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0241 見せしめ

「お見それしました。さすがは上杉家の家中の方ですな。清水様の陣へは我らがご案内いたします」


最後の関所の班長達が、清水の所へ案内をしてくれることになった。

清水は和歌山城の東1キロ程の学校のような場所を本陣にしていた。本陣のまわりは、黒い具足隊が厳重に警備をしている。

広い庭に通されて少し待たされた。

その後に、体育館の様な建物に通された。

建物へは俺と上杉だけで入った。カノンちゃんへの配慮だろう。


「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」


でかい男が嬉しそうな顔をして全力で走って来た。

その男の前に上杉が出て、手のひらを男の前に出した。

その顔は目が吊り上がり鬼の表情だ。


――うわあ、こえーー。上杉謙信がいる。まちがいない。


俺が、体を縮めていると上杉が口を開いた。


「誰が見ているかわかりません。お控え下さい」


「なんだてめーー!! ここは俺達が厳重に警備している。誰もはいりこめるはずがねえ」


すげー! 清水のやろう、こんなにこえー上杉ににらまれて全くひるむ様子がねえ。

そして、上杉もさすがだ。

体のでけえ、悪党顔の清水ににらまれて、ひるむどころか涼しい顔をしている。

俺はこいつらが二人ともこえーよ。


「そうでしょうか?」


清水が上杉の顔に自分の顔を近づけてにらんでいる。

それでもなお、うっすら笑顔で上杉が言った。


「なにーっ!!」


清水はそのままの体勢で、真っ赤な顔になり叫んだ。

唾が飛んで上杉の顔にバシャバシャかかった。

だが、上杉は眉一つ動かさず、表情も変えず清水の目をにらみ付ける。


「桃井さん、姿を見せて下さい」


「はい」


上杉の言葉を聞くと、古賀忍軍のくノ一桃井さんが上杉の横で姿を現わした。


「うおっ!!」


清水が少し飛び上がった。

ついでに俺まで驚いた。


「驚いているという事は、気が付いていませんでしたね」


「た、確かに」


清水の表情が緩んだ。

これは、上杉に軍配が上がったようだ。


「この者は、私の使用人の八兵衛です。そして私が、越後の上杉です」


どうやら上杉は俺の素性を隠してくれたようだ。

うむ、さすがだ頭が良い。


「な、なるほど。そう言うことか。うむ。すみませんでした。上杉謙信殿」


ここで、はじめて上杉は汚そうに綺麗なハンカチで顔を拭いた。

さすがは育ちがいいなあ。

俺やあずさなら、そでで拭くか、手でこするだけだ。


「いいえ。わかっていただければ良いのです」


「上杉殿……。ふふふ、噂通りのお方ですなあ」


「傷の方はよろしいのですか?」


「おお、これですか」


清水は上半身裸になった。

肩から脇腹にかけて刃物による傷痕があった。

結構な深手を負ったのだろう。

敵も結構やるようだ。


「重傷と聞きましたが……」


「大殿の治療薬で治りました。この通り傷痕は残りましたがね」


「なるほど」


「まあ、そう言うことです。折角だから治っていないことにしています」


なるほど、って、俺は今わかった。

頭の良い奴の会話は、理解が追いつかねえや。


「上杉様、侵入者はいないようです」


桃井さんが部下から報告を受けて上杉に言った。


「そうですか」


上杉はそう言うと、俺の前で平伏した。

それを見て清水も平伏し、その後ろに清水の重臣が平伏した。

桃井さんとその部下のくノ一達も平伏した。


「大殿!!」


清水が顔を伏せたまま嬉しそうに声を出した。


「全員、楽にしてくれ! 清水状況を教えてくれ」


「はっ!!」


「現在我々は、和歌山城に熊野衆と名乗る者達を追い詰めました。具足隊で包囲していますが、城には食糧の備蓄は十分なようで、降伏する様子はありません」


「なるほど、で、もう一つの方は?」


「はっ、や、やつらは……」


清水は暗い表情になった。


「どうした?」


「は、はい。実は……」


何か失敗した子供の様な表情になっている。


「大丈夫だ。全部話してくれ」


俺は、これでもかと言うほど優しげな表情をした。


「はい。……我らが城を包囲するまでは順調でした……」


清水の話しはおおむねこんな感じだった。


『ひひひっ』


『くそう、貴様らは何者だー!!』


誘拐された兵士達は、廃ビルの一室に連れ去られた。

と言っても、城のまわりの建物はその全てが廃墟だ。

そこには、数人の兵士が運び込まれている。


『俺達は、熊野山中に住むカンリの一族だ。皆殺しにされたくなければ、兵を引き上げるように、お前達の親玉に伝えるんだ』


『馬鹿なのか。お前達こそ勝ち目はない降伏しろ!』


『ふふふ、やれ!!』


カンリ一族を名乗る男達は、兵士を一人引きずり出すと手足を押さえた。

丸いスプーンの様な金属器を兵士の目に当てた。

それをグルリとまわした。


『ぎゃあああああーーーー!!!!』


兵士の目から、大量の血が流れ落ちる。

男達はその後、手の指を石で叩き潰し、足の指も叩き潰した。

さんざん悲鳴を上げさせると、命を奪った。


『ひいいいいいぃぃーー』


それを見ている清水の兵士達から、恐怖の声がもれた。

カンリの一族は、誘拐して来た兵士の半分を同じように殺すと、残りの兵士に遺体を背負わせて帰したのだ。


「大殿申し訳ありません。大事な兵士を五十人失いました」


「五十人!!」


思わず声が出てしまった。


「ひっ!!!!」


清水達も上杉も、古賀忍軍も小さく悲鳴を上げた。

俺は少し怒りがこみ上げた。

その表情を見て全員が悲鳴を上げたのだ。

やべーーっ、俺はどんな表情をしたんだ?


「俺は具足を付けていない兵士を、城の包囲からは外しました。その代わりに俺自身で陣頭指揮をとりました」


「ふむ、その時に深手を負ったということか」


「はっ」


「カンリというのは、そんなに凄いのか」


「個の実力は、俺より上です。ですが、具足隊を倒せるほどの攻撃力も持っていません。俺を一撃で殺すほどの攻撃力も持っていない」


「なるほどなあ。それでカンリのアジトはわからないのですか?」


「はっ、我らの力では、探しきれませんでした」


俺は桃井さんを見た。


「私達忍者隊も追っているようですが、どうしても見失うようです」


「なるほど、何か特殊な能力を持っているのか。すごいなあそんな連中が、まだいるのか」


「大殿は、嬉しそうに見えますが」


上杉が驚いた表情で俺に聞いて来た。


「そう見えますか。そうですね。凄い仲間がいるのがわかったので喜んでいるのですよ」


「えっ!?」


「ふふふ、カンリ一族も同じ日本人です。なら、力強い仲間でしょう。違いますか?」


「ふふ、そうですね」


上杉が笑った。


「清水!」


「はっ!!」


「俺にカンリ一族は任せてくれ」


「はっ!」


「清水は引き続き、和歌山城の包囲を頼む」


「はっ」


「それでなあ、もうじき家の娘が来る。娘に和歌山城の攻略を命じた。清水にはそのサポートも頼みたいんだ」


「わかりました。お任せ下さい」


「うん、頼んだ」


「ははーー」


「さて、俺はカンリ攻略の準備を始めますか」


両手を擦りあわせてほくほくした。

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