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0253 まがまがしい来客

私がお替わりのハンバーグに、取りかかったときに異変が起きました。

メイドのフォリスさんの体が緊張してビクンと反応しました。

視線が玄関に固定されます。

何か良からぬ者が来たのでしょうか。


古賀さんもミサさんも坂本さんも、玄関に意識を集中します。

あずさちゃんだけはハンバーグに意識を集中しています。


「カンリ一族でしょうか? 妙な気配がします」


古賀さんが険しい顔でいいました。

私達は緊張しました。

玄関が開くと、闇の中に人影がうっすら浮かび上がりました。前列が三人、その後ろに五人、さらに後ろにゾロゾロ大勢いるようです。


「オイサスト! シュヴァイン!」


古賀さんと、坂本さんが変身しました。

その位の重々しい雰囲気です。


「やー、ごめん、ごめん。驚かしてしまったかな?」


「ほーさーーん!!」


あずさちゃんは気が付いていたみたいです。

残りのハンバーグを口に放り込むと駆け出しました。

私の手を握ると、私を引っ張るように走ります。

これは、とうさんに抱きつくイベントですか。

あずさちゃんが女神の様に感じられます。

歩いて来るとうさんが、少しずつ光に照らされて姿がはっきりしてきます。


とうさんを真ん中にして、左側に歳が良くわからないけど、かわいい感じのする女性がぴったりひっついて歩いています。

右側にはなんだか、凄く人相の悪い痩せた男性が同じようにひっついて歩いています。

ちょっと待って下さい。このまま走って行くと、あずさちゃんが女の人、私が恐ろしい顔をした男の人とぶつかります。


「あずさちゃーん!! まっ、まってください」


「ぷひゅっ!」


あずさちゃんが、笑いをこらえたのでしょうか、空気が口から漏れました。


――うっうう、あずさちゃんが死神に見えてきました。


でもやるしかありません。

恐い男の人の顔を見ないようにして走ります。


「おおぶっ」


どうやら、恐い男の人にはぶつからずに済みました。

とうさんが一歩前に出て、あずさちゃんと私を受け止めてくれました。

あずさちゃんの当たりが強すぎて、とうさんが変な声を出しました。


「とーさーん!!」


私もあずさちゃんのまねをして、しっかり抱きつきます。

とうさんの体から腐った豚肉の匂いがします。

加齢臭と言う奴なのでしょうか。

でも、私はこの匂いが嫌いではありません。むしろ好きです。

私が九十歳くらいのおばあさんになって、腐った豚肉の匂いを嗅いだら、きっと、とうさんの事を思い出して懐かしむのでしょうね。


「まあ、何だろうね。この可愛らしい二人の少女は?」


この女の人は、若く見えますが、おばあさんなのでしょうか?

言い方が年寄り臭いです。

でも、二人と言ってくれました。

きっといい人だと思います。


「あの、その方達は?」


坂本さんが質問しました。


「あぁ、カンリ一族だ。こっちが族長のオオエ。そして左近だ」


私とあずさちゃんは、とうさんの体から素早く飛びのくと身構えました。


「こらこら、カンリ一族は木田家の一員となった。失礼はよしなさい」


「えーーっ!!」


早すぎます。

全員が驚きました。

カ、カンリ一族って、皆が恐れている、あのカンリ一族ですよね。

それを、本当に数日で従えてしまいました。

そんな大仕事をしたのに、いつも通りです。なんて凄い人なのでしょうか。

かっこよすぎます。


私は、もう一度とうさんにしがみつきました。

横にうるんだ瞳のあずさちゃんがしがみついています。

そして、チラリと私の方を見るとニヤリと笑いました。

きっと、私もあずさちゃんと同じ瞳をしているのでしょうね。

なんだか、ポゥっと頬がほてってきます。

あずさちゃんの頬も赤くなっています。それを見ると、私もニヤリと顔が、にやけてしまいました。


「そうだ!!」


とうさんが、ミサさんと古賀さんと坂本さんを見て言いました。


「どうしました」


とうさんの横の、族長と紹介されたオオエさんが言いました。


「オオエ、この三人を禁足地へ連れて行きたいのだが駄目か?」


「おやじ様、一族の者しか無理でございます」


オオエさんは冷たく言い放ちました。

言われた三人は、顔を見合わせるとうなずいています。

そして、嬉しそうな顔をして言いました。


「私達は、木田とうの奥方衆ですよ」


関所で言われたことを、そのまま使用したようです。


「お、奥方衆。であれば大丈夫です」


オオエと呼ばれた女性は一瞬驚いた表情をしましたが、とうさんを見て笑っています。


「置く型集? 置き型集??」


とうさんだけは何の事か、分かっていないようです。


「あの、そこには何があるのですか」


古賀さんが首を傾けながら言いました。


「カノンちゃん、こっちへ」


とうさんの後ろには、上杉様とお母様、スケさんとカクさん、カノンお姉様が……。


「ああああっ!! 若返っています」


前に出てきたお姉様が、私と同じ位の少女になっています。


「カンリ一族の里には不思議な力がある。三人のパワーアップのため、カンリの里に行ってもらいたい。行くと、ついでに五年程度若返るようだ」


「行きます。今すぐ行きます!!!」


三人が必死で言いました。


「ふふふ……」


オオエさんがその必死さを見て苦笑しています。


「その前に、良い匂いがしているじゃねえか。ホリス、皆に食べさせてやってくれねえか」


「おおおっ」


後ろにいる人達からパチパチと拍手が起りました。


「とうさん! この人は、ホリスでは無くてフォリスです」


「おお、そうなのか。じゃあ、フォリス準備を頼む」


「はい」


フォリスさんが、料理の準備に消えました。


「ヒマリ。本当はヒマリも行かしてやりたいが、ヒマリが行くと幼児になってしまう。あと十年たってからだな」


とうさんは、私の頭を優しく撫でてくれます。


「はい。あの、とうさん、お願いがあります」


私は頭を撫でられながら、今日見た黄ばんだおにぎりを思い出しました。


「んんっ!?」


とうさんは、私の顔をのぞき込んでとても嬉しそうにしてくれます。


「お城の人達にお水をあげて下さい」


「わかった」


えーーっ。

まだ、何も言っていませんよ。

なんで、わかってしまうのですかー。


「あの、敵なのですがいいのですか」


「ヒマリが心配するほど、不足しているのだろう。断れないさ。それに敵じゃ無い同胞だ。少ーし駄々をこねているだけだ」


「はい!!」


私は、とうさんの優しさに感動しています。


「あずさ」


「なーに、とうさん」


「三人の替わりに俺が働きたいのだが、何をしたらいい。状況を教えてくれ」


「はわわわ」


うわあー。

あずさちゃんがあからさまに動揺しています。

やっぱり、戦争の最中にお祭りはやり過ぎと、自覚しているようです。

きっと、五日はかかると思っていたのでしょうね。

どうするつもりでしょうか。

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