「まずは、座ってくれ」
「はい」
オオエが俺の前に来て、美術館の床に直接座った。
四人の側近は、倒れている一族の者を介抱している。
一人も死者は出ていないはずだ。
「改めて、まずは説明させてくれ」
「はい」
「俺達木田家は、あんた達一族をどうこうしようという気は無い。そして熊野衆も同じ日本人だ。殺たり、支配をしたいなどと考えている訳ではない。ただ、清水が攻めているという事は、住民に対し酷いことをしていたのではないか」
「確かに熊野衆は、住民から食糧を奪いとっていました。大殿! その考えは今も同じなのですか?」
「うむ、同じだ。木田家が嫌なら、関わりを持たずに穏やかに暮らしてくれて構わん。上に立つ者が贅沢をせず、底辺の人々が幸せに暮らせたらそれで良い。それだけが俺の望みだ」
「私達は、見せしめの為に残忍に清水軍の兵士を殺しました。それに対してはどう考えていますか」
「ふむ、少人数の兵で大軍と戦うためとはいえ、やり過ぎだな。憤りを感じている。だから、罰は与えたいと考えている」
「申し訳ありません。どの様な罰でしょうか?」
オオエは姿勢を正すと床に額が付きそうなくらい頭を下げた。
「うむ、一族の者を五十人出してくれ、そして死ぬまで木田家に忠義を尽くし馬車馬の如く働いてくれ。それがカンリ一族に対する罰だ。あとの者はどこに住んでいるのか知らないが、今まで通り自由に暮らしてくれ。だが木田家に再び牙をむけば……」
俺は手を上げて、ホリスに指示を出した。
半分の三百三十人のゴーレム達が一斉に姿を現した。
残りの半分は外にいる。
「うわあっ」
カンリの者達が声を上げた。
「こ、これは!」
オオエも大きく目を見開いて驚いている。
「ふふふ、この者達は木田家の誇るアンドロイド軍団だ。強いぞ! 一人でお前達を皆殺しに出来るほどの強さがある」
「これ程の科学力が木田家にはあるのですか? まさか未来から日本を救いに来られたのですか?」
あの、アニメの影響か、タイムマシンの存在をうっすら信じているのだろう。
「ま、まあ、そんなところだ。未来とは違うがな」
ぼかしておいた。
なんとなくだが、魔法という方が信じてもらえない気がする。
「そうですか。あの、大殿。先程の罰の件ですが五十人は多すぎます。里が滅んでしまいます。私一人では駄目でしょうか。私には、一族の者五十人の価値があります」
オオエは顔を下に向けているので表情はわからないが、そう言った。
「ふむ、それは、何でもすると言うことか?」
「は、はい」
オオエは顔を上げた。その顔は何故か真っ赤になっている。
「では、それをここで証明して見せてもらおう」
「えっ! ここで、ですか? 私も二人の子持ちです。今更恥ずかしがる事も無いのでしょうが。ここで、ですか?」
「うむ。ここでお前達一族の秘密を、お前の知る限り全て話してもらおう」
俺が言ったら、オオエは服を脱ぎかけていたのをやめた。
はーーっ! 何で服を脱ぎ出したんだ。暑いのか?
しかも、オオエの奴、あんなにかわいい顔をしていて、子供が二人もいるのかよう。驚きだ。
「お、大殿は何が知りたいのですか」
「うん、お前達のその異常な身体能力だ。まずは、そこから教えてくれ」
「ふふふ、大殿がそれをいいますか。私達は大殿を見るまでは一族の者が、日本一身体能力が高いと信じていました」
「くくく」
俺の後ろで上杉達が笑いをこらえている。
「私達一族は、元々は神の一族を名乗っていました。それが恐れ多いと、神の裏、神の知りなどと、名乗っているうちに、『かんり』に落ち着いたと聞いています。熊野一のパワースポットを神話の時代からずっと守っている一族です」
なるほど、日本らしい歴史を感じる話しだ。
熊野三山もあるし、熊野には特殊な力があることも理解出来る。
「熊野一のパワースポットか興味深いな。いままでよく秘密が守られたものだ」
「それは、ご覧のとおり里で過ごせば個人差がありますが、特殊な力が付きます。そうですね、もっとわかりやすい物を、ご覧に入れましょう。左近見せてあげなさい」
「はっ」
そう言うと痩せた男が前に出た。
どことなく、サイコ伊藤に似ている。
その男は、ホリスに手の平を向けた。
すると、ホリスの体が宙に浮いた。
「うおっーー!!」
歓声があがった。
ホリスの体がくるんと逆さまになった時、美しいメイド服のスカートの中から、清楚な白い下着と、スタイル抜群の体の美しい足があらわになり、思いがけない物を見た男達の口から漏れ出たのだ。
ホリスはあわててスカートを押さえた。
それでもチラチラと白い物がのぞく。
押さえられた黒いメイド服のスカートの隙間からチラチラ見える白い物は、男心をくすぐるようだ。
皆、必死で見ている。
「これ、左近!」
見かねて、オオエがたしなめた。
左近は、少し楽しくなっていたのか、いつもより多めに逆さにしたようだ。
「申し訳ありません」
左近は、ホリスをゆっくり元に戻すと、優しく床に降ろした。
「そんな力があるのなら、さっきの戦いに使えば良かったのに」
俺が言うと左近は驚いた顔をした。
「使っていました。ですが、大殿にはまるで効きませんでした」
「そうか。なんか、すまんな」
「いいえ」
「わかっていただけましたか」
「うむ、こんな力は隠さないといけないな。よく隠していてくれた」
「時々、外に漏れていましたが、これまで静かに暮らしていました」
「ときどき、外に漏れていたの?」
「伊賀や甲賀に流出しました」
「なるほど、忍者のあの力は、漫画のフィクションだけと思っていましたが、まさか火とか、風とかも出せるのですか?」
「ご覧に入れましょうか」
「いや、それには及ばぬ。なるほどなー」
漏れ出ていたと言う事は、こいつらの方が凄いと言う事だ。
元祖なんだからな。
「ところで、二人の子供がいると聞いたが、その子達は里にいるのか?」
「その子? ……ああ、私の子供は、すでに三十歳位にはなっていますよ」
えーーーーっ!!
今日一の驚きだよ。
三十の子供がいるって、あんた何歳なの?
どう考えても、俺と同じ位のはずだ。いや、年上かも。
だが、俺は女性に年齢は聞かない。
見た目が、かわいければいいじゃないか。
「うん、わかっている。その大人の子供達の事を聞いている」
俺が質問すると、オオエはつらそうな顔になった。
何があったのだろうか。