俺は清水から地図を借りると美術館を探した。
何と! 美術館は、一本道を挟んだ城のすぐ南隣に有る。
「清水、美術館は今どうなっている」
「はい、放置されています。が、城から近すぎます」
「いや、かまわん、俺はそこを拠点とする」
「ほ、本気ですか」
「ああ、数日の内には奴らを追い込んで見せる。熊野衆は任せたぞ」
「はっ」
「行くぞ! 上杉」
「はい」
建物を出ると、四人と合流し美術館へ移動した。
美術館につくと、俺は扉を開け中に入り、明かりをつけた。
これで、目立つだろう。
美術館の中で、俺は新たなゴーレムを作る事にした。
敵は、人の目では追えないほどの俊敏性を持っているようなので、ゴーレムの力を借りようと考えたのだ。
しかも、人の命をなんとも思わない連中だから、ゴーレムのほうが安心出来る。
スザクとシュラの中間のような赤いゴーレムを作った。
見た目は、スリムな女性の様なアンドロイドタイプだ。
これには、シュラとスザクの中間の名前シュザクと名付けた。
俊敏性重視のゴーレムだ。
そして、シュザクとクザンの間の様なゴーレムを作りクザクと名付けた。
クザクは黒いマッチョな男の姿にした。
シュザクは六百人、クザクは六十人作った。
これらをまとめる指揮官用の赤いゴーレムを一人作り、名前を俺の本名をもじって、ホリスと名付けた。
「す、すごい」
上杉とスケさん、カクさん、響子さんとカノンちゃんが驚いている。
「最後の仕上げは、ホリスにメイド服を着せれば出来上がり……」
しまったー。俺が一人ならパンツは俺がはかせるのに、人に見られていては無理だ。
「ホリス」
「はい」
「これを、その奥で着てきなさい」
仕方が無いので、服と下着を渡して自分で着てくるように指示した。
くーーっ、がっかりだー!!
「はい、ご主人様」
ホリスは、奥へ消えた。
「シュザク、クザク。お前達は姿を消して待機しろ」
六百六十人のゴーレムは姿を消した。
姿を消すと、気配は何も無くなった。
「ご主人様、終りました」
ホリスがメイド姿で帰って来て、俺の前でくるりと回った。
うん、良い。
「ホリス、お客様が来たらシュザクに後をつけさせてくれ」
「はい、ご主人様」
「あの、おおと……」
上杉が大殿と言おうとした。
あれだけ、清水には言うなと良いながら、自分が間違えている。
「おっと、俺は八兵衛ですよ。なんですか」
俺は上杉の言葉をさえぎって言った。
「え、あ、八兵衛さん。ここに、カンリ一族が来るのですか?」
「ふふふ、ええ」
俺が言い終わると、美術館のドアが開いた。
窓を割って飛び込んで来るのかと思ったが、ご丁寧に扉を開けてお客様が入って来た。
「こんばんはー!」
「上杉様、来ましたよ。まさか今日来るとは思いませんでしたが」
「八兵衛さん、凄すぎます!」
うむ、上杉が全く恐く感じねえ。
人の印象は見方によって色々変わるものだなあ。
「いらっしゃいませ。私はここの使用人の八兵衛です。こっちはメイドのホリスです」
「そ、そうか。お前達は清水家の者ではないのか」
ホリスを見て、少し驚いたようだ。
「はい、違います。上杉家のものです」
「ならば、俺達の事は知らないのか?」
「いいえ、知っていますよ」
俺がそう言うと、上杉の顔が急に恐くなった。
「なにーーっ!!」
入って来たお客様もまた、恐ろしい表情に変わった。
隊長だろうか? 最初に入って来た男が手招きをすると、開け放った扉からゾロゾロお客様が入って来た。およそ二十人はいる。
どいつもこいつも、昔のまたぎ……山の猟師のような服装をしている。
痩せていて、俺のようなデブはいない。だが、筋肉はしっかりついていて素早く動く事が出来そうだ。いったい、カンリとは何者なんだろう。
「外にも倍ぐらいの人が隠れています」
ホリスが耳打ちをしてくれた。
なるほど、かなり強いはずだが、七人を捕まえるのに万全の人数を用意している。すこしも油断をしていない。
恐ろしい奴らだ。
「ふふふ、飛んで火に入る夏の虫と言う言葉は知っているか?」
「ひひひ」
「ひゃあぁーはっはっはー」
お客様は笑い出した。
人を見下し、勝ち誇った嫌な笑いだ。
「ホリス、半分のシュザクとクザクを外に出し、後を追えるように待機させてくれ」
俺は笑い声にかき消されるほどの小声でホリスに指示をした。
ホリスは微かにうなずいた。
扉は大きく開いたままなので、気付かれずに出て行けるだろう。
「どっちが、夏の虫だかな」
スケさんが、前に出て言った。
「なるほど、少しはやると言う訳か。おい!」
お客さんの中から一人が前に出て来た。
一際痩せていて、貧相に見える奴だが素早そうだ。
「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」
スケさんが先に動く。
清水の兵の恨みを晴らすように襲いかかった。
ゴーレムを作っている時に、スケさん達にもカンリの一族のことは話してある。
残忍に、清水の兵を殺した事も伝えた。
「ひゃあ、ははは! それが、本気の攻撃かー!」
貧相なお客様が、スケさんの渾身の一撃をかわす。
「!?」
スケさんは避けられるとは思わなかったのか。
驚いて動きが止まった。
その隙を逃さず敵がカウンターで一撃入れた。
「ぎゃあああああーーーー!!!!」
恐ろしい音がして悲鳴を上げた。
悲鳴を上げたのはお客様の方だ。
殴った手の指が砕けて骨が飛び出している。
手から出た血が糸のように流れだし、美術館の綺麗な床を赤く汚した。
「おいおい、自分の手の骨が砕けるほどの力で人を殴るもんじゃねえぜ」
俺は手を押さえている、お客様に言った。
スケさんは、アンナメーダーマン、アクアコスチュームを透明にして着けている。
素手で殴れば、こうなるだろう。
だが、侮ってはいけない。
コスチュームを着けていなければ、負けていたのはスケさんの方だ。
「くそーっ、この賊共めーー、卑怯な手を使いやあがってー、何をしたーー」
お客様の隊長が叫んだ。
「まてー! 賊はお前達の方だろうがーー!!!」
スケさんが怒っている。
!?
――そうか!!
上杉が、恐くなったり、恐くなくなったりする。
見方が変われば違って見える。
奴らにとっては、紀伊を荒らす賊は俺達の方なんだ。
「す、済まなかった」
俺は、とっさにひざまずき、頭を下げていた。
「なっ!!」
上杉達六人は驚いている。
「なんだてめー、豚め。いまさら謝っても許す気はねえぞ! ばかが」
お客様の隊長が俺の頭を踏みつけた。
「き、き、きさまーー!!!!!」
上杉が怒っている。
「うおっ!!」
その怒りでお客様全員が声を出した。
俺は床を見ているので上杉の顔は見えないが、どんな恐ろしい顔をしているのか。見なくても伝わって来る。
「上杉、やめろ!!」
俺は頭を踏まれたまま上杉を止めた。
顔を見ていたら恐くて言えなかったかも。
「!? 上杉家、上杉……」
お客様の隊長の足が浮いた。
「まさか、あんたは……上杉謙信様ですか?」
「そうだ。そして、お前の足の下におわす方こそ、この上杉が敬愛して止まぬお方、至高のお方だ」
「し、至高のお方……ま、まさか、きききききききき」
おーい、き、多いなあ。