目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

0258 作戦の行方

異変がおきたのは、二日目のお祭りの火が落ちてからでした。


「お城の皆さーん! お祭りは明日まででーす。牛肉は貴重なので、明日を逃すと次はいつ食べられるかわかりませーん。お城からの出入りは自由です。是非、味わってくださいねー」


二日のステージの最後であずさちゃんが言いました。

相変わらずお城の反応はありませんでしたが、お城の人には届いていたようです。




「あずさちゃん。やっぱりお城の人は今日も出てこないのかしら?」


屋台は二十一時で終了します。

屋台から明かりが消えると急にあたりが暗くなります。

私とあずさちゃんは、お城に一番近い屋台の前に座って、出入り口を見つめます。

あずさちゃんの顔が笑顔になりました。


「とまれーー!!」


「ちっ、出入り自由じゃねえのかよう」


「ふふふ、俺達は警察隊だ。屋台への出入りは自由だが、武器の所持は自由じゃ無い。それだけ確認させてくれ」


「あ、ああ、わかった」


お城から、人が出て来たようです……。

六人の人がいますが、あの人達はお城の衛兵に見えます。

どうやら、お城からの最初のお客様は衛兵のようです。


「これは、没収だ」


警察隊が武器を取り上げました。

お城の衛兵は素直に武器を渡しました。


「も、もう良いのか?」


「ああ、自由だ。だが、お前達少し臭うぞ」


「そ、そうか?」


衛兵は自分の体の臭いを嗅ぎます。


「ふふふ、こんなこともあろうかと、お風呂が用意してある。もちろん無料だ」


警察隊の隊長の、視線の先には黒い建物があります。

とても異様です。


「……」


お城からのお客さんも、少しひるんでいます。


「ははは。ナチスじゃねえんだ。ガス室じゃねえよ。心配なら俺も一緒に入ってやる。行こう!」


どうやら、とうさんがこんな時のために銭湯のような、お風呂を用意してくれていたようです。さすがです。

あずさちゃんが肘で私をツンツンします。

私達は透明になってお客さん達の様子を見ることにしました。


「なんで、あんたは俺達をこんなに親切にするんだ? 敵だろう?」


「ふふふ、あんたはなに人だ?」


「お、俺達は、正真正銘日本人だ」


「俺も日本人だ。ならば同胞だろ。日本はいま大変な状況だ。こんな時に日本人同士争っている場合じゃ無い。むしろ団結してこの国難に手を取り合って助け合う時じゃねえか。俺達はそう思っている。まあ、大殿の受け売りだがな」


「信じていいのか?」


お客さんは、それぞれ顔を見合わせています。


「こっちだ。ここの風呂は凄いんだ。なんとお湯は榊原温泉の湯だ。あの日本三大名湯の湯なんだ。蛇口からは湯と水が出るのだが富士の湧水が出てくる。脱衣所には洗濯機がある。乾燥機能付きだ。風呂に入っている間に洗い終わって乾いているはずだ。洗剤もちゃんと準備されているぞ。これも全て無料だ」


さすがに私達は扉の中には入らずに、外で声だけ聞いています。


「お、おい! あんた何をやっているんだ。女は隣だ。まったく胸を見ちまったじゃねえか」


二人の女性が、上半身裸で服を抱えて出て来ました。

確かに顔が汚れていて、服を脱ぐまでは女の人とはわからなかったかもしれません。

プリンとした、綺麗な胸です。

ただ、ふくらみ以外は痩せてしまって、あばらまで出ています。

これじゃあ少し縮んでいるのかもしれませんね。


「うらやましい」


あずさちゃんの、心の声が漏れてきました。

あずさちゃんはいまだに少しも盛り上がっていません。

これだけは私が勝っています。


「うおーーっ!! 気持ちいい!! いい湯だーー!!」


湯船に入ったのでしょうか。

気持ちよさそうです。




体も服も綺麗になったお客さんが、出て来ました。

でも、屋台は終了しています。


「あんた達は、何か食べたい物があるのか?」


「ス、ステーキが食べたい」


全員一致のようです。


「最初はお粥のような、かるい物の方がいいと思うが、まあ良いだろう。こんなこともあろうかと、大殿が城からのお客さんには24時間料理を提供出来るようにしてくれてある。こっちだ」


ステーキ屋さんは、お風呂の一番近くに用意されています。とうさんはこんなことまで想定していたのでしょうか。

たぶん想定していたと思います。凄い人なのです。

シュザクさんがメイド服でスタンバイしています。


「ステーキを六人分お願いします」


「ハイ。オマチ下サイ。スグニ用意イタシマス」


「すげーー。ロボだ。ロボのメイドがしゃべったー」


メイドのシュザクさんが屋台に明かりを付けました。

そして、鉄板の上に分厚いお肉を六枚一度にのせます。

美味しそうな音がでます。

湯気が立ち上り、美味しそうな香りがあたりに広がります。

全員がゴクリと唾を飲み、お肉に目が釘付けになります。


「ドウゾ」


六枚のステーキを一枚ずつ皿にのせ、お客様の前にそれぞれ置いていきます。


「うおおおーー! 肉だ!! 牛肉だーー!!!!」


うっすら目に涙が浮かんでいます。


「うめーーー!!!!」

「おいしい!!」


それぞれが、口に入れると自然と声が出ています。


「ここの明かりがついたら、どこの屋台でも食べられるようになる。好きな物を食べてくれ。じゃあもういいだろう。俺は任務に戻る楽しんでくれ」


「まっ、まってくれ」


「どうした?」


「城に戻りたい。いいのだろうか?」


「ははは、だから言っているだろう。自由だ」


「そ、そうか。俺達は城に戻って仲間に教えてやりたい」


「かまわんさ」


「わかった。丁寧な対応、心から感謝する」


「なあに、道案内も俺達警察隊の重要な仕事の一つだ。わからないことがあったら、また遠慮せず聞いてくれ。じゃあな」


警察隊の隊長が持ち場へ戻った。

六人が城に戻ると、ゾクゾクと人が出て来た。

お風呂の案内や、屋台の案内は、さっきの六人がちゃんとやってくれています。

屋台に次々明かりが付き、賑やかになっていきます。


「うおおーー!! うめーーー!!!!」


色々な場所で歓声が上がります。

どうやらアマノウズメ大作戦は成功にむかっているようです。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?