「では、行きましょうか」
そう言うと、桜木は普通に歩いて、堂々と小屋に近づいていく。
「えっ!? いいのか?」
あまりにも自然体で、友達の家にでも行く雰囲気なので、俺は慌てて後ろを追った。
きっと、羽柴軍と何か話しがついているのだろう。
「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!! さ、さ桜木だーーー!!!」
様子がおかしい。
桜木の姿を見つけた護衛達が慌てている。
「ききき、きさまーーあ!! 性懲りも無くまた来たのかーー!!」
警備の兵士達が騒ぎ出した。
次々と、かがり火に火が入ると、あたりの景色がオレンジ色に浮かびだした。まるで夕方の明るさだ。
「出会えーー!! 出会えーー!! 新政府軍の桜木が来たぞーー!!!」
「お、おい、桜木。話しがついているんじゃねえのか。なんだか物々しい雰囲気だぞ」
「話しなんかしませんよ。前回来たときに百人ぐらいぶっ飛ばして、無理矢理姫に会ったからそれで、慌てているのじゃないでしょうか」
「いやいや、まてまて、それで良く堂々と来られたもんだなあ。あいつらの目が充血して、待ち構えていたように見えるぞ」
「羽柴様ー! 奴が現れましたー!!」
「来るとは思っていたが、また一人で来たのか? どれだけ、自分に自信があるっちゅーんだ。なめられっぱなしにするなー。囲めーー!! 囲めーー!!」
「お、おいおい。桜木! すげー数だぞ! 大丈夫なのか?」
羽柴が手勢を連れて出て来た。
羽柴には初めて会ったが、身なりに気を使わないタイプなのか、ボサボサの髪にボロボロの服を着ている。
顔も垢で汚れて、真っ黒になっている。風呂嫌いなのかもしれない。
出っ歯で目のまわりに酷いクマが有りまるで、妖怪ネズミ男の様な男だ。俺も、豚顔で女に嫌われているが、あいつも女には嫌われていそうだ。
――可哀想に。
「おい、糞ザル!! てめーの目は節穴か! 二人居るだろうが、見えねえのかー」
うわあ、いつも丁寧な話し方の桜木が怒鳴ると、ギャップでこええー。
「てめーこそ、これが見えねーのか、八百人くらいは集めてあるぞ!」
「お前こそわかっているのか。いいか、この方こそ、アンナメーダーマン様だぞ」
「ひゃあ、はっはっはっ、何がアンナメーダーマンだ。ジャージを着たただのデブじゃねえか」
「なにーーっ、デブだとーー」
小屋から、女の声がした。
その声と共に、小屋の板が割れる音がして吹飛んだ。
「なっ!!!!!」
俺達を囲んでいる羽柴の兵士が驚いている。
どうやら、冴子さんは逃げる気になればいつでも逃げられたようだ。
「おおお、シュウ! 豚顔のシュウじゃ無いかーーー!!!」
冴子さんが、嬉しそうな顔をして俺を見つめている。
だが、顔はわからないはずだ。俺はフルフェースのヘルメットをかぶっている。
「いいえ、豚顔のシュウなどと言う方は知りません。私は正義の味方アンナメーダーマンです」
「きゃははは、お前の体から出ている金色の巨大な守護霊はシュウと同じ物じゃ。間違えようが無い!!」
あー駄目だ。誤魔化しきれないみたいだ。
桜木が、苦笑している。
やべー、桜木にシュウとバレてしまった。
「くそーー、これを狙っていたのか。かまわねえ、やっちまえーー!!」
これを、狙っていたのかって、なんのことだ?
「おおおおーーーーっ!!」
羽柴の掛け声で俺達を囲んでいた兵士達が襲いかかって来た。
兵士達は、桜木と冴子さんめがけて突進する。
兵士達の手には日本刀が握られている。
「うぎゃああああーーー」
桜木は、一人目の男から、刀を奪いとると次々斬り倒していく。
大量の血を吹き出しながら、羽柴の兵士がバタバタ倒れる。
冴子さんに襲いかかる兵士は、空中に高く飛ばされて地面に落ちて次々動かなくなった。
あっと言う間に数十人が、倒れている。
やばい、ありゃあ死んでいるぞ。このまま放置したら何人死ぬかわからない。
俺は蜂蜜さんを、細く兵士の数だけ伸ばした。
そして、兵士の首筋にきつい一撃を加えた。
「うぎゃあ!!」
叫び声を上げて、兵士達全員が音を立てて倒れた。
「なっ、なっ、なっ!!」
羽柴が、汚い顔をして驚いている。
「全くよう、あの二人と来たら、殺したらあかんというのになあ。殺されるといけねえから。眠ってもらったぜ!!」
「な、なんだ。お前は、何なんだー! す、凄すぎる」
「本当になあ。あの二人はよう、力加減を知らねえ。殺しすぎだっちゅうの、驚いちまうぜ」
「ち、違う。お前だよ! 何をしたんだ。五百人以上が一瞬で気絶しちまった」
「お、俺? 何を言っているんだ。俺なんか何にも凄くねえ。ただ気絶させただけだ」
「ぶっ!!」
桜木が吹き出した。
「さ、桜木。この程度凄くねえよな」
「はははは、そ、そうですね。アンナメーダーマンにとっては簡単な事でしょう」
「くそーー!! 清正ーー!! 正則ーー!! いつも、もっと強ー奴とやりてーと言っていただろう。ぶちころせーー!!」
羽柴の後ろに、筋肉隆々の青年が二人、織田家自慢の三間槍を片手で持って控えている。
左馬之助並には、やりそうだ。
だが、二人は尻込みして顔を振っている。
まあ、桜木と冴子さんの、あの、暴れっぷりを見たらそうなるだろうな。
「なあ、羽柴さんよう。俺達は、冴子さんを助けに来ただけだ。大人しく帰るから許しちゃあくれねえか」
「わああー!!」
俺は、ちょっと素早く羽柴の横に動いて、耳元に話しかけた。
羽柴はペタンと腰を抜かしたように地面に尻餅をついた。
そして、コクコクうなずいている。
「冴子さーん、帰ってもいいってよ。一緒に帰りましょう」
「はーー、なんで私が、お前みたいな醜い豚顔と帰らなくちゃあならないんだ! うぬぼれるな!」
「えっ! 運命の人って……」
「はーっ、気持ちわりーは! 豚はしゃべるな! 桜木帰るぞ」
「は、はい」
桜木と、冴子さんは、俺を置いてさっさと帰ってしまった。
「えっ!?」
羽柴が驚いている。
いやいや、俺が「えっ!?」ですよ。
どういうこと?
あーーっ、やなことを思い出してしまった。