目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

0251 悪い子

「あの、廣瀬さん」


「はい、何ですかヒマリ様」


「お城に忍び込みたいのですけど、案内お願い出来ますか」


「今日一日働き通しです。お疲れではありませんか」


「大丈夫です。子供ですから」


大人と違って、子供は元気の固まりです。

夕食が終わり、お風呂を済ますと、ミサさんと古賀さんと坂本さんは、それぞれの機動陸鎧を取りに戻りました。

あずさちゃんは、大阪城の守備に残したクザンとシュラちゃんと、ここのクザクとシュザク十人を入れ替えるため、大阪城に戻りました。

そのため私は自由になりました。


古賀さんからは、「大人しく眠ること」と言われましたが、よい子は働き者です。

私は眠る前に、お城の様子を見ておきたいと思ったのです。

そう、彼を知り己を知れば百戦あやうからずです。言ったのは孔明でしたでしょうか。


「オイサスト! シュヴァイン!」


私は黄色い模様の忍者装備になりました。

古賀忍軍とデザインは同じですが模様の色が違います。

古賀忍軍の模様は紫色です。

忍者装備になって、透明化します。

廣瀬さんも透明になりましたが、忍者装備になればちゃんと姿を視認できます。


「ヒマリ様も変身出来るのですね」


「うふふ、私の方が先輩ですよ」


「じゃあ、見つからないように気配を消して行きましょう。ついて来て下さい」


「はい、お願いします」




「おい、カンリ一族は何をしているのだ。警備の数がいっこうに減らないでは無いか。連絡はないのか」


「はっ、御頭。連絡は途絶えたままです」


和歌山城天守閣で御頭と呼ばれた人は、髭面のおじさんです。

がっしりとした体で、とても強そうです。


「では、まだ時間がかかると言う事か。食糧はどうなっている」


「はっ。食糧は、このままではあと五日ほどで底をつきます」


「ふむ。このまま動きが無ければ最終日には打って出るしかないか。それとも……。ちっ、明日からは食事は夜だけだ! これで十日はもつだろう」


「お、おかしら……」


天守にいる熊野衆の重臣達がガックリと肩を落としました。


「その十日でカンリ一族が清水を撃退すればヨシ。出来なければ、全軍で城を出て戦う」


「……」


重臣達は暗い表情で黙ったままでした。


「お前達は勝てないと思うのか?」


「お、恐れながら。カンリ一族でも歯が立たないと言うことであれば、我らでは太刀打ち出来るとは思えません」


「ふふふ、ならば降伏か。俺の切腹で事が済めば良いのだが」


せ、切腹!?

時代劇じゃあるまいし。


「我らもお供いたします」


「ふむ、切腹の作法がわかる者はいるか?」


「時代劇でしか見た事はありませんが、白装束を着て短刀で腹を横に切り裂くだけでした」


「そうそう、それで介錯する者を用意して首を切り落とす」


「ふむ」


御頭は想像したのでしょうか、顔色がみるみる悪くなります。


「十文字切腹、三文字切腹と言うのがあります。十文字は右から左に切った後一度引き抜き、ヘソの下から上に切り上げ最後は心臓を切ります。三文字はその字のごとく、三回横に切ります」


「そ、壮絶だなあ」


「はっ、十文字切腹で有名なのは、柴田勝家でしょうか。三文字は武市半平太が有名ですね」


「お、おめえ。詳しいな」


本当に。

私まで憶えてしまいました。


「うーーむ」


全員がうなり出しました。


「お、おかしらーー!!!」


「どうした。騒々しい」


「はっ、町を見てきたものから報告がありました」


へー、ちゃんと町に間者を出していたんだ。

ちゃんと関心を持っていてくれたのですね。


「で、あれは何の悪だくみだ」


悪だくみではありませんよ。


「はっ、それが……」


「な、なんだ」


「祭りの準備です」


「はぁーーっ、祭りだとー! 何を言っている」


「いえ、間違いありません。祭りのはっぴを着ている者がいたと報告がありました」


「バカヤロー! 見間違いだろう」


「いいえ、報告では、ちちのでかいエロい女と、優しそうで美しい女と、出来る秘書みたいな女と、恐ろしく完成された美少女と、ちんちくりんがいたと言っていました。作り話にしては具体的すぎます」


ちんちくりん、ちんちくりんが私ですかー。おのれーー!!

これでも駿河一の美少女と言われていたのですよ。

あれですかー、あずさちゃんの横にいたから、ちんちくりんにしか見えなかったと。

私ごときではあずさちゃんの引き立て役ですか。

まあ、そうでしょうね。そうでしょうとも、あずさちゃんはその位の美少女ですよ。

がっかりだぜです。


「ぐぬぬ、なめやあがって、敵の籠城する城下で祭りだとーー!!」


ぎゃーー!!

ひげもじゃの御頭の顔が茹でだこのように真っ赤になります。

怒っています。

さっきまでは、この世の終わりのような顔をしていたのに、元気が戻ってしまいました。

あずさちゃん、作戦失敗ですよ。作戦失敗!


私は、廣瀬さんに合図して、帰ることにしました。

お城を出た瞬間、お城を包むように結界が出来ました。

ミサさんの青い機動陸鎧が結界を張ったようです。


「危なかった。あと少し遅かったら閉じ込められる所です」


「よかったですね」


「はい。素早く美術館に戻りましょう。寝たふりをしないと怒られてしまいます。古賀さんは普段、優しい顔をしていますが怒ると悪魔の様に恐ろしいのです」


「うふふ、急ぎましょう」




「ひまりちゃーーん」


私が美術館に着いた瞬間にあずさちゃんから呼ばれました。

やばーーい。

宿直室を寝室にしていますので、素早くもどります。


「なーに」


私は目をこすりながら、眠そうに出て行きます。


「ヒマリ様」


「シュラちゃん」


「すごい!! ヒマリちゃんが言いつけを守って、大人しく眠っていました」


「まったく!! あずさちゃんは私を何だと思っているのですか」


「うふふ、私なら、お城に忍び込んで来て、バレたら『フリかと思いました』と言いますけどね」


ば、ばれていないですよね。

おそるべし、あずさちゃん。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?