異変がおきたのは、二日目のお祭りの火が落ちてからでした。
「お城の皆さーん! お祭りは明日まででーす。牛肉は貴重なので、明日を逃すと次はいつ食べられるかわかりませーん。お城からの出入りは自由です。是非、味わってくださいねー」
二日のステージの最後であずさちゃんが言いました。
相変わらずお城の反応はありませんでしたが、お城の人には届いていたようです。
「あずさちゃん。やっぱりお城の人は今日も出てこないのかしら?」
屋台は二十一時で終了します。
屋台から明かりが消えると急にあたりが暗くなります。
私とあずさちゃんは、お城に一番近い屋台の前に座って、出入り口を見つめます。
あずさちゃんの顔が笑顔になりました。
「とまれーー!!」
「ちっ、出入り自由じゃねえのかよう」
「ふふふ、俺達は警察隊だ。屋台への出入りは自由だが、武器の所持は自由じゃ無い。それだけ確認させてくれ」
「あ、ああ、わかった」
お城から、人が出て来たようです……。
六人の人がいますが、あの人達はお城の衛兵に見えます。
どうやら、お城からの最初のお客様は衛兵のようです。
「これは、没収だ」
警察隊が武器を取り上げました。
お城の衛兵は素直に武器を渡しました。
「も、もう良いのか?」
「ああ、自由だ。だが、お前達少し臭うぞ」
「そ、そうか?」
衛兵は自分の体の臭いを嗅ぎます。
「ふふふ、こんなこともあろうかと、お風呂が用意してある。もちろん無料だ」
警察隊の隊長の、視線の先には黒い建物があります。
とても異様です。
「……」
お城からのお客さんも、少しひるんでいます。
「ははは。ナチスじゃねえんだ。ガス室じゃねえよ。心配なら俺も一緒に入ってやる。行こう!」
どうやら、とうさんがこんな時のために銭湯のような、お風呂を用意してくれていたようです。さすがです。
あずさちゃんが肘で私をツンツンします。
私達は透明になってお客さん達の様子を見ることにしました。
「なんで、あんたは俺達をこんなに親切にするんだ? 敵だろう?」
「ふふふ、あんたはなに人だ?」
「お、俺達は、正真正銘日本人だ」
「俺も日本人だ。ならば同胞だろ。日本はいま大変な状況だ。こんな時に日本人同士争っている場合じゃ無い。むしろ団結してこの国難に手を取り合って助け合う時じゃねえか。俺達はそう思っている。まあ、大殿の受け売りだがな」
「信じていいのか?」
お客さんは、それぞれ顔を見合わせています。
「こっちだ。ここの風呂は凄いんだ。なんとお湯は榊原温泉の湯だ。あの日本三大名湯の湯なんだ。蛇口からは湯と水が出るのだが富士の湧水が出てくる。脱衣所には洗濯機がある。乾燥機能付きだ。風呂に入っている間に洗い終わって乾いているはずだ。洗剤もちゃんと準備されているぞ。これも全て無料だ」
さすがに私達は扉の中には入らずに、外で声だけ聞いています。
「お、おい! あんた何をやっているんだ。女は隣だ。まったく胸を見ちまったじゃねえか」
二人の女性が、上半身裸で服を抱えて出て来ました。
確かに顔が汚れていて、服を脱ぐまでは女の人とはわからなかったかもしれません。
プリンとした、綺麗な胸です。
ただ、ふくらみ以外は痩せてしまって、あばらまで出ています。
これじゃあ少し縮んでいるのかもしれませんね。
「うらやましい」
あずさちゃんの、心の声が漏れてきました。
あずさちゃんはいまだに少しも盛り上がっていません。
これだけは私が勝っています。
「うおーーっ!! 気持ちいい!! いい湯だーー!!」
湯船に入ったのでしょうか。
気持ちよさそうです。
体も服も綺麗になったお客さんが、出て来ました。
でも、屋台は終了しています。
「あんた達は、何か食べたい物があるのか?」
「ス、ステーキが食べたい」
全員一致のようです。
「最初はお粥のような、かるい物の方がいいと思うが、まあ良いだろう。こんなこともあろうかと、大殿が城からのお客さんには24時間料理を提供出来るようにしてくれてある。こっちだ」
ステーキ屋さんは、お風呂の一番近くに用意されています。とうさんはこんなことまで想定していたのでしょうか。
たぶん想定していたと思います。凄い人なのです。
シュザクさんがメイド服でスタンバイしています。
「ステーキを六人分お願いします」
「ハイ。オマチ下サイ。スグニ用意イタシマス」
「すげーー。ロボだ。ロボのメイドがしゃべったー」
メイドのシュザクさんが屋台に明かりを付けました。
そして、鉄板の上に分厚いお肉を六枚一度にのせます。
美味しそうな音がでます。
湯気が立ち上り、美味しそうな香りがあたりに広がります。
全員がゴクリと唾を飲み、お肉に目が釘付けになります。
「ドウゾ」
六枚のステーキを一枚ずつ皿にのせ、お客様の前にそれぞれ置いていきます。
「うおおおーー! 肉だ!! 牛肉だーー!!!!」
うっすら目に涙が浮かんでいます。
「うめーーー!!!!」
「おいしい!!」
それぞれが、口に入れると自然と声が出ています。
「ここの明かりがついたら、どこの屋台でも食べられるようになる。好きな物を食べてくれ。じゃあもういいだろう。俺は任務に戻る楽しんでくれ」
「まっ、まってくれ」
「どうした?」
「城に戻りたい。いいのだろうか?」
「ははは、だから言っているだろう。自由だ」
「そ、そうか。俺達は城に戻って仲間に教えてやりたい」
「かまわんさ」
「わかった。丁寧な対応、心から感謝する」
「なあに、道案内も俺達警察隊の重要な仕事の一つだ。わからないことがあったら、また遠慮せず聞いてくれ。じゃあな」
警察隊の隊長が持ち場へ戻った。
六人が城に戻ると、ゾクゾクと人が出て来た。
お風呂の案内や、屋台の案内は、さっきの六人がちゃんとやってくれています。
屋台に次々明かりが付き、賑やかになっていきます。
「うおおーー!! うめーーー!!!!」
色々な場所で歓声が上がります。
どうやらアマノウズメ大作戦は成功にむかっているようです。