感じます。
「行きましょう」
あずさちゃんが私の手を握りました。
少し汗でしっとりしています。
心なしか小さく震えているようにも感じます。
実は、あずさちゃんは三月生まれ、私は四月生まれです。
学年は同じですが、一年くらい私がお姉さんなのです。
私がしっかりしないと、そう思いました。
誰もいない天守閣の階段を上り、最上階につきました。
「よかった」
あずさちゃんは、誰にも聞こえないような小さな声で言いました。
心の声が漏れ出てしまったようです。
六人の男の人が白い着物を着て、私達の気配を感じると素早く平伏しました。
三人が前列で、後ろに三人がいます。
後ろの三人の横には長い日本刀が有り、前の三人の前には短刀があります。
前列の中央が御頭です。
あの髭に見覚えがあります。
あずさちゃんが、警備隊の人にちょんちょんと指で合図を送りました。
隊員は慌てていましたが、落ち着きを取り戻すと、意味を理解して息を大きく吸いました。
「おもてを上げよ」
重々しく言いました。
ゆっくり、全員が顔を上げました。